天之御中主神(読み)あめのみなかぬしのかみ

朝日日本歴史人物事典 「天之御中主神」の解説

天之御中主神

古事記』の冒頭,天地のはじめのとき,高天原で最初に出現した神。天の中央に存在して支配する神の意。天照大御神出現以前の高天原の至高神として『古事記』の神体系の頂点に位置する。『日本書紀』では天御中主尊と表記され,6異伝のうちのひとつの別伝として記されるのみ。ほかにも『風土記』『続日本紀』『古語拾遺』や,『新唐書』東夷伝・日本,『宋史』外国伝・日本国などの中国の文献にもその神名は記載されるが,いずれもこの神の神話,伝承を伝えず,祭祀,信仰痕跡がみられない。信仰によってではなく,思弁によって生まれた神であろう。この神の成立には,中国における天中央に居す至高神――北極星神格が関与したものと考えられる。北極星の神格は,天皇大帝とも称呼されており,この名が日本の天皇号の起こりとなったことは早くから指摘されている。この天皇大帝の神格が,天之御中主神の成立には深くかかわっていよう。<参考文献>広畑輔雄『記紀神話研究』,福永光司ほか『道教古代天皇制』,寺田恵子「天之御中主神の神名をめぐって」(古事記学会編『古事記年報』25号)

(寺田恵子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「天之御中主神」の意味・わかりやすい解説

天之御中主神
あめのみなかぬしのかみ

『古事記』の神々のなかで最初に出現した神。別天神(ことあまつかみ)のことである。高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、神産巣日神(かみむすびのかみ)とともに造化の三神ともいわれ、天の中心にあって天空を主宰している神の意。しかし、『延喜式』神名帳にはこの神の名や神社名はなく、祖神とした氏族もほとんどないところからすると、実際に信仰された神ではなく、観念的につくられた神である。おそらくは、中国の天一神(てんいちじん)などを発想の原点にして、太陽神としての天照大神(あまてらすおおみかみ)から抽出してつくられたものであろう。多くの神々、とくに高御産巣日神と神産巣日神を統合する役割を担っている。『日本書紀』では一書(異伝)に出ているのみである。

[守屋俊彦]

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