夏樹静子(読み)ナツキシズコ

デジタル大辞泉 「夏樹静子」の意味・読み・例文・類語

なつき‐しずこ〔‐しづこ〕【夏樹静子】

[1938~2016]推理作家。東京の生まれ。本姓出光いでみつ旧姓五十嵐。女性の繊細な心理描写と大胆なトリックを駆使した本格物に優れる。作品に「蒸発」「天使が消えていく」「Wの悲劇ほか。「妻たちの欲望」などのノンフィクションもある。平成19年(2007)功績により日本ミステリー文学大賞受賞

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夏樹静子」の意味・わかりやすい解説

夏樹静子
なつきしずこ
(1938―2016)

推理作家。本名出光(いでみつ)静子。東京生まれ。慶応義塾大学英文科卒業。学生時代から推理小説に手を染め、1957年(昭和32)NHKテレビの推理番組「私だけが知っている」の台本を、鮎川哲也、笹沢左保(さほ)などと執筆。1960年五十嵐(いがらし)静子名の『すれ違った死』が江戸川乱歩賞候補となる。1962年夏樹しのぶ名で「ガラスの鎖」を『宝石』に発表。1963年結婚、以後5年間主婦業に専念。1970年『天使が消えていく』を発表、江戸川乱歩賞と日本推理作家協会賞の候補となる。1972年『蒸発』で日本推理作家協会賞を受賞し、作家としての地位を確立した。1978年刊行の『第三の女』はフランス語訳され(『La promesse de l'ombre』)、1989年(平成1)冒険小説大賞を受賞。トリック構成と女性心理や母性本能の微妙な描写に優れた本格派作家で、湖畔別荘で起きた殺人事件を描く『Wの悲劇』(1982)はエラリークイーンの三部作を意識した野心的な試みであった。同作品は、1984年澤井信一郎(1938―2021)監督で映画化された。以後の作品には『訃報(ふほう)は午後二時に届く』(1983)、『ドーム――終末への序曲』上下(1986)、『ペルソナ・ノン・グラータ』(1989)、『白愁のとき』(1992)、『女優X――伊沢蘭奢(らんじゃ)の生涯』(1993)、『茉莉子』(1999)、『量刑』(2001)などがある。

[厚木 淳]

『『遠い約束』(1977・文芸春秋)』『『第三の女』(1978・集英社)』『『遥かな坂』上下(1979・毎日新聞社)』『『夏樹静子作品集』全10巻(1982・講談社)』『『Wの悲劇』(1982・光文社)』『『訃報は午後二時に届く』(1983・文芸春秋)』『『わが郷愁のマリアンヌ』上下(1986・角川書店)』『『ドーム――終末への序曲』上下(1986・角川書店)』『『ペルソナ・ノン・グラータ』(1989・文芸春秋)』『『白愁のとき』(1992・角川書店)』『『女優X――伊沢蘭奢の生涯』(1993・文芸春秋)』『『椅子がこわい――私の腰痛放浪記』(1997・文芸春秋)』『『茉莉子』(1999・中央公論社)』『『量刑』(2001・光文社)』『『天使が消えていく』(講談社文庫)』『『蒸発――ある愛の終り』(角川文庫)』『小松左京著『机上の遭遇』(集英社文庫)』『香山二三郎著『日本ミステリー最前線(1) 1983~1988』(双葉文庫)』

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知恵蔵mini 「夏樹静子」の解説

夏樹静子

日本の小説家。1938年、東京都生まれ。本名は出光静子(いでみつ・しずこ)。日本の女性推理小説家の草分け的な存在。慶応大文学部在学中の1960年に執筆した「すれ違った死」が江戸川乱歩賞候補になり、それが縁でNHKの推理ドラマ「私だけが知っている」の脚本を担当。63年に結婚し、福岡に転居。69年、福岡を舞台にした「天使が消えていく」で再び江戸川乱歩賞候補となり再注目され、本格的に文筆活動を開始した。73年「蒸発」で日本推理作家協会賞を受賞。89年、フランス語訳の「第三の女」でフランスのロマン・アバンチュール大賞を受賞。2007年には日本ミステリー文学大賞を女性で初めて受賞。薬師丸ひろ子主演で映画化された「Wの悲劇」はヒットを記録した。16年3月19日、心不全のため死去。享年77。

(2016-3-23)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「夏樹静子」の解説

夏樹静子 なつき-しずこ

1938- 昭和後期-平成時代の推理作家。
昭和13年12月21日生まれ。48年「蒸発」で日本推理作家協会賞を受賞。繊細な心理描写と大胆なトリックの作品で知られる。「妻たちの欲望」などのノンフィクションもある。平成19年日本ミステリー文学大賞。東京出身。慶大卒。本名は出光静子。旧姓は五十嵐。作品はほかに「天使が消えていく」「Wの悲劇」「白愁のとき」など。

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