六訂版 家庭医学大全科 「多発性筋炎、皮膚筋炎」の解説
多発性筋炎、皮膚筋炎
たはつせいきんえん、ひふきんえん
Polymyositis, Dermatomyositis
(膠原病と原因不明の全身疾患)
どんな病気か
多発性筋炎(PM)は、筋肉の障害(炎症や変性)により、筋肉に力が入らなくなったり、筋肉の痛みを感じたりする病気です。また、特徴的な皮疹(ゴットロン徴候やヘリオトロープ疹など)がみられる場合には、皮膚筋炎(DM)と呼ばれます。
多発性筋炎は
原因は何か
免疫の異常(自己免疫異常=病原体などから自分の体を守る「免疫」のバランスが崩れ、健康人では認められない、自分の体の成分に対する抗体を作ってしまう異常)、ウイルスなどの感染、悪性腫瘍、薬剤の影響、遺伝的素因などとの関連が考えられていますが、その原因はまだわかっていません。
症状の現れ方
筋肉の障害による筋力低下が大多数の患者さんにみられます。さらに、筋肉以外の症状(皮膚や内臓などの障害)が認められることもあります(図1)。
①筋肉の症状
筋肉が障害され、疲れやすくなったり、力が入らなくなったり(筋力低下)します。しかし、ゆっくりと発症し、はじめは自覚症状に気づかない場合もあります。一般に、躯幹に近い部分の筋肉(
②筋肉以外の症状
・発疹/
・関節痛・関節炎/関節リウマチのような破壊・変形はまれです。
・レイノー現象/寒冷時に手指が白くなり、じんじんしびれたりする症状
・呼吸器症状/
・心症状/不整脈、心不全など
・悪性腫瘍の合併/とくに高齢者のDMで注意が必要です。
・全身症状/発熱、全身
検査と診断
診断は、①筋力低下、②特徴的な皮膚症状、③血清筋原性酵素の増加(クレアチンキナーゼ(CK)、アルドラーゼ、LDH、AST(GOT)など、筋肉内に含まれる酵素が筋肉の破壊により血液中に放出され増加)、④特徴的な自己抗体(抗Jo1抗体がPM/DMの30%で陽性)の検出、⑤筋電図(筋肉の機能を電気的に調べる検査)の特徴的変化、⑥筋生検(筋肉の一部を採取し、顕微鏡で調べる検査)の特徴的組織所見(炎症性細胞の
全身の倦怠感が認められ、血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)、LDHなどが上昇するため、肝炎、肝機能障害と誤って診断されている場合もありますが、筋障害を反映する血清CK値の測定により区別されます。
治療の方法
①一般的治療
発症直後(急性期)は、できるだけ安静にして筋肉に負担をかけないようにします。筋力の回復、関節の
一般に、筋原性酵素(血清CK値)が薬物療法により正常値に低下し、順調な筋力の改善を確認してから、徐々に開始します。食事は高蛋白、高カロリー食で消化のよいものをとるようにします。
②薬物療法
本症の基本治療は薬物療法です。副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が主に使われ、多くの患者さん(70~80%)で効果がみられます。
大量ステロイド療法(体重1㎏あたりプレドニゾロン換算で1㎎/日)が2~4週間行われ、筋力の回復や検査所見の改善をみながらゆっくりと(数カ月かけて)、最少必要量(維持量)まで減量されます。急速な減量は再発を来すことがあり、望ましくありません。筋力の回復は、発病後の治療開始が早い場合ほどよいとされています。
しかし、ステロイドが無効であったり、その副作用が出てしまう場合には、免疫抑制薬が投与されることもあります。また、これらの治療でも効果が得られない時は、
③生命予後
悪性腫瘍、感染症、心肺合併症(物ののみ込み(
現在の最大の問題は、急激に進行し、呼吸困難を来す「急速進行性間質性(かんしつせい)肺炎」です。生命に関わる合併症ですが、その原因は不明で、治療法も確立されていません。
病気に気づいたらどうする
①受診する診療科は
PM/DMは筋肉ばかりでなく、他の臓器も障害されることがあり、どの診療科が最適と簡単には決められません。一般に、膠原病・自己免疫疾患のひとつとしてリウマチ(膠原病・免疫)内科、筋肉の病気として神経内科、皮膚症状(発疹)を中心に皮膚科を受診される患者さんが大多数です。障害された臓器を中心に全身を総合的に診療できる専門医に診てもらうことが大切です。
②生活での注意
病気を悪化させるきっかけは心身のストレス(DMでの紫外線
平形 道人
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報