子どもの鼠径ヘルニア(脱腸)(読み)こどものそけいへるにあだっちょう(英語表記)Inguinal Hernia

家庭医学館 の解説

こどものそけいへるにあだっちょう【子どもの鼠径ヘルニア(脱腸) Inguinal Hernia】

◎泣いたとき鼠径部がふくれる
[どんな病気か]
 内臓が鼠径部(股(また)のつけ根)の弱い部分から脱出し、陰嚢(いんのう)や大陰唇(だいいんしん)にやわらかい腫瘤(しゅりゅう)(腫(は)れもの)が現われる病気です。生まれつき腹膜(ふくまく)の一部が袋状の突起ヘルニア嚢(のう))として皮膚の下に飛び出すためにおこります。
 この突起は、胎児たいじ)の睾丸こうがん)が腹腔(ふくくう)から陰嚢の中に降りてくるときに腹膜を引っ張るためにできます。ふつうは生まれる前に閉じてしまうのですが、たまたま閉じずに突起として残った場合にヘルニアになります。
 女児の場合は、子宮を支えている靱帯じんたい)にそってヘルニア嚢が形成されます。
 発生率は男児が女児の2~3倍多くなります。ヘルニアが出る時期は、30~40%は1歳未満ですが、幼児、学童になって初めて気がつくこともあります。左右別では右側に多くみられますが、両側ともヘルニアの場合が約10%あります。
 脱出する内臓は小腸(しょうちょう)、卵巣(らんそう)、胃の周囲の脂肪組織である大網(たいもう)などです。小腸が出ている場合、ふつうは痛みがなく、手で押すとぐじゅぐじゅと音をたてて腹腔に戻ります。ところが、腹壁出口(ヘルニア門)で腸管が締めつけられると、腸が閉塞(へいそく)されるばかりか、血流がとだえて壊死(えし)をおこすことがあります。この状態を嵌頓(かんとん)といいます。
 女児では卵巣(らんそう)が脱出することがあり、この場合、皮下捻転(ねんてん)をおこして卵巣が壊死してしまうことがあります。
[検査と診断]
 泣いたり、いきんだりしたときに鼠径部が腫れるので、すぐわかります。ヘルニアが腹腔に戻っているときでも、専門医なら、鼠径部の厚ぼったい感じやヘルニアの袋の内面が擦(す)れ合う感じをみて診断がつけられます。
◎嵌頓(かんとん)をおこしたらすぐに手術を
[治療]
 鼠径ヘルニアは自然に治ることはあまり期待できません。また、いつ嵌頓をおこすかもわかりませんから、診断がついたらなるべく早いうちに手術するほうがよいようです。
 手術は、ヘルニア嚢を根元で結紮(けっさつ)(縛る)して閉鎖(へいさ)します。麻酔法(ますいほう)が進歩したので、最近では生後2~3か月の赤ちゃんでも安全に手術することができ、傷もほとんど目立ちません。入院期間も短期間ですみます。
 ヘルニアバンド(脱腸帯(だっちょうたい))は、ヘルニアの出口を圧迫してヘルニアの袋が自然に閉じるのを待つ、昔からの方法ですが、効果が確実でなく、おむつかぶれや睾丸の萎縮(いしゅく)などの弊害が多いため、現在ではほとんど行なわれません。
 ヘルニアが嵌頓をおこした場合は、なるべく早く内臓を押し戻す必要があります。押し戻せない場合は、緊急手術によって内臓への締めつけを取り除かなくてはなりません。
●日常生活の注意
 手術待ちの間の日常生活はふつうでかまいません。おむつ交換時にはヘルニアが出ていないか確認し、出ていたら手で押し戻しましょう。手を放したとたんに出てしまっても、とりあえず戻せたら安心です。
 痛がって激しく泣いたり吐(は)いたりし、鼠径部を見るとしこりがあったり、赤く腫れている場合は、ヘルニア嵌頓の可能性があります(コラム「ヘルニア嵌頓との鑑別が必要な病気」)。すぐに医師の診察を受けましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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