夫食種貸(読み)ふじきたねかし

精選版 日本国語大辞典 「夫食種貸」の意味・読み・例文・類語

ふじきたね‐かし【夫食種貸】

〘名〙 江戸時代夫食種籾とを貸したこと。〔地方凡例録(1794)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「夫食種貸」の意味・わかりやすい解説

夫食種貸 (ぶじきたねかし)

江戸時代,凶作の際に,領主農民に夫食(食料)や播種用の籾(もみ)・麦を貸与することをいう。江戸時代の農民は,収穫物のうち,農業経営・生活を維持するうえで必要な最低限の量だけ手元に留保し,残りはすべて年貢として領主に上納することを義務づけられていた。したがって,農民の生産・生活はきわめて不安定であり,凶作にみまわれると,たちまち夫食や種籾,麦が欠乏し,彼らは領主に対しその貸与をたびたび願い出た。一方,領主も,みずからの経済的基盤である農民の経営を維持する必要から,夫食種貸を行わざるをえず,領主の〈御慈悲〉に基づく〈御救〉すなわち〈御仁政〉という名目でそれを貸与した。18世紀末の《地方凡例録(じかたはんれいろく)》によると,その貸与方法は次のようである。農民が夫食貸を願い出た場合,まず役人を派遣して村内の家ごとに米穀家財などの蓄えの有無を細かく調査し,そのうえで,農具のほかに売り払う品もなく,かつ助け合うべき親類縁者もいない者にのみ貸付けを認める。貸付けの基準は,16歳より59歳までの男は1日玄米2合(60歳以上,15歳以下の男は女に準ずる),女は1合,粟(あわ)・稗(ひえ)は米に準ずる,麦は男は1日4合,女は2合の積りにて,まず日数30日分を貸与し,30日を過ぎて不足の場合は,再願すればさらに30日分を貸与し,最高90日分まで認める,となっている。実際には,貸付けは現金で行うのが原則で,幕府領では,1,4,7,10月と4度に米値段を勘定所へ書き上げておき,その時々の下米(くだりこめ)値段をもって貸与した。私領(藩領旗本領)では,4ヵ月書上(かきあげ)相場がないので,その所の下米相場でもって貸与した。返納は無利息で,5ヵ年賦が原則であったが,凶作の程度および農民の困窮度により年期が延びることもあった。一方,農民が籾種・麦種の貸付けを願い出た場合は,種不足の人数および地積を調査し,1反当り,およそ籾種は6~7升ずつ,麦種は1斗ぐらいずつまく見積りでもって,それを米に換算し,代金で貸与した。値段は夫食の場合と同様である。私領では,籾・麦ともに正穀にて貸すこともあった。3ヵ年か5ヵ年の年賦返済で,利息は年限にかかわらず3割であった。種貸に利息を付けたのは,夫食と違い,1粒で万倍の収穫が得られるゆえの冥加としてであった。

 夫食種貸は領主の重要な勧農策の一つであったが,財政負担が大きいために,江戸時代の中期から農民に備荒のための貯穀を奨励し,夫食種貸は容易に行わない方針をとるようになった。だが,一方では窮乏した領主財政を立て直すために年貢増徴を強行したため,一般の農民は貯穀をする余裕はなく,富裕農民に土地を質入れし,高利の金・穀を借りて急場をしのがざるをえなくなり,質地地主・小作関係の形成を進める要因ともなった。
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