大学の管理事務部門(読み)だいがくのかんりじむぶもん

大学事典 「大学の管理事務部門」の解説

大学の管理事務部門
だいがくのかんりじむぶもん

大学の管理運営(日本)にかかわる事務を担当する部門を指し,事務職員を中心に構成される。大学の内部のほか設置者にもあり,私立大学は学校法人,公立大学は地方自治体,かつての国立大学は国(文部科学省),法人化された国公立大学では国立(公立)大学法人がそれにあたるが,ここでは大学内部をおもにあつかう。

[歴史]

大学の主役は教員と学生であるが,中世大学には事務職員の元祖にあたる,ビードル(事務長),ノータロ(書記),レケプトールないしマッサリウス(出納係)が雇われていた。日本では1877年(明治10)の東京大学職制に「長 総理の命を受け一学部の事務を幹理す」,「書記 各庶務に従事す」とあり,86年の帝国大学令には職員として「書記官 奏任」と「書記 判任」があげられた。その職務は1893年の帝国大学官制に「書記官は総長の命を承け庶務会計掌理す」「書記は上官の命を承け庶務会計に従事す」とされ,定員は前者専任1人,後者は帝国大学と分科大学(学部)を通計して専任52人であった。第2次世界大戦後は学校教育法(1947年)に「大学には事務職員(日本)を置かなければならない」とあり,大学設置基準(1956年)では,大学は「その事務を処理するため,専任の職員を置く適当な事務組織(日本)を設けるものとする」「学生の厚生補導(日本)を行うため,専任の職員を置く適当な組織を設けるものとする」とされた。厚生補導とは学生に対する援助・助言・指導を指す。内容は時期により同じではないが,1951年(昭和26)の学徒厚生審議会答申には活動領域として奨学対策,厚生援護対策,就職対策,保健対策,厚生補導対策があげられた。

事例

私立大学の事例として三つの小規模大学をあげる。津田塾大学(入学定員690人)の管理事務部門は,それまでは大学事務局(日本)に5課(総務,管理,経理,教務,学生生活)がおかれたが,1997年(平成9)に2課(企画広報,情報サービス)が設置され,2000年度に津田梅子記念交流館,2001年度には国際センター,2008年度にはその開設にともない千駄ヶ谷キャンパス事務室,2017年には戦略推進本部が設置された。清泉女子大学(入学定員390人)では,学校法人に理事長室があり,大学には学長室のほか,事務局(総務,人事,管理,財務の4課),学務部(学務課),学生部(学生,就職の2課),入試部(入試課)と,6センター(ウエルネス,情報環境,カトリック,ボランティア,生涯学習,国際交流)の事務室がある。麗澤大学(入学定員600人)では管理事務部門が法人と大学にわかれ,法人本部に総務部(総務,人事,施設,企画広報の4課および健康支援センター)財務(財務,経理の2課)が,大学事務局には学務部と学事部がおかれた。2017年には大学事務局の部が廃止され,9グループ(教育研究支援,大学院,教務,学生支援,キャリア支援,地域連携・オープンカレッジ,図書館事務,国際交流,入試広報)と6室(学長,IR推進,学校教育研究科設置準備,情報システム,障がい学生支援室準備,麗澤校友会)になった。

 国立大学は,小樽商科大学における変遷を『小樽商科大学百年史』に沿って述べる。発足時(1949年)の管理事務部門は事務局(庶務,会計の2課),学生部(補導,厚生の2課)教務(教務課)であった。2001年に事務局を一元化する大規模な改組があり,事務局(総務,会計,教務,学生,施設の5課および入学主幹)と,課を横断する組織(企画,地域連携推進,国際交流事務の3室)がおかれた。2016年にはこの区分を廃して事務局に7課(教務,学生支援,学術情報,総務,企画戦略,会計,施設)をおいた。入学定員の増加(発足時の140人から515人へ)と,大学改革,大学評価,地域連携,国際化などの新しい課題に対応した措置といえる。法人化によって,学長権限の強化と事務職員の活性化がなされたという。国立大学法人法では,国立大学の設置と運営など七つが法人の業務とされるが,法人と大学の管理事務部門は一体的に運用されている。

[多様な組織編成]

管理事務部門の基本的な業務は各大学に共通であろうが,組織編成はさまざまで,私立大学には学校法人と大学の管理事務部門が一体化した事例と分離した事例がみられた。組織編成は国や時代によっても異なる。一つは教員との役割分担で,たとえば入学者選抜は日本では教員が行うが,アメリカでは入学者選抜室(アメリカ)(admissions office)の事務職員が行う。時代による差異として,国立大学の管理事務部門にも変遷がみられた。近年の日本では学長を中心とした大学経営が叫ばれ,学長室,戦略室,IR室などが設置されて,事務職員にも経営的思考と能力開発による高度化・専門化がもとめられている。
著者: 塚原修一

参考文献: 山本眞一『新版 大学事務職員のための高等教育システム論』東信堂,2012.

参考文献: 大学行政管理学会大学事務組織研究会『大学事務組織の強化書』学校経理研究会,2014.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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