改訂新版 世界大百科事典 「子囊菌類」の意味・わかりやすい解説
子囊菌類 (しのうきんるい)
sac fungi
Ascomycotina(=Ascomycetes)
酵母のように単細胞を主体とするものから,コウジカビ,アオカビ,アカパンカビなどのように糸状細胞のいわゆるカビといわれるものや,さらにマメザヤタケ,チャワンタケ,アミガサタケなどのように比較的大型でキノコ状のものまでをふくむ菌類をまとめた大群である。現在のところ1950属,1万5000種が知られている。他の菌類と同様に,無性生殖と有性生殖との世代交代をくり返すが,子囊菌類の特徴は,有性生殖の結果として子囊という袋を形成し,その中に普通8個の胞子(子囊胞子)をつくることである。最も簡単な構造のものは,酵母のようにこの子囊が個々に遊離しているが,真正子囊菌類では子囊を保護する特殊な器官が形成されている。この群の分類は,これら子囊,子囊胞子,子囊を包む保護器官の形態によってなされている。栄養体は単細胞あるいは隔壁をもつ菌糸状で,無性生殖により,分生子や胞子囊胞子などをつくるものがある。
自然界のほとんどあらゆるところに生育して,土壌,植物遺体,落枝葉などにはもちろん,淡水,海水中にまでそれぞれ独特の子囊菌がすんでいる。保護器官が,菌糸が単にとりまいているだけ(球形,閉鎖型)の閉子囊殻形成菌は不整子囊菌類(コウジカビ,マユハキタケなど),菌糸組織としてフラスコ形となり先端の開口部から胞子を分散する子囊殻形成菌は核菌類(アカパンカビ,冬虫夏草),菌糸組織がカップ状となり子囊はカップ内面に裸出して柵状に密生する子囊盤形成菌は盤菌類(チャワンタケ)と大別されている。
子囊菌類が接合菌類や担子菌類と異なる点は,子囊を形成すること以外に,多数の種が有性生殖を行うと同時に無性生殖も行うことであり,無性世代だけを見ると不完全菌の姿に見える。アオカビ,コウジカビなどの不完全菌の大部分は,すべて有性世代が子囊菌類であるとされている。この両方の時代の関係が,菌類分類学のうえできわめて重要で,子囊菌の系統分類を行うときに欠くことのできない点である。
執筆者:椿 啓介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報