始祖鳥(読み)しそちょう

精選版 日本国語大辞典 「始祖鳥」の意味・読み・例文・類語

しそ‐ちょう ‥テウ【始祖鳥】

〘名〙 中生代ジュラ紀に生存した最古の化石鳥。一八六一年に初めて、ドイツのバイエルン地方で発掘。爬虫類と鳥の特徴を兼備しており、鳥が爬虫類から進化したことを示す例として知られる。大きさはカラスぐらい。くちばしに鋭い歯をもち、翼を支える三本の指に鋭い爪があり、尾骨が発達しているなどの点で現在の鳥と異なる。空中を飛ぶときは翼を広げたままで羽ばたきをしなかったと考えられる。アルケオプテリクス。〔英和和英地学字彙(1914)〕

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デジタル大辞泉 「始祖鳥」の意味・読み・例文・類語

しそ‐ちょう〔‐テウ〕【始祖鳥】

ドイツ南部のジュラ紀石灰岩から発見された爬虫類鳥類の中間の生物。大きさはカラスくらい。翼・つめ・歯をもつことなど、爬虫類に似る一方、鳥類の特徴である羽毛をもつ。鳥類が爬虫類から進化したことを示す化石とされる。アーケオプテリクス
[類語]野鳥水鳥水禽海鳥家禽飼い鳥渡り鳥候鳥夏鳥冬鳥漂鳥留鳥旅鳥迷鳥禁鳥保護鳥益鳥害鳥雄鶏雌鳥小鳥猛禽鳴禽珍鳥

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改訂新版 世界大百科事典 「始祖鳥」の意味・わかりやすい解説

始祖鳥 (しそちょう)

鳥類の祖型とされる絶滅鳥。中生代のジュラ紀後期に出現した。脊椎動物門鳥綱古鳥亜目の始祖鳥目Archaeopterygiformesに分類される。Archaeopteryx lithographicaをはじめ,A.macruraArchaeornis siemensiまたは足跡印象に名付けられたProfornis bavaricaHypornithesOrnithichnitesKouphichniumなどは同義とされる。

始祖鳥の化石は現在6点が確認されている。いずれもドイツのミュンヘン市北西約100km付近から発見されている。いわゆるバイエルン地方で,この一帯から石版画(リトグラフ)の材料となる石版石が産出し,古くは建築用材に使われていた。ここには薄い板状構造をした緻密(ちみつ)な石灰岩質の地層が堆積し,中に昆虫,魚類,爬虫類あるいは植物など保存のよい化石が大量に保存されているため,ジュラ紀の化石産地として重要な地域である(〈ゾルンホーフェン動物群〉の項目を参照)。

 (1)1861年初頭にパッペンハイムの石切場で1枚の羽根の痕跡化石が発見された。長さは68mm,幅11mmの羽毛化石で,マイヤーH.von MeyerによりA.lithographicaと命名された。後に,片方はミュンヘンの科学アカデミー博物館に,対(もう片方の面)の化石はベルリンのフンボルト大学博物館に保管されている。(2)引き続き同じ年にパッペンハイムの近くの採石場で羽毛のついた全身骨格が発見された。爬虫類によく似た骨格で,長い尾をもち前肢に羽毛の痕跡がついていた。これは大英博物館が購入してロンドン標本とも呼ばれ,R.オーエンA.macruraとして記載した。発見直後にはワーグナーA.Wagnerが,長い尾をもった翼竜類でGriphosaurusと名付けたが,明らかにまちがいであった。(3)77年にアイヒシュテットの近くの採石場でベルリン標本が発見された。ロンドン標本より保存は良好で,A.siemensiと命名された。後にX線撮影により骨が埋もれていることがわかり,剖出した結果さらに詳細な研究ができるようになった。(4)マックスベルク標本と呼ばれる化石は,不完全で少量の骨格とかすかな羽毛痕からなる。1956年に発見されたが,羽毛の痕跡が明らかでないことから始祖鳥と認められていなかった。(5)第5はオランダのハールレムにあるティラー博物館の化石で,リーデンブルク近くの石版石から1855年に発見され,57年にマイヤーがPterodactylus crassipesとして記載した。1970年にオストロムJ.H.Ostromが陳列品を見て,それが始祖鳥であることに気づいた。(6)第6番目の標本はアイヒシュテット標本である。1951年に発見され,小型の恐竜コンプソグナツスとされていたが,73年に第3番目骨格標本として再発見された。

骨格は爬虫類で,羽毛の存在により鳥類とされる中間的性質の動物である。体長40cm強でカラス大。前肢,胴,尾などに羽毛がある。第1風切翼は6本,第2風切羽は10本ある。脳頭蓋は発達し,眼窩(がんか)が大きく強膜板がある。上下の顎骨に円錐状の歯が植立している。椎骨は単純で両接型,3個の腰椎は遊離し,腰帯は密着していない。尾椎骨は20~21個あり,長い。竜骨突起または胸峰の形跡はない。化骨した胸骨があるという人と,ないと考える人がいる。肋骨は11対あるが胸骨と結合したじょうぶな籠状の構造はみられない。すなわち,翼を動かす筋肉が発達していないことを示している。骨は中空ではあるが含気性ではなかったと考えられる。鎖骨はないが暢思骨(ちようしこつ)furculaがある。前肢の掌骨は完全に遊離し,3本の長い指がある。先端に長いつめが発達する。骨格はコンプソグナツスに類似する。

 始祖鳥には羽があっても胸骨の構造からみて飛翔(ひしよう)ができないとの考えから,鳥類の定温性獲得との関係で発生したというJ.H.オストロムの考え(cursorial predator theory)が最も新しい説である。今までの説の一般的なものは,地面を速く走ったり跳んだりしているうちに,うろこがしだいに羽毛に変化したという説(cursorial theory),または木から木に跳んでいるうちにしだいに滑空の習性を獲得し,徐々にうろこが羽毛になり,羽ばたきから飛行に移ったという説(arboreal theory)がある。オストロムの説は獣脚類から派生したと考えているのに対し,後の2説は槽歯類から直接進化してきたと考えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「始祖鳥」の意味・わかりやすい解説

始祖鳥
しそちょう
archaeopteryx
[学] Archaeopteryx lithographica

中生代ジュラ紀後期の、約1億5000万年前にいた最初の鳥。ドイツのバイエルン地方(ミュンヘン市の北西約100キロメートル)のゾルンホーフェン石灰岩から産出したアーケオプテリックス属をさす。2006年現在、その標本は7点だけが知られている。最初に発見されたのは、1861年に発掘された「ロンドン標本」で、アーケオプテリックス・リトグラフィカA. lithographicaと名づけられたものである。この骨格から、始祖鳥はカラスくらいの大きさであったと考えられる。イギリスのロンドンにある自然史博物館に保管されている。1877年に2番目のものとして発掘されたのは「ベルリン標本」とよばれる有名な標本で、ベルリンのフンボルト大学付属博物館に保管されている。これは別種(アーケオプテリックス・シーメンシーA. siemensi)あるいは別属(アーケオルニスArchaeornis)と考えられたこともあった。3番目のものは、1956年にごく少量の不完全な骨格で発見された「マックスベルク標本」で、羽毛の痕跡(こんせき)がかすかなことから、発見当時は始祖鳥とは認められなかった。この標本は個人蔵となっている唯一の標本である。4番目のものは、1855年にごく少量の破片が発見されながら1970年までは正確に識別されずにいた「テイラー標本」あるいは「ハールレム標本」とよばれるもので、ドイツのフォン・マイヤーHermann von Meyer(1801―1869)により翼竜の一種とされた(1857)が、カナダのオストロームJohn H. Ostrom(1928―2005)が始祖鳥であることを確認した(1970)。5番目のものは、1973年に発表された「アイヒシュテット標本」で、1951年に発見されたが羽毛の痕跡がほとんど認められないため、小形の恐竜であるコムプソグナトゥスCompsognathusの化石と誤認されていた。6番目のものは「ゾルンホーフェン標本」とよばれる、1960年代に発見されたものである。発見当初は小形獣脚類とされたが、1987年始祖鳥であることが確認され、ペーター・ベルンホーファーPeter Wellnhofer(1936― )が1988年に記載した。現在知られているもっとも大きい個体で、ミュラー市長記念博物館所蔵。7番目のものは「バイエルン標本」あるいは「ミュンヘン標本」とよばれるもので、1992年に発見され、1993年に同じくベルンホーファーにより記載された。ミュンヘン博物館に収蔵されている。以上のほか、1860年に羽毛の化石標本がゾルンホーフェンの採石場で発見され、1861年にフォン・マイヤーにより記録された。この標本のうち雄型のほうはフンボルト大学付属博物館に保管され、雌型のほうはミュンヘンのバイエルン州立コレクション中にある。

 始祖鳥は基本的には爬虫(はちゅう)類型、とくに獣脚類の中空の骨格をもつが、鳥類的な特徴が認められるだけでなく、前肢、胴、尾に典型的な鳥の羽毛をもつので、両者の中間的動物とされる。目が大きく、嘴(くちばし)状の口には歯が発達し、鳥に似た後肢には前向きのつめをもつ3本の指と、後ろ向きの短い1本の指がある。長い尾には骨格の中軸があり爬虫類の特徴を示す。前肢には細い肩甲骨、細長い腕骨、長い3本の指がある。鎖骨を除くと、始祖鳥の骨格は鳥よりも小形の肉食恐竜に似る。3本指の手の配列もオルニトレステスOrnitholestesなどの恐竜に似る。足に3本の指と後ろに曲がる短い1本の指をもつことは鳥の足にそっくりであるが、ほとんどの肉食恐竜がそれと酷似した足を示す。手首と足首の形状も恐竜に似る。鳥にあるはずの飛行のための強力な筋肉を取り付ける胸骨は始祖鳥にはなく、この点でも肉食恐竜に似る。また鳥では肩の関節と胸骨の間に頑丈なかすがいがついており、筋肉の力を集中させる働きをしているが、始祖鳥のそれは貧弱で小形の肉食恐竜類のものと似る。

 なお始祖鳥の恥骨の形は、現生の鳥と肉食恐竜のものとの中間型を示すが、始祖鳥には鎖骨と羽毛が存在する点から鳥に属するものとされる。始祖鳥は、小形の肉食恐竜を祖先としたものと考えられるばかりでなく、テタヌラ類コエルロサウルス類マニラプトル類に分類され、とくにデイノニコサウルス類と近縁である。そこで、アルバレツサウルス科Alvarezsauridaeや孔子(こうし)鳥科Confuciusornithidae、エナンティオルニス類Enantiornithes、真鳥形類Ornithuromorpha、ヘスペロルニス形類Hesperornithiformes、イクチオルニスIchthyornisなどとともに、鳥群Avialaeとして一括されることが多い。

[小畠郁生]

『デイヴィッド・E・ファストフスキー、デイヴィッド・B・ワイシャンペル著、瀬戸口美恵子・瀬戸口烈司訳『恐竜の進化と絶滅』(2001・青土社)』『デイヴィッド・E・ファストフスキー、デイヴィッド・B・ワイシャンペル著、真鍋真監訳『恐竜学 進化と絶滅の謎』(2006・丸善)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「始祖鳥」の意味・わかりやすい解説

始祖鳥
しそちょう
Archaeopteryx

ドイツのバイエルン州の後期ジュラ紀の石灰岩から産出した,羽毛のある動物化石で知られる最古の鳥群。骨格の構造は獣脚類恐竜のテタヌラ類に近い。羽毛をもっていることから,獣脚類恐竜から現在の鳥類に進化する途中の最初の鳥であると考えられたが,始祖鳥の子孫は知られていない。むしろ中国東北地方の前期白亜紀の地層から多数産出している羽毛恐竜類のなかに,現在の鳥の先祖がいる可能性が高いと考えられている。頭部の骨格は主竜類の特徴を示し,現在の鳥類と異なり歯がある。前肢の手には指が 3本,後肢には 4本ある。いずれの指先にも湾曲したかぎ爪がある。足指の構造から,木の枝に留まることはできず,大腿骨のつけ根の構造から地面で直立姿勢をとっていたと考えられる。飛翔に必要な筋肉が付着する竜骨突起が発達していなかったため,飛ぶことはできなかった。骨盤の構造は,現在の鳥類とは異なり爬虫類の特徴を示す。腹側に腹肋がある点も爬虫類の特徴である。尾の関節突起は細長く,曲げることができない構造である。羽毛の構造や配置は現在の鳥類に似ている。始祖鳥と現在の鳥類を合わせて鳥群と呼ぶ。

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百科事典マイペディア 「始祖鳥」の意味・わかりやすい解説

始祖鳥【しそちょう】

ジュラ紀に生存した鳥類の先祖。化石はドイツの石版石採石場から発見され,大きさはハトくらい。明瞭な羽毛をもち,前肢は翼になっているが,先端に3本の指と爪(つめ)を備え,口には歯があるなど鳥類と爬虫(はちゅう)類の中間的特徴を示す。胸骨はあまり発達せず,骨も現代の鳥類と違って中空でなく,長時間の飛行に耐えられたかは疑問とされる。
→関連項目横山又次郎

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動植物名よみかた辞典 普及版 「始祖鳥」の解説

始祖鳥 (シソチョウ)

学名:Archaeopteryx lithographica
動物。中生代ジュラ紀後期にいた最初の鳥

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世界大百科事典(旧版)内の始祖鳥の言及

【鳥類】より

…この仲間から恐竜,翼竜,ワニの祖先および鳥類の祖先が派出したことは多くの学者によって認められている。
[始祖鳥]
 化石として現れた最古の鳥は,ジュラ紀後期に生息していた始祖鳥である。始祖鳥はカラスくらいの大きさで,その形態的特徴から推定すると,木に止まることができ,また翼の3本のつめとあしゆびを使って木の枝の上によじ登ることができた。…

※「始祖鳥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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