中国近世の宋明(そうみん)性理学における重要な概念。朱子学と陽明学では論理構成が異なるが、共通しているのは、天から命令的に賦与された普遍性を天理という。とくに人間の場合は性という。この性は天理であるがゆえに善である(性即理=性善説)。人間が本来固有する自己救済能力をいう。人間の気質と肉体に起因する生命力を人欲という。これは人間を天理に背かせるものでもある。この人欲を天理実現の熱源に昇華させることを「人欲を去りて天理を存す」という。「人欲を去る」とは欲望を否定したのではない。欲望の存在と価値を認めるからこそ、この人欲の燃焼する方向を定めて、天理を実現する熱量にせんとしたのである。
[田公平]
…したがって人は,おのがじし人欲に打ち勝って天理に復帰しなければならない。このような朱熹の見解は,彼が当時目にした人間と社会に対する危機感にもとづくものであったが,朱子学が権威化してゆくにつれ,天理人欲の名において人間性を抑圧するようになったのも事実である。明末・清初の王夫之(船山)が〈人を離れて別に天があるわけではなく,欲を離れて別に理があるわけではない〉(《読四書大全説》巻八)などと述べ,清の戴震(たいしん)も情欲肯定論を提起した(《孟子字義疏証》)のは,それに対する反発であった。…
※「天理人欲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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