孤立波(読み)コリツハ(英語表記)solitary wave

デジタル大辞泉 「孤立波」の意味・読み・例文・類語

こりつ‐は【孤立波】

単独の山または谷だけが波形を変えず一定速度で伝播する波。19世紀に英国の技術者J=S=ラッセル水面に生じた局所的な波が伝播する現象を観察し、孤立波と名付けた。粒子のように振る舞う孤立波は特にソリトンという。

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改訂新版 世界大百科事典 「孤立波」の意味・わかりやすい解説

孤立波 (こりつは)
solitary wave

波の荒い日に遠浅海岸で,単独の高い波の山が沖のほうからかなりの距離にわたってほぼ一定の形で押し寄せてくるのを見ることがある。このようにただ一つの山だけが伝わっていく波を孤立波という。水面を伝わる孤立波に初めて注目して研究したのは,スコットランドの造船技術者ラッセルJohn Scott Russel(1808-82)で(1834),孤立波の研究はそれ以来,多くの人によって続けられてきた。1895年にはオランダのD.J.コルテベークとド・フリースが浅い水の表面を伝わる波の方程式として,

を提案し,このコルテベーク=ド・フリース方程式(KVD方程式ともいう)が孤立波の解をもつことを示した。この方程式は非線形である。多くの場合に波は線形波動方程式を満たすものとしてその性質を説明し予測することができる。しかし,この方程式では近似が不十分で説明のできない現象も少なくない。そのため,コルテベーク=ド・フリースの方程式をはじめいくつかの非線形の波動方程式が考え出された。しかし非線形の方程式は一般に解を求めることが困難な場合が多く,これらの方程式に従う非線形波動の研究が著しく発展したのは,20世紀の後半,電子計算機で非線形方程式を数値的に解くことが容易にできるようになってからのことである。

 1966年にN.J.ザブスキーとM.D.クラスカルは計算機による数値実験の結果,コルテベーグ=ド・フリース方程式を満たす波の中にいくつかの鋭い孤立波が現れ,それらが互いにほぼ独立に運動することや,衝突すると互いに相手の中を通り抜けてそのまま進行を続けることなどを見いだし,このような孤立波をソリトンsolitonと名付けた。その後,他の非線形波動方程式においてもソリトンが発生することがわかった。ソリトンは,波が高いほど速い,二つのソリトンが衝突すると重なり合ったのちおのおの完全に元の形に戻って進行を続ける,ソリトンに伴ってエネルギーが一つのかたまりとなって媒質中を伝わるなどの特徴をもっている。ソリトンは流体力学のみならず,固体物理,プラズマ物理,場の理論,電気回路など,さまざまな領域で重要な役割をもつことが明らかになっている。
波動
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百科事典マイペディア 「孤立波」の意味・わかりやすい解説

孤立波【こりつは】

離れ波,ラッセル波とも。風浪やうねりのように波の系列ができず,ただ一つの山,あるいは谷だけが進行するもの。水路の表面に生じた盛り上がりが一定の速さで伝わるのをJ.S.ラッセルが観察し,名づける。孤立波は水面だけでなく,多くの現象に現れる。→ソリトン

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