太陽ニュートリノ(読み)タイヨウニュートリノ

デジタル大辞泉 「太陽ニュートリノ」の意味・読み・例文・類語

たいよう‐ニュートリノ〔タイヤウ‐〕【太陽ニュートリノ】

太陽中心部の核融合反応によって発生するニュートリノ。太陽から飛来するニュートリノは電子ニュートリノであり、陽子ヘリウムに変換する際に生成される。その発生量の測定値理論的な予想値に比べて少なく、長い間、現代物理学上の未解決の問題(太陽ニュートリノ問題)だったが、ニュートリノがわずかにでも質量をもつ場合に起こるニュートリノ振動により説明できることがわかった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太陽ニュートリノ」の意味・わかりやすい解説

太陽ニュートリノ
たいようにゅーとりの

太陽の中心部でおこっている核融合反応によって発生するニュートリノのこと。ニュートリノはほとんど物質と相互作用せず、貫通力が大きいので、太陽ニュートリノの検出は太陽中心部の状態を探り、恒星の構造と進化の理論を検証する最良の手段となるとともに、素粒子としてのニュートリノの性質を調べる手段にもなる。

 太陽の中心部では4個の陽子が結合して1個のヘリウム原子核をつくる核反応がおこっており、この反応1回当り2個のニュートリノが発生する。この反応にはいくつかの分枝があり、ニュートリノもいくつかの異なる過程で発生する。

 太陽ニュートリノの測定実験は1960年代なかばからアメリカのレイモンド・デービスらによりサウス・ダコタ州の地下金鉱で、塩素とニュートリノの反応でアルゴンが生成されることを利用した化学的な検出方法によって始められた。1980年代の終わりころから日本の神岡鉱山における水チェレンコフ検出器水中で高速移動する荷電粒子が放出するチェレンコフ放射光を検出する装置カミオカンデとよばれる)を使った実験、イタリアのグラン・サッソにおけるガリウムを使った実験が行われ、いずれの実験でも測定された強度は理論的予想値の数分の1であった。

 太陽ニュートリノの強度が理論的予想値に比べ少ないことは太陽ニュートリノ問題とよばれ、1990年代以降、物理学の未解決問題の一つとなった。1990年代には、太陽表面の微小振動の解析によって太陽の内部構造を探る日震学の進歩により、太陽の内部構造は標準モデルと非常によく一致していることが示された。そのため、太陽ニュートリノ問題は素粒子模型の問題であるとの見方が大勢を占めるようになった。ニュートリノが微小な質量をもつことにより生じるニュートリノ振動の存在の確認が、太陽ニュートリノ問題を解決すると考えられるようになった。

 21世紀初頭には、カナダのサドベリ実験所において重水を使った太陽ニュートリノ検出により、振動で変換された成分の検出に成功した。また、大気中の宇宙線起源のニュートリノ振動がスーパーカミオカンデ実験などで確認された。現在では、ニュートリノ振動のさらなる詳細を調べる研究が進められている。

[高原文郎・山崎 了]

『桜井邦朋著『太陽ニュートリノの謎――消えてしまった粒子を追って』(1977・講談社)』『小柴昌俊著『ニュートリノ天文学の誕生――素粒子で宇宙をみる』(1989・講談社)』『パリティ編集委員会編『宇宙物理――物理法則と宇宙の構造』(1989・丸善)』『日本物理学会編『現代の宇宙像――宇宙の誕生から超新星爆発まで』(1991・培風館)』『パリティ編集委員会編『宇宙物理2 ホーキングから高エネルギー天体現象まで』(1991・丸善)』『中村健蔵著『ニュートリノで探る宇宙』(1994・培風館)』『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』『ケネス・R・ラング著、渡辺堯・桜井邦朋訳『太陽――その素顔と地球環境との関わり』(1997・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『藤井旭著『太陽の科学――ここまでわかった太陽の姿』(2002・偕成社)』『井上一・小山勝二・高橋忠幸・水本好彦編『宇宙の観測〈3〉――高エネルギー天文学』シリーズ現代の天文学17(2008・日本評論社)』

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