子宮頸がん

EBM 正しい治療がわかる本 「子宮頸がん」の解説

子宮頸がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 子宮の腟(ちつ)に近いほうを頸部(けいぶ)、子宮の奥のほうを体部(たいぶ)といい、子宮頸部(しきゅうけいぶ)に発生するがんを子宮頸(しきゅうけい)がんといいます。初期の段階ではほとんど症状がなく、病期が進行してがんが広がっていくにつれて、おりものが増え、不正出血、性交渉時の出血などもみられます。とくに、性交渉のときの出血は特徴的な症状です。さらに、がんが大きくなり直腸(ちょくちょう)や膀胱(ぼうこう)にまで広がると、腹痛や腰痛のほか、血便や血尿がでることもあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 子宮頸がんのおもな原因として、ヒトパピローマウイルスの感染があります。ヒトパピローマウイルスは性交渉によって、男女の性器に感染します。ヒトパピローマウイルスに感染した場合でも、ほとんどは体内の免疫によってウイルスが消失します。ただし、一部が持続感染して細胞組織が変異をおこします。これにより、前がん状態から子宮頸がんを引きおこします。(1)

●病気の特徴
 新たに子宮頸がんにかかった人は2011年に11,378人、また子宮頸がんによる死亡者は2013年で2,656人でした。年齢としては、30歳代後半から40歳代前半の人と60歳代前半の人に多いと報告されています。(2)(3)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]子宮頸がんワクチン接種の検討
[評価]☆☆
[評価のポイント] 若年層に対する子宮頸がんワクチン接種により、ヒトパピローマウイルスの感染を予防する効果と、子宮頸部の異形成を抑制する効果が報告されています。(4)~(8)
 日本では、2010年11月から公費補助がはじまり、2013年4月から定期予防接種の1つとなりました。中学1年生で1回目、1~2カ月の間隔をあけて2回目、初回接種の6カ月後に3回目、というスケジュールとなっています。しかし、同年、子宮頸がんワクチン接種後の神経障害(四肢(しし)の痛み、しびれ、脱力ならびに学習障害、記銘力(きめいりょく)低下、睡眠異常など)が報告されました。ワクチン接種と神経症状の科学的関連性やその病態については検討段階にあります。このため2015年5月現在、厚生労働省では、積極的な接種勧奨を差し控えています。(9)

[治療とケア]子宮頸がん検診を受ける
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 子宮頸がん検診導入後の子宮頸がんによる死亡率は、導入前と比較すると大幅に減少したことが複数の国から報告されています。また、子宮頸がん細胞診、およびヒトパピローマウイルス感染症の有無の検診により、進行がんの発生率を抑制できることが報告されています。(10)(11)
 米国では、はじめて性交渉をしてから3年以内、もしくは21歳から3年ごとの子宮頸がん検診を推奨しています。子宮頸がん検診では、子宮の入り口(外子宮口(がいしきゅうこう))付近を綿棒でこすって細胞を採取し、顕微鏡で正常な細胞かどうかを確認します。同時にヒトパピローマウイルス感染症の有無の検査を併用することも推奨されています。ヒトパピローマウイルスが陽性だった場合は、コロポスコープという拡大鏡をつかって子宮頸部を観察します。このとき、がんと疑わしい部分があった場合は、その部位から小さな組織を切り取る組織診を行います。ヒトパピローマウイルスが陰性の30歳以上の女性の場合は、がん検診の間隔を5年にしても効果は変わらないとされています。(12)~(14)
 日本では、20歳から2年に1度の細胞診による検診について、自治体より無料クーポン券を配布する形式などで公費補助し、推奨しています。2015年5月現在、ヒトパピローマウイルス感染症の有無の検査は検診に含まれていません。(15)

[治療とケア]病期に応じて治療方法を検討し、選択する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 子宮頸がんの確定診断がついた場合、各種の画像診断などでがんの広がりを確認します。がんの治療効果は、患者さん本人の年齢や体の状態、がんの広がり(病期)、がん細胞のもつ特性によって異なります。がんの進行度は、腫瘍(しゅよう)の数や大きさ、リンパ節や他の臓器へがんが転移しているかどうかなどで判断します。これらを総合的に考えて、さらに、患者さんの考え方を考慮して、手術療法放射線療法化学療法、および症状をやわらげる緩和(かんわ)療法を組み合わせて治療を行います。若い人に多いがんのため、妊娠の希望がある、または妊娠中に診断された場合は、主治医とよく相談し慎重に治療方針を検討する必要があります。再発・転移子宮頸がんの場合は、画像で治療効果を確認しながら治療方法を変更していきます。(16)~(19)

[治療とケア]手術法を検討、選択する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 病期(がんの大きさや深さ、形態、転移の有無)によって、手術法が選択されます。子宮頸部の組織を円錐(えんすい)状に切除する方法(円錐切除術(えんすいせつじょじゅつ))や、子宮を切除する単純子宮全摘出術(たんじゅんしきゅうぜんてきしゅつじゅつ)、子宮と腟、基靭帯(きじんたい)の一部を切除する準広汎子宮全摘出術(じゅんこうはんしきゅうぜんてきしゅつじゅつ)や、子宮・腟の一部や基靭帯、さらにリンパ節を取り除く広汎子宮全摘出術などがあります。(20)

[治療とケア]放射線療法を検討、選択する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 限局している小さながんで、手術ができない場合や、患者さんが手術をしない選択をした場合は、根治的放射線療法を行います。子宮内部に放射線を発生する物質を入れて体のなかから放射線をあてる小線源療法と、体の外から放射線をあてる外部照射が併用されます。ごく初期の扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんでは、手術と同等の治療成績が報告されています。(21)(22) 腺(せん)がんでは、手術に劣ります。(23)
 また、限局している4センチメートルを超える大きながんでは、同時化学放射線療法(放射線療法と化学療法を同時期に行う方法)があります。(24) この同時化学放射線療法の後に、手術を追加することの効果については結論がでていません。(25)

[治療とケア]手術後に放射線療法や化学療法を追加する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] がんの特性(ヒトパピローマウイルスのタイプなど)、病気の広がり(病期)などから、再発のリスクの高さである悪性度を検討し、患者さんの全身状態などを考慮して、手術後に放射線療法や化学療法を追加します。治療効果は、病期や悪性度および治療方法に応じて異なります。
 たとえば再発のリスクの高い、早期の子宮頸がんに対する手術後の抗がん薬療法(化学療法)と放射線療法の併用は、両方の効果を高め合い、予後を改善し、病期の進行を抑える効果が報告されています。(26)~(28)
 離れた臓器への転移がある場合や進行がんの場合、あるいは再発した場合は、分子標的薬と抗がん薬の組み合わせによる化学療法や、放射線療法の効果が報告されています。(24)(25)
 なお、進行がんに対する手術前の抗がん薬療法は海外、日本いずれの研究でも予後の改善が認められず、現在は推奨されていません。(29)(30)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗がん薬療法の例
[薬用途]CDDP単独療法(31)
[薬名]ランダ/ブリプラチンシスプラチン
[評価]☆☆☆☆
[薬用途]FP療法ほか(31)
[薬名]ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+5-FU(フルオロウラシル)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] がん細胞を壊したり増殖を抑える効果のある薬剤を、定期的(毎週など)に点滴で入れます。この薬によって、増殖速度の速いがん細胞のほうが健康な細胞よりも壊され、健康な細胞は次の治療の日までに回復してきます。このサイクルをくり返し、残ったがん細胞をできるかぎり体のなかからなくしてしまう、という治療法です。健康な細胞も薬の作用をうけるため、強い副作用を各種の方法でコントロールしながら、治療を行う必要があります。がん細胞をたたく効果を高めるため、放射線療法を同時期に行うこともあります。

再発や遠隔転移のある場合
[薬用途]抗がん薬と分子標的薬の併用(32)
[薬名]抗がん薬:ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)+タキソール(パクリタキセル)、分子標的薬:アバスチンベバシズマブ)など
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 抗がん薬療法と分子標的療法の併用による予後の改善が報告されています。2015年5月現在、子宮頸がんに対する分子標的療法は、日本では健康保険適用がありません。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
子宮頸がんワクチン接種や定期的な検診で予防を
 子宮頸がんのワクチン接種により、子宮頸がんのおもな原因とされるヒトパピローマウイルスの感染や子宮頸部の異形成の予防効果が報告されています。日本では、2013年4月から定期予防接種の1つに加わっていますが、同年、接種後の神経障害が報告されました。ワクチン接種と神経障害が科学的に関連しているかどうかは検討段階にあり、2015年5月現在、厚生労働省は積極的な接種勧奨は差し控えています。
 子宮頸がんの検診については有効性が証明されており、複数の国で、検診導入後に子宮頸がんによる死亡率が減少しているとの報告がみられます。
 子宮頸がんの検診は子宮の入り口から採取した細胞の細胞診と、ヒトパピローマウイルス感染の有無の検査があり、これらの併用が推奨されています。日本では、20歳から2年に1度の細胞診による検診について、自治体の公費補助があります。10歳代~20歳代のうちから、病気の理解をすすめ、予防の重要性を知ることが大切です。

外科的な切除を行う
 子宮頸がんの治療の中心は外科的な切除です。病気の進行度(病期)によって、がんを摘出する範囲が決まり、円錐切除術、単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術などから、手術方法を選びます。

放射線療法・同時化学放射線療法を行う
 手術を行えない場合や、希望しない場合は、放射線療法を行います。

手術後、化学療法や放射線療法を組み合わせて行う
 リンパ節への転移があるといった病期や、悪性度が高いなどのがんの特性によって、再発のリスクが高い場合は、手術後に化学療法と放射線療法を組み合わせて行います。再発のリスクの高い早期の子宮頸がんに対しての化学療法と放射線療法の併用は、互いが効果を高めあい、進行を抑制する効果が認められています。また、遠隔転移がある進行がん、再発がんに対しては、分子標的薬と抗がん薬を組み合わせた化学療法、放射線療法の効果が報告されています。
 進行したがんでは、症状のコントロールを目標として緩和療法を併用します。

(1)de Sanjose S, Quint WG, Alemany L, et al; Retrospective International Survey and HPV Time Trends Study Group.Human papillomavirus genotype attribution in invasive cervical cancer: a retrospective cross-sectional worldwide study.Lancet Oncol. 2010 ;11:1048-1056.
(2)国立がん研究センターがん情報サービス. 地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975年~2011年). http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html  アクセス日2015年5月1日
(3)国立がん研究センターがん情報サービス. 人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2013年). http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html アクセス日2015年5月1日
(4)Joura EA, Garland SM, Paavonen J, et al. FUTURE I and II Study Group; Effect of the human papillomavirus (HPV) quadrivalent vaccine in a subgroup of women with cervical and vulvar disease: retrospective pooled analysis of trial data. BMJ. 2012 Mar 27;344:e1401.
(5)Dillner J, Kjaer SK, Wheeler CM, et al.FUTURE I/II Study Group;Four year efficacy of prophylactic human papillomavirus quadrivalent vaccine against low grade cervical, vulvar, and vaginal intraepithelial neoplasia and anogenital warts: randomised controlled trial.BMJ. 2010 ;341:c3493.
(6)Rambout L, Hopkins L, Hutton B, et al.Prophylactic vaccination against human papillomavirus infection and disease inwomen: a systematic review of randomized controlled trials. CMAJ. 2007;177:469-479.
(7)Lu B, Kumar A, Castellsagué X, Giuliano AR. Efficacy and safety of prophylactic vaccines against cervical HPV infection and diseases among women: a systematic review & meta-analysis. BMC Infect Dis. 2011;11:13.
(8)Konno R, Tamura S, DobbelaereKetal.Efficacy of human papillomavirus type 16/18 AS04-adjuvanted vaccine in Japanese women aged 20 to 25 years: final analysis of a phase 2 double-blind, randomized controlled trial. Int J Gynecol Cancer. 2010 ;20:847-855.
(9)厚生労働省.子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種後の神経障害の診療について2015年4月1日. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/dl/yobou150401-2.pdf アクセス日2015年5月4日
(10)Ronco G, Dillner J, Elfström KM, et al; International HPV screening working group.Efficacy of HPV-based screening for prevention of invasive cervical cancer: follow-up of four European randomised controlled trials.Lancet. 2014;383.524-532.
(11)Ronco G, Dillner J, Elfström KM, et al,eds. SEER Cancer Statistics Review, 1975-2011. Bethesda, MD: National CancerInstitute. 2014.
(12)Smith RA, Manassaram-Baptiste D, Brooks D,et al.Cancer screening in the United States, 2015: a review of current American cancer society guidelines and current issues in cancer screening.CA Cancer J Clin. 2015;65:30-54.
(13)Saslow D, Solomon D, Lawson HW, et al; American Cancer Society; American Society for Colposcopy and Cervical Pathology; American Society for Clinical Pathology.
(14)American Cancer Society. American Society for Colposcopy and Cervical Pathology, and American Society for Clinical Pathology screening guidelines for the prevention and early detection of cervical cancer.Am J ClinPathol. 2012 ;137:516-542.
(15)厚生労働省. 市町村のがん検診の項目について. http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html アクセス日2015年5月8日
(16)日本婦人科腫瘍学会.NCCNガイドライン 日本語版. 2014年版. http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/gynecological/ アクセス日2015年5月2日
(17)National Comprehensive Cancer Network ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCN Guidelines. Cervical Cancer 2015 ver.2. http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/cervical.pdf アクセス日2015年5月8日
(18)独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター. 子宮と卵巣のがんの療養情報. http://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000ul0q-att/141.pdf アクセス日2015年5月1日
(19)Eleje GU, Eke AC, Igberase GO, et al. Palliative interventions for controlling vaginal bleeding in advanced cervical cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2015 May 1;5:CD011000.
(20)Chi DS, Abu-Rustum NR, PlanteM et al. Cancer of cervix. In: TeLinde’s Operative Gynecology, 10th ed. Rock JA, Jones H. eds. Philadelphia Lippncott Williams and Wilikins:2008:1227.
(21)Landoni F, Maneo A, Colombo A, et al. Randomised study of radical surgery versus radiotherapy for stage Ib-IIa cervical cancer. Lancet. 1997;350:535-540.
(22)Lowrey GC, Mendenhall WM, Million RR.Stage IB or IIA-B carcinoma of the intact uterine cervix treated with irradiation: a multivariate analysis. Int J RadiatOncol Biol Phys. 1992;24:205-210.
(23)Baalbergen A, Veenstra Y, StalpersL.Primary surgery versus primary radiotherapy with or without chemotherapy for early adenocarcinoma of the uterine cervix. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;1:CD006248.
(24)Galaal K, Al Moundhri M, Bryant A, et al.Adjuvant chemotherapy for advanced endometrial cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2014 May 15;5:CD010681.
(25)Kokka F, Bryant A, Brockbank E, et al.Hysterectomy with radiotherapy or chemotherapy or both for women with locally advanced cervical cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2015 Apr 7;4:CD010260.
(26)Rosa DD, Medeiros LR, Edelweiss MI,et al. Adjuvant platinum-based chemotherapy for early stage cervical cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jun 13;6:CD005342.
(27)Chemoradiotherapy for Cervical Cancer Meta-Analysis Collaboration.:Reducing uncertainties about the effects of chemoradiotherapy for cervical cancer: a systematic review and meta-analysis of individual patient data from 18 randomized trials.J ClinOncol. 2008 ;26:5802:e5812.
(28)Green JA, Kirwan JM, Tierney JF, et al. Survival and recurrence after concomitant chemotherapy and radiotherapy for cancer of the uterine cervix: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2001;358:781-786.
(29)Rydzewska L, Tierney J, Vale CL, et al.Neoadjuvant chemotherapy plus surgery versus surgery for cervical cancer.Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jan 20;(1):CD007406.
(30)Katsumata N, Yoshikawa H, Kobayashi H; Japan Clinical Oncology Group. Phase III randomised controlled trial of neoadjuvant chemotherapy plus radical surgery vs radical surgery alone for stages IB2, IIA2, and IIB cervical cancer: a Japan Clinical Oncology Group trial (JCOG 0102). Br J Cancer. 2013;108:1957-1963.
(31)Peters WA, Liu PY, Barrett RJ, et al. Concurrent chemotherapy and pelvic radiation therapy compared with pelvic radiation therapy alone as adjuvant therapy after radical surgery in high-risk early-stage cancer of the cervix.J Clin Oncol. 2000;18:1606-1613.
(32)Tewari KS, Sill MW, Long HJ, et al.Improved survival with bevacizumab in advanced cervical cancer.N Engl J Med. 2014;370:734-743.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「子宮頸がん」の解説

子宮頸がん
しきゅうけいがん
Cervical cancer
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 子宮は、図11のように、「とっくり」を逆さにしたような形をしています。子宮の細い部分(頸部)の先端が腟の奥に突き出ています。子宮頸部の上皮(粘膜)から発生するがんのことを子宮頸がんといいます。がんは、はじめは上皮のなかにとどまっています(上皮内がん)が、次第に子宮の筋肉に浸潤(しんじゅん)します。さらに腟や子宮のまわりの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。さらに進行すると、膀胱・直腸を侵したり、肺・肝臓・骨などに転移したりします。

 子宮頸がんは、40、50代に最も多い病気ですが、20代の人や80歳以上の人にもみられます。

原因は何か

 ほとんどの子宮頸がんでヒトパピローマウイルスの遺伝子が検出されます。そのため、このウイルスに感染することが子宮頸がんの発生の引き金と考えられています。このウイルスは性交により感染するので、初めて性交した年齢が低い人や多くの性交相手がいる人は子宮頸がんになる危険性が高くなります。

 しかし、実際に子宮頸がんになる人は、ウイルスに感染した人のなかの一部にすぎません。発がんには、ウイルスに感染した人の体質(遺伝子の不安定性や免疫など)も関係していると考えられています。

症状の現れ方

 初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

 自覚症状としては不正性器出血(月経以外の出血)が最も多く、とくに性交時に出血しやすくなります。おりもの(帯下(たいげ))が増えることもあります。進行がんでは下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、血便、排尿障害が現れることがあります。

検査と診断

 子宮頸部を綿棒などでこすって細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、腟拡大鏡(コルポスコープ)で観察しながら、疑わしい部分の組織を採取します(ねらい組織診)。採取した組織を病理学的に検査して診断を確定します。進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診を行います。さらに内診・直腸診で腫瘍の大きさや広がりを調べます。

 子宮頸がんの診断がついた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影(けいじょうみゃくせいにょうろぞうえい)膀胱鏡(ぼうこうきょう)、直腸鏡検査を行い、臨床進行期(表2)を決定します。腹部超音波検査・CT・MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択にあたり重要です。

治療の方法

 手術療法または放射線療法が子宮頸がんの主な治療法です。治療法は年齢・全身状態、病変の進行期を考慮して選択されます。治療成績は手術・放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能なⅡ期までは手術療法が選ばれる傾向にあります。

 0期に対しては子宮頸部だけを円錐形(えんすいけい)に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザー治療を行うこともあります。妊娠の希望がない場合は単純子宮全摘術を行うこともあります。

 Ia期(I期のなかで浸潤が浅いもの)の場合は単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみを行うことがあります。

 Ib~Ⅱ期の場合は広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうぜんてきじゅつ)が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮・子宮傍組織・卵管・卵巣・腟の子宮側3分の1程度・骨盤リンパ節を摘出します。40歳未満の場合は卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

 高齢者・全身状態の悪い人やⅢ・Ⅳ期の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

 放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する「外部照射」と、子宮・腟の内側から細い器具を入れて照射する「腔内照射」を組み合わせて行います。放射線療法を行う際は、同時に抗がん薬(シスプラチンなど)を投与する化学放射線療法のほうが、放射線単独療法よりも治療効果が高いことが報告されており、最近では化学放射線療法が標準的になっています。

 肺・肝臓・骨などに遠隔転移がある場合、通常は化学療法が選択されます。

病気に気づいたらどうする

 不正性器出血があったら婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診(コラム)を受けることをすすめます。

山田 学


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「子宮頸がん」の解説

しきゅうけいがん【子宮頸がん Cancer of the Uterine Cervix】

[どんな病気か]
 従来、子宮頸がんで死亡する女性が、他の婦人科がん(子宮体がん、卵巣(らんそう)がん(「卵巣がん」))で亡くなる女性より多かったために、定期検診が普及しました。そして、この検診によって早期発見が可能となり、子宮頸がんの死亡率は、年々低下しています。
 また、子宮頸がんは治癒率(ちゆりつ)の高いがんで、進行期0期であれば100%治ります。がんが進行するほど治る率は低くなりますが、定期的に検診を受けていれば、早期のうち、あるいは前がん状態、すなわち子宮頸部異形成(しきゅうけいぶいけいせい)(「子宮頸部異形成」)の状態のうちに発見できます。
 ですから、子宮頸がんの場合、定期検診がもっとも有効な診断法なのです。
[原因]
 子宮頸がんは性交渉によるHPV(ヒトパピローマウイルス。イボウイルスの一種)感染が大きな原因のひとつです。HPV感染の危険因子として、早婚、不特定多数の性パートナーがいる、不潔な性生活、多産などが長年あげられてきました。現在では、性活動を行う女性の半数以上がいちどはHPVに感染すると推定されています。さらに、HPVに感染しても自然に治癒することが多いのですが、とくに喫煙、免疫機能の低下などの因子が加わると、前がん状態(子宮頸部異形成)からがんへ進みやすいことが知られています。
[症状]
 早期の子宮頸がんは、進行がゆっくりしていて、自覚症状もほとんどありませんから、定期検診で見つけることが必要です。
 しかし、進行すると、性交時の出血、不正性器出血、おりものの増加や血性(けつせい)おりものがみられるようになります。
[検査と診断]
 初期の子宮頸がんは自覚症状が少ないので、定期検診を受けるようにしてください。
 検診のしくみは、一次検診として、内診と細胞診(さいぼうしん)による検査を行ないます。これは痛みもなく、短い時間で簡単にできます。
 細胞診で異常があったときには、二次検診として精密検査を行ないます。精密検査は、コルポスコープ(拡大鏡)で見ながら病変部の組織を少量とり、顕微鏡で詳しく見る組織検査です。このとき多少の痛みと出血があります。
 定期検診以外でも、子宮頸がんの診断には、内診、細胞診、コルポスコープ、組織検査が行なわれます。
[治療]
 図「子宮頸がんの進行期分類と治癒率」の進行期0~Ⅱ期には、手術療法が主体となります。
 0期には、子宮頸部だけを円錐状(えんすいじょう)にけずる方法(未婚女性や妊娠・出産を希望する女性が対象)や、子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ)が行なわれます。
 Ⅰ期は、軽いⅠa期と、少し進んだⅠb期の2群に分けられ、Ⅰa期では準広汎性子宮全摘術(じゅんこうはんせいしきゅうぜんてきじゅつ)、Ⅰb期では広汎性子宮全摘術(こうはんせいしきゅうぜんてきじゅつ)が行なわれます。
 どちらも子宮の周囲組織をつけてとり去る手術で、そのとる広さが、準広汎性は子宮寄りで少なく、広汎性は骨盤骨(こつばんこつ)寄りで広く摘出します。どちらも手術後尿が出にくくなりますが、1か月ほどでほぼもとの状態にもどります。
 Ⅲ期やⅣ期では、放射線治療が主体で、ときには抗がん剤も使われます。
 放射線は、少しずつ照射するので6週間ぐらいかかります。その照射法は、腹部の周囲から5分間程度行なう体外照射法と、腟内に器具を入れて行なう腔内(くうない)照射法があり、この2つを組み合わせて行なわれます。
 子宮頸がんは、これらの治療法でよく治りますが、なかには治りにくいものもあります。それは腺(せん)がんです。
 子宮頸がんは、顕微鏡で見た細胞の形によって、おもに扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと腺(せん)がんに分けられます。現在は、子宮頸がんのうち、扁平上皮がんが85%、腺がんが15%の割合になっています。
 腺がんは、早期にリンパ節へ転移しやすく、また放射線が効かないため、治る率が扁平上皮がんより低いのです。しかし、腺がんでも0期には100%治るので、早期診断が非常に重要です。
 どちらにしても、子宮頸がんでもっともたいせつなことは、早期に見つけることです。症状がなくても、ぜひ定期検診を受けるようにしましょう。
 また、希望すればHPVワクチンの予防接種を受けることができます(小学6年から高校1年の女子)。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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