士師(読み)しし(英語表記)šophēヘブライ語

精選版 日本国語大辞典 「士師」の意味・読み・例文・類語

し‐し【士師】

〘名〙
① 中国、周代の官名の一つ。刑罰の任にあたった役人。士吏。司法官
※文明本節用集(室町中)「柳下恵為士師(シシ)之黜」 〔周礼‐秋官・士師〕
② (裁判人・審判者の意) 王国成立以前の旧約聖書時代に、イスラエル宗教を維持し、敵の圧迫からイスラエルの民族を救うため、神から命じられた者。預言者的な人物。→士師記
※引照旧新約全書(1904)撒母耳前書「サムエル年老て其子をイスラエルの士師(〈注〉サバキヅカサ)となす」

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デジタル大辞泉 「士師」の意味・読み・例文・類語

し‐し【士師】

古代中国で、刑罰の任に当たった役人。
王制以前の古代イスラエル民族の指導者・英雄。旧約聖書の士師記にその名が記されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「士師」の意味・わかりやすい解説

士師
しし
šophē ヘブライ語

古代イスラエルにおけるカリスマ的指導者(神の賜物(カリスマ)としての特別な力を与えられていると共同体成員によって信じられている人物)であり、通常「裁(さば)き司(づかさ)」judgeとよばれる。彼らは、紀元前12~前11世紀の間、いわゆる士師時代に、イスラエル共同体内に起こる軍事、民事および刑事などの諸問題を裁いた。しかもこの職務は、王国制度下の王とは異なって、恒常的・世襲的なものでなく、原則として臨時的・個人的なものであった。『旧約聖書』「士師記」によれば、英雄的解放者としての性格を有する大士師と、裁判人・仲裁者として性格づけされる小士師とが区別される。オテニエル(3章7~11節)、エホデ(3章12~30節)、デボラ(4~5章)、ギデオン(6章1節~8章32節)、エフタ(10章6節~12章7節)およびサムソン(13~16章)などは前者に属し、シャムガル(3章31節)、トラ(10章1~2節)、ヤイル(10章3~5節)、イブザン(12章8~10節)、エロン(12章11~12節)およびアブドン(12章13~15節)などは後者に属する。『旧約聖書』「ルツ記」には、陪審員のような機能を果たす士師(長老たち)についての記述がある(4章)。

[定形日佐雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「士師」の意味・わかりやすい解説

士師 (しし)
Judges

ヘブライ語shōphēṭの訳語で,〈さばきつかさ〉ともいう。カナン定着後,前11世紀後半に王政を樹立するまで,イスラエルの部族連合を率いたカリスマ的指導者。〈救助者〉とも呼ばれ,外敵からイスラエルを救うと,終生士師としてイスラエルを〈さばいた〉。この場合,〈さばく〉とは〈支配する〉の同義語。しかし,その権威は相続されなかった。小士師が律法告知者であるという仮説は疑問である。
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百科事典マイペディア 「士師」の意味・わかりやすい解説

士師【しし】

英語ではJudges。〈さばきつかさ〉とも。イスラエル人(古代ユダヤ人)がエジプトを脱出し,カナンの地に入ってから前11世紀後半に王国を建設するまで部族連合を率いた指導者の称。デボラ,サムエル,エフタ,ギデオンなど。その活動を中心に記したのが旧約聖書の《士師記》。
→関連項目サムソンとデリラ

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「士師」の解説

士師(しし)
shōphēṭ[ヘブライ],Judge[英]

ヨシュアの死から王国成立までの間,イスラエルの民を軍事的・政治的に導いたカリスマ的指導者。「裁く」という動詞の派生語なので「さばきつかさ」と訳されることもある。彼らの生涯と事績を記したのが旧約聖書の「士師記」で,そこにはデボラ,ギデオン,サムソンなど12人があげられている。王国成立後,彼らの役割は王と預言者に受け継がれた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「士師」の意味・わかりやすい解説

士師
しし
shofet; judge

「裁き司」ともいう。神から特別な恩恵と霊力を受け,イスラエル民族を外敵から救った古代 (前 1200~1070) の英雄たち。原語は裁く者の意味であるが,実際には軍事的,政治的指導者であり,いくつかの支族を率いることはあったが,民族全体を従えるまでにはいたらなかった。旧約聖書の『士師記』には,ギデオン,サムソンら 12人の士師が数えられている。

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世界大百科事典(旧版)内の士師の言及

【イスラエル】より

…この時代に,イスラエル人はヤハウェ信仰による共同体意識を保持していたが,政治的統一組織は持たなかった。各部族は強い自治意識を持ち,外敵に攻められた危急の場合にのみ,士師と呼ばれるカリスマ的軍事指導者の下に集合して地方的部族連合を形成したが,士師の支配権がその子孫に継承されることは認めなかった。しかし,海岸地方に定着した海洋民族フィリスティア人(ペリシテ人)が,内陸に向かって勢力を拡大してくると,もはやこの種の緩やかな部族連合では対抗できなくなった。…

【士師記】より

…《ヨシュア記》と同じテーマを扱っているが,内容はだいぶ違う。第2部は2章6節から16章までで,士師たちの業績について語る。一般にオテニエル,エホデ,デボラ,バラク,ギデオン(エルバアル),エフタ,サムソンの7人を,彼らの英雄的行為のくわしい記録のゆえに〈大士師〉と呼び,わずかな記録しか持たない5人の〈小士師〉と区別するが,この区別が本質的なものかどうかについては学説が分かれている。…

【預言者】より

…モーセに預言者的要素が強いことは彼についての旧約聖書の記述にさかのぼり,歴史的に考えてもある程度にこれを認めうる。モーセ時代に続くいわゆる士師の時代に輩出した〈カリスマ的指導者〉士師に預言者的要素が強いことも当然であるが,そのような預言者的伝統を受けて士師時代の終り,王国時代の初めに活動したサムエルに狭義の預言者の最初の活動を見いだしたい。預言者はイスラエルにおいて,その歴史の危機の時代に一回一回に登場し,しかもその危機は士師の場合のように局地的なものでなく,国家の政治的危機を前提とする。…

※「士師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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