子宮付属器炎(卵管炎/卵巣炎)(読み)しきゅうふぞくきえんらんかんえんらんそうえん(英語表記)Adnexitis (Salpingitis / Oophoritis)

家庭医学館 の解説

しきゅうふぞくきえんらんかんえんらんそうえん【子宮付属器炎(卵管炎/卵巣炎) Adnexitis (Salpingitis / Oophoritis)】

[どんな病気か]
 子宮付属器とは、卵管らんかん)、卵巣(らんそう)(図「子宮・卵管・卵巣」)をいいます。したがって、卵管炎卵巣炎を合わせて子宮付属器炎と呼びます。
 子宮付属器のうち、卵管のほうが炎症をおこしやすく、炎症が卵巣だけにとどまることはありません。卵巣に炎症があるときには、同時に卵管にも炎症がおこっており、卵巣炎および卵管炎、すなわち子宮付属器炎のかたちをとります。いいかえれば、子宮付属器炎といえば卵管炎、または卵管炎および卵巣炎ということになります。
 卵管が炎症をおこすと発赤(ほっせき)(赤くなる)、腫脹(しゅちょう)(腫(は)れる)し、ひどくなると、なかに炎症にともなう浸出液(しんしゅつえき)や膿(うみ)がたまり、先端がふさがって卵管留水腫(らんかんりゅうすいしゅ)、卵管留膿腫(らんかんりゅうのうしゅ)という腫瘤(しゅりゅう)をつくり、卵巣、子宮、骨盤腹膜(こつばんふくまく)(骨盤の内腔(ないくう)をおおう腹膜)、直腸膀胱ぼうこう)などと、炎症性の癒着(ゆちゃく)をおこすことがあります。
 また、感染が卵管を通って腹腔(ふくくう)に達し、骨盤腹膜炎(「骨盤腹膜炎」)をおこすと、骨盤腔の下方に浸出液や膿がたまって、ダグラス窩(か)(直腸子宮窩=子宮の後方、直腸前方のくぼみ)膿瘍(のうよう)(「ダグラス窩膿瘍」)をつくることもあります。
 適切な治療をせず放置すれば、炎症が骨盤腔をこえて広がり、腹膜炎(「腹膜炎とは」)、敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)、まれに大腸や膀胱(ぼうこう)への穿孔(せんこう)(穴があくこと)をおこすことがあります。
 卵管炎は卵管の通過性を阻害し、不妊の原因となることがあります。
[症状]
 急性期か慢性期か、あるいは炎症の強さなどによって症状は異なりますが、さまざまな程度の下腹部痛をともない、急性期または炎症が強いときには、発熱をともなうことが多いようです。また、帯下(たいげ)(おりもの)の増加、炎症によると思われる帯下がみられることがあります。
 炎症が腹膜に広がれば、悪心(おしん)(吐(は)き気(け))、嘔吐(おうと)(腹膜刺激症状)をともなうことがあります。また、ダグラス窩膿瘍をおこすと、排便痛(はいべんつう)、肛門(こうもん)の痛みを感じ、膀胱の周囲に波及すれば、排尿痛(はいにょうつう)などの膀胱炎に似た症状をともなうことがあります。
[原因]
 大腸菌(だいちょうきん)、ブドウ球菌、レンサ球菌淋菌(りんきん)などの細菌クラミジアなどが、腟(ちつ)や子宮を通って感染するためにおこると考えられます。
 分娩(ぶんべん)、流・早産、人工妊娠中絶、人工授精、卵管通水(つうすい)法(卵管性不妊の治療法)、子宮卵管造影法(不妊症のX線検査)などの子宮内操作が誘因となります。
 また、性交による淋菌、クラミジアなどの感染によってもおこると考えられます。
[検査と診断]
 触診(しょくしん)によって、下腹部に圧痛(押すと痛みがある)、筋性防御(一定の部分の筋肉が緊張する)をともない、その部分を指で圧迫した後、急に指を離すと痛みを感じることがあります。
 婦人科の診察では、内診(片方の手の指を腟(ちつ)に挿入し、もう一方の手を腹部にあてて診察する双合診(そうごうしん))で、子宮付属器の位置に圧痛を認め、腫瘤、硬結(こうけつ)(しこり)を触れることがあります。
 子宮付属器炎の診断には、血液検査(白血球数(はっけっきゅうすう)増加、血沈(けっちん)促進、CRP陽性〈炎症がある証明〉などの異常を認めることが多い)、子宮分泌物(ぶんぴつぶつ)の細菌培養、細菌感受性試験(どの抗生物質が有効か調べる)、クラミジア抗原(こうげん)、血液中の抗体(こうたい)の有無、抗体価の検査、エコー(超音波断層撮影)、必要に応じてCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)による診断などを行ないます。
[治療]
 抗生物質による化学療法を行ないます。細菌培養、細菌感受性試験などの結果によって、有効な抗生物質を使用するほうが理にかなっているのですが、結果が判明する前に治療を開始しなければならず、現実には原因菌が不明のことが多いので、有効と思われる抗菌スペクトルの広い抗生物質、抗菌薬を使用します。
 下腹部痛が強く、熱が高い場合には、入院して、抗生物質の点滴などを行ないます。
 ダグラス窩膿瘍をおこしているときには、化学療法とともに、経腟的に(腟から)注射器を連結した針でダグラス窩を穿刺(せんし)し、切開(せっかい)、排膿して、ドレーン(たまった分泌物を排液するための管やガーゼ)をおくか、ある程度白血球数や血沈が正常化し、CRPが陰性化した後、開腹して骨盤腔を洗浄し、ドレーンをおきます。
 卵管留水腫、卵管留膿腫ができているときにも、化学療法によりある程度白血球数や血沈が正常化し、CRPが陰性化した後、腹腔鏡(ふくくうきょう)を使って、あるいは開腹して、開窓術(かいそうじゅつ)(ふさがっている卵管を切開して排膿し、開放する)などの卵管形成術(若い人や、不妊症で子どもがほしい人の場合)、卵管剔出術(てきしゅつじゅつ)、子宮付属器剔出術などを行ないます。
 子宮付属器炎の治療は、抗生物質、抗菌薬による化学療法が主体ですが、炎症が治りはじめたものや、慢性期に入ったものには、消炎酵素剤(しょうえんこうそざい)を抗生物質と併用するか、単独で使用することもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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