妊娠中の栄養バランス(読み)にんしんちゅうのえいようばらんす

食の医学館 「妊娠中の栄養バランス」の解説

にんしんちゅうのえいようばらんす【妊娠中の栄養バランス】

《胎児の発育に必要な栄養素をしっかり摂取》
〈妊娠中に必要な栄養素〉
 摂取カロリーについては、妊娠中、母体胎児の2人分を食べるといっても、それほど高カロリーを摂取する必要はありませんが、胎内発育する胎児(たいじ)のためには十分に摂取しなければいけない栄養素があります。とくに通常より多く摂取すべき栄養素はカルシウム鉄分たんぱく質食物繊維などです。
○カルシウム
 妊娠していない女性のカルシウム推奨量は600~650mg。妊娠中も変わらない量のカルシウムを摂取しなければなりません。胎内で発育している胎児の骨格や神経組織を形成するにはたくさんのカルシウムが必要だからです。食事によって十分なカルシウムを摂取しないと、胎児に必要なカルシウムは母体の骨から補充されます。そのため、カルシウム不足は胎児の発育に影響するばかりではなく、いずれ訪れる母体の加齢とともに骨粗鬆症(こつそしょうしょう)をまねく原因にもなります。また、カルシウムの摂取は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)や血圧上昇の予防にもなります。カルシウムを豊富に含む食品をふだんの生活よりも多めに摂取するよう、心がけましょう。
○鉄分
 妊娠中は血液量がふえるため、ふだんより多く鉄分をとらなければなりません。また、鉄分は胎児の発育や胎盤(たいばん)をつくるうえでもたいせつな栄養素です。不足すると貧血(ひんけつ)になるばかりでなく、胎児、母体ともに影響を与えてしまいます。
 とくに、妊娠後期では体内に蓄えられていた鉄分が胎児の発育や胎盤の準備に使われてしまい、鉄欠乏症になりがちです。ふだんの2倍以上の量の鉄分の摂取が必要です。
○たんぱく質
 妊娠中でなくてもたんぱく質は体を形成するうえで欠かせない栄養素です。妊娠中は胎児の発育には必要不可欠で、また母体の健康を維持するうえでも基本となります。
 とくに人間の体を構成するたんぱく質と近い成分を含み、アミノ酸バランスがよい良質のたんぱく質を、牛乳魚介類、動物の肉類から積極的に摂取しましょう。しかし、妊娠中の場合、カロリー摂取量にも気をつけなければならないため、動物性ばかりではなく、ダイズ類などの植物性たんぱく質とじょうずにバランスをとりながら摂取する必要もあります。
 同時にたんぱく質は、吸収されにくいカルシウムや鉄分の吸収を助けてくれますので、それらの栄養素を含む食品とじょうずに組み合わせた献立を心がけましょう。
○食物繊維
 妊娠すると大きくなった子宮が腸を圧迫し、ホルモンの影響もあってますます便秘になりやすくなります。そうなると体調がすぐれないだけでなく、食欲不振、イライラがつのり、精神面にも悪影響を与えます。便秘薬の利用もひかえたほうがいいので、食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取して、便秘を解消しましょう。
 以下に、妊娠・授乳時の1日あたりの推奨量を、[非妊娠時/妊娠時/授乳時]の形で示します。
エネルギー=1950~2000kcal/+50~450kcal/+350kcal
・たんぱく質=50g/+0~25g/+20g
・ビタミンA=650μgRAE/+0~80μgRAE/+450μgRAE
・ビタミンB1=1.1mg/+0~0.2mg/+0.2mg
・ビタミンB2=1.0mg/+0~0.3mg/+0.6mg
・ビタミンC=100mg/+10mg/+45mg
・カルシウム=650mg/+0mg/+0mg
・鉄=6.0~10.5mg/+2.5~15.0mg/+2.5mg(分娩後6か月)
*上記の数値は、身体活動レベルがデスクワークや家事程度とやや低い場合で、18~29歳までの場合です。
(『日本人の食事摂取基準(2015年版)』厚生労働省より

出典 小学館食の医学館について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android