夏祭浪花鑑(読み)なつまつりなにわかがみ

精選版 日本国語大辞典 「夏祭浪花鑑」の意味・読み・例文・類語

なつまつりなにわかがみ ‥なにはかがみ【夏祭浪花鑑】

浄瑠璃世話物九段並木千柳三好松洛竹田小出雲合作。延享二年(一七四五大坂竹本座初演前年、堺の魚屋が大坂長町裏で人を殺した事件題材にとり、団七九郎兵衛、釣船三婦(さぶ)一寸徳兵衛など侠客の達引を描いたもの。団七が舅(しゅうと)義平次を殺す「長町裏の場」が有名。

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デジタル大辞泉 「夏祭浪花鑑」の意味・読み・例文・類語

なつまつりなにわかがみ〔なつまつりなにはかがみ〕【夏祭浪花鑑】

浄瑠璃。世話物。九段。並木千柳宗輔そうすけ)・三好松洛・竹田小出雲の合作。延享2年(1745)大坂竹本座初演。団七九郎兵衛・釣船三婦さぶ・一寸徳兵衛ら三人の侠客きょうかく達引たてひき中心にした、季節感あふれる夏狂言

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夏祭浪花鑑」の意味・わかりやすい解説

夏祭浪花鑑
なつまつりなにわかがみ

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。九段。並木千柳(せんりゅう)・三好松洛(みよししょうらく)・竹田小出雲(こいずも)合作。通称「夏祭」。1745年(延享2)7月、大坂・竹本座初演。1698年(元禄11)に大坂で初世片岡仁左衛門(にざえもん)が演じた歌舞伎(かぶき)狂言『宿無団七(やどなしだんしち)』の役名を使い、団七九郎兵衛(くろべえ)・釣船三婦(つりぶねのさぶ)・一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)という侠客(きょうかく)3人の達引(たてひき)に、堺(さかい)の魚売りが長町裏(ながまちうら)で人殺しをした事件(延享1)を絡ませて脚色したもの。大坂の男達(おとこだて)団七九郎兵衛は、恩人玉島兵太夫(たましまひょうだゆう)の子息磯之丞(いそのじよう)とその愛人の遊女琴浦(ことうら)を守るため、女房お梶(かじ)や先輩の釣船三婦と協力して奔走し、琴浦に横恋慕する大島佐賀右衛門(さがえもん)を懲らしめ、大島の後ろ盾、一寸徳兵衛と争うが、徳兵衛も玉島家に恩を受けた者とわかり、兄弟分になる。三婦にかくまわれていた磯之丞は徳兵衛女房お辰(たつ)が預かることになり、琴浦はお梶の父三河屋義平次(ぎへいじ)に連れ出される。強欲な義平次は琴浦を大島に渡して金にしようとしたのだが、それに気づいた団七は長町裏で追い付き、義平次と争い、ついに彼を殺してしまう。

 世話浄瑠璃として最初の大作九段物で、人形遣い吉田文三郎(ぶんざぶろう)の考案で初めて人形に帷子(かたびら)を着せ、長町裏の場で本水(ほんみず)・本泥(ほんどろ)を使った画期的な作品。初演の翌月には歌舞伎に移され、代表的な夏狂言として今日に伝わった。まれに四段目「道具屋」や、徳兵衛と三婦が団七の罪を救おうと苦心する八段目「田島町団七内」が上演されるが、有名なのは団七・徳兵衛の達引を描いた三段目「住吉(すみよし)」、お辰が顔に焼きごてを当てて女の意気地を見せる六段目「三婦内」、団七が舅(しゅうと)を殺す「長町裏」の三場で、とくに「長町裏」は祭囃子(まつりばやし)を背景に裸の団七がいくつかの美しいポーズを見せる立回りが優れ、「殺し場」の傑作。

[松井俊諭]

『乙葉弘校注『日本古典文学大系51 浄瑠璃集 上』(1960・岩波書店)』『13世片岡仁左衛門著『夏祭と伊勢音頭』(1983・向陽書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「夏祭浪花鑑」の意味・わかりやすい解説

夏祭浪花鑑 (なつまつりなにわかがみ)

人形浄瑠璃。世話物。9段。並木千柳(並木宗輔),三好松洛,竹田小出雲合作。1745年(延享2)7月大坂竹本座初演。団七とお辰の人形の初演者は初世吉田文三郎。初演時の番付の口上書に〈魚売団七高津祭宵宮長町裏にて舅を殺し候は四拾年以前の義……始終の実説を承合此度新作に取組〉とある。ただし初世片岡仁左衛門が大坂の歌舞伎で宿無団七を演じたのは1698年(元禄11),《宿無団七七年忌》を演じたのは1701年であるゆえ,口上に事件が40年以前とあるのは,黒木勘蔵のいうごとく50年以前の誤りであろう。《摂陽奇観》はほかに,1744年冬に堺の魚売りが長町裏で人を殺し,翌春露顕して処刑された話を,実説として掲げる。男達(おとこだて)団七九郎兵衛は,恩を受けた玉島兵太夫の子息磯之丞とその愛人琴浦を守るために,欲に目がくれて琴浦をかどわかそうとした舅義平次を,心ならずも長町裏で殺す。団七と盟約を交わした一寸(いつすん)徳兵衛と釣船三婦(さぶ)は,団七に親殺しの刑罰を免れさせるために心を砕くが,磯之丞の帰参を見届けて団七は縄にかかる。大坂の夏の風俗を背景に団七と徳兵衛の達引(たてひき)を見せる〈住吉〉,徳兵衛の女房お辰がみずから顔に焼鉄を当てて性根を見せる〈三婦内〉,祭りの興奮とうらはらの陰惨な舅殺しの泥場〈長町裏〉が名高い。人形浄瑠璃全盛期の作品で,初演時大好評を得,同年中に京および大坂三座の歌舞伎で上演された。もともと歌舞伎的傾向の強い作で,名人吉田文三郎が人形に初めて帷子を着せ,〈長町裏〉で本水本泥を使用するなど,人形の面に工夫が凝らされた。浄瑠璃としては,近年上演回数の少ない〈九郎兵衛内〉が聴きどころ。歌舞伎《宿無団七時雨傘(しぐれのからかさ)》(1768)は,本作の影響下にはあるが,別系統の話である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夏祭浪花鑑」の意味・わかりやすい解説

夏祭浪花鑑
なつまつりなにわかがみ

浄瑠璃。世話物。9段。並木千柳 (→並木宗輔 ) ,三好松洛,2世竹田出雲合作。延享2 (1745) 年大坂竹本座初演。浄瑠璃全盛期の作品で,大好評を博し同年中に歌舞伎でも上演された。初演時,1世吉田文三郎が団七とお辰の人形に初めて帷子 (かたびら) を着せて遣い,また「長町裏」の段では本水・本泥を使用するなど,人形演出に工夫を凝らした。今日でも「住吉鳥居前」「釣船三婦内」「長町裏」がしばしば上演される。大阪高津神社の祭礼を背景とした,典型的な関西の夏芝居。

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百科事典マイペディア 「夏祭浪花鑑」の意味・わかりやすい解説

夏祭浪花鑑【なつまつりなにわかがみ】

浄瑠璃,またこれに基づく歌舞伎劇。並木千柳,三好松洛,竹田小出雲合作。1745年初演。大坂の侠客(きょうかく)団七九郎兵衛が恩人玉島家のため,先輩の釣船三婦(さぶ)や兄弟分の一寸徳兵衛と協力して尽くす話。〈住吉〉〈三婦内〉〈長町裏〉の3場は,夏芝居として有名。
→関連項目並木宗輔丸本物

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「夏祭浪花鑑」の解説

夏祭浪花鑑
なつまつり なにわかがみ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
並木千柳 ほか
補作者
奈河七五三(1代) ほか
初演
延享2.8(京・喜世三郎座)

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世界大百科事典(旧版)内の夏祭浪花鑑の言及

【吉田文三郎】より

…人形のからくりや演出などのくふうにも才があり,3人遣いの完成に大きく貢献したほか,演出にも意欲をみせた。《夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)》で初めて人形に帷子(かたびら)を着せ,立回りに本泥水を使い,《義経千本桜》の佐藤忠信の人形に竹本政太夫の源氏車の紋を用いるなど,その演出は現在も踏襲されている。48年(寛延1)の《仮名手本忠臣蔵》では櫓下(やぐらした)の竹本此太夫と舞台演出の問題で衝突,此太夫は竹本座を退座して豊竹座に移ったため東風西風の浄瑠璃の曲風が乱れる因をなした。…

※「夏祭浪花鑑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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