大内家壁書(読み)おおうちけかべがき

改訂新版 世界大百科事典 「大内家壁書」の意味・わかりやすい解説

大内家壁書 (おおうちけかべがき)

周防を本拠とする守護大名大内氏家法。《大内家法》《大内家掟書》などともいう。一時の制定ではなく既出の法令をのちに編集した特異な形式。1冊。編者は不明だが大内氏の国政に近く位置した者の手で,所収法令中最後の発令年1495年(明応4)をさして下らぬ時期に編集されたものであろう。壁書は事書に記して法令の要旨を示すのが一般であるが,この諸法令は必ずしもこれに該当しない。《群書類従》本によるとその諸法令は直状形式2通,奉書形式44通,記録形式3通,請書1通であるが,奉書形式のうち〈壁書如件〉の書止めのものが34通で全体の大半を占めるところから壁書の名称が生じたのであろう。内容は椀飯(おうばん)や出行時供奉衆など大内氏自体の儀礼的規定御家人知行地・養子・参洛供奉などの軍役関係,尊崇厚い寺社保護法令など,領主側を保護ないし規制する規定が多い。領民支配の法令は,商業・経済,交通,年貢公事関係を含むが,比較的少ない。他の分国法と共通した性質を帯びるが,家臣統制面では寄親寄子制,家臣知行権制限,私盟の禁などの条項を欠き,領民支配面では隠田・用水・入会地などに関する規定がなく,刑罰面では連座法が明確でなく,また下人・奴婢の身分規定がないなどの点は特色。明らかに鎌倉幕府法の条文に依拠した法令の存在も注目される。これらの特徴は大内氏が社会経済発展の中間的な中国地方西端に位置し,諸分国法中で成立年代が早く,当時大内氏の権力守護出自の大名として安定していたなどのことと関係があろう。本書の伝本は(1)内閣文庫本系,(2)前田本系,(3)永田本系,(4)布施本系があり,(1)と(2)は近い関係にあり原本に近く,(3)はこれに多くを追補して遅れて成立し,(4)は法令数少なく(3)よりさらに遅れて編集。《群書類従》本は(1),佐藤・池内・百瀬編《中世法制史料集》三は(1)~(4)を対校し年代順に配列し直し巻末解題等を付す。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大内家壁書」の意味・わかりやすい解説

大内家壁書
おおうちけかべがき

室町時代の大名大内氏の法令集。中国地方西部から九州北部にかけて一大守護領国を形成した大内氏が個別に発布した法令の一部をのちに編集したもので、大内氏掟書(おきてがき)などの異称がある。1439年(永享11)から95年(明応4)までの法令を収めた原形が、95年8月以降遅くない時期に大内氏自身によって編集されたらしい。このほか、大内氏滅亡後に大幅に増補されたもの、16世紀の法令を中心とするものなど幾系列かの伝本がある。

 原形では、家臣団内部の統制、領主相互間の利害調整の規定、交通・流通の規制や軍事動員、山口の町の治安など、守護としての領国支配に関する規定は多いが、農民支配に関する規定は少ない。刊本に『中世法制史料集 第3巻』ほかがある。

[山田 渉]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「大内家壁書」の意味・わかりやすい解説

大内家壁書【おおうちけかべがき】

大内氏の家法。分国法の一つ。異本が多いが《群書類従》に1439年―1495年間の法令50項を奉書形式などで収める。内容は家人や百姓の心得,商人の統制,社寺や儀式についての法令などで,中世大名研究の好史料。
→関連項目浦役大内氏

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「大内家壁書」の解説

大内家壁書
おおうちけかべがき

「大内氏掟書」とも。中国地方の守護大名大内氏の家法。条文・条数は伝本によりかなり異なり,体系的な法典として発布されたものではなく,個別に出された法令・命令を,のちに国政上の基準資料の収集を主目的として編纂したものとみられる。諸本では最も古いかたちを伝えるとされる前田本系に収められた法令の発布年代は1439年(永享11)から95年(明応4)に及ぶ。おそらく95年をそれほど下らない時期に編纂されたと推測される。他の諸本には,追補のかたちをとったもののほか,独立に編纂されたと思われるものもある。法令の内容は,家中の儀礼的規定・軍役関係・寺社保護令などが主で,年貢など経済関係のものは比較的少ない。「中世法制史料集」所収。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「大内家壁書」の解説

大内家壁書
おおうちけかべがき

戦国時代,大内氏の分国法
大内氏掟書ともいう。1439〜95年にかけての法令を集めたもの。壁書とは壁や門などに条文を掲げて,公衆に示したことに由来する。教弘(6項),政弘(40項),義興(4項)の3代に出された50項目の法令を収録,他の分国法のように法典としてのまとまりはない。分国統治に関する心得,武士・農民・商人の統制に関するものなど,家臣や城下町山口の取締り規定が多い。守護大名の政治・社会を知るうえの好史料。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大内家壁書」の意味・わかりやすい解説

大内家壁書
おおうちけかべがき

『大内家諸掟留書』『大内氏掟書』ともいう。家法。1巻。室町時代後期の守護大名大内氏が制定した法令集。現存するものは長禄3 (1459) ~明応4 (95) 年の間に発布された 50項目あまりを収録したもの。殿中における武士,山口の城下町内における諸人の取締り規定が大半である。『中世法制史料集』所収。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の大内家壁書の言及

【壁書】より

…現存する最も古い壁書といわれる807年(大同2)の壁書も律令官人の着座に関する規定であり,幕府・戦国大名においてもこのような諸機関の規則伝達手段として広くもちいられた。そして,《大内家壁書》の法令に多くみられるような,その末尾を〈仍壁書如件〉という文言で結ぶ法令の様式をうみだした。いっぽうこの通達方式は,その役割を拡大し,一般公衆への法令伝達としてももちいられるようになった。…

※「大内家壁書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android