安倍川(読み)アベカワ

デジタル大辞泉 「安倍川」の意味・読み・例文・類語

あべ‐かわ〔‐かは〕【安倍川】

静岡市を南流する川。山梨県との境にある安倍峠に源を発し、駿河湾に注ぐ。長さ51キロ。
安倍川もち」の略。

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日本歴史地名大系 「安倍川」の解説

安倍川
あべかわ

静岡市と山梨県身延みのぶ町との境の安倍峠(標高一六四七メートル)の南斜面に源を発する一級河川。静岡市域を南流して静岡平野の南部で駿河湾に注ぐ。流長五〇・八キロ。国内でも上位の急勾配を示す。おもな支流として上流から安倍大谷あべおおや川・せきさわ川・安倍中河内あべなかごうち川・安倍大沢あべおおさわ川・油山ゆやま川・足久保あしくぼ川・内牧うちまき川・藁科わらしな川・丸子まりこ川などがあり、東側から合流する関の沢川・安倍大沢川などは急流で短い。これに対して北西側から合流する安倍中河内川・足久保川・藁科川などは長大で、流域面積も大きい。安倍川本流はほぼ直線的に南流し、その東側はフォッサマグナ西縁の糸魚川―静岡構造線にあたり、西側の山地には大井川水系との分水界をなす笹山ささやま構造線が延びている。そのため流域一帯には両構造線の破砕作用に起因する地すべり・崩壊地形がみられる。その代表的な例が安倍大谷川源流部の大谷崩で、同川および安倍川上流部の谷を崩落土砂が埋めている。安倍川は中流部に至っても深いV字谷をなし、下流部で藁科川を合流して静岡平野を形成している。

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改訂新版 世界大百科事典 「安倍川」の意味・わかりやすい解説

安倍川 (あべかわ)

静岡・山梨県境の安倍峠に源を発し,静岡市域を南流して静岡平野の南の中島で駿河湾に流入する川。幹川流路延長51km,全流域面積567km2。おもな支流には上流から安倍大谷(おおや)川,安倍中河内川,足久保川,藁科(わらしな)川,丸子川などがある。本流が流域の東寄りに偏っているため,これらの支流はいずれも北西(右岸)側から流入しており,北東(左岸)側から流入する支流は短小な急流に限られる。安倍川の本流は赤石山脈の南東部に深いV字谷をうがってほぼ直線状に南流しているが,その東側には十枚山(1725m)から真富士山~竜爪(りゆうそう)山(薬師岳,文珠岳)~賤機(しずはた)山へとのびる新第三系の粗面岩,流紋岩類からなる急峻な山列があって,その稜線東側にフォッサマグナの西縁を画する糸魚川-静岡構造線が走っている。また本流の西側にも古第三系の瀬戸川層群からなる高い山地があって,この山地の西縁には笹山(1763m)付近を通って南から南南西にのびる笹山構造線が走っている。これら両構造線の存在とも関係して,安倍川流域一帯の山地には新旧数多くの地すべり・崩壊地形が存在する。日本三大崩れの一つともされる安倍大谷川源流の大谷崩れがその代表的な例で,その崩壊は16~18世紀ころに発生したものと推定されている。この際に崩壊した多量の土砂は土石流となって安倍大谷川および安倍川本流の谷を埋積して7km下流の孫佐島付近にまで達した。しかし,その後に始まる浸食作用も急速で,この土石流堆積面は現在ではすでに深い谷に刻まれて段丘化している。安倍川は中流部においてもなお深いV字谷底を流下しているが,牛妻付近より下流にいたるとようやく狭い谷底平地を見せ始め,そこには江戸時代に霞堤や山付堤を構築することによって開かれた新田が続いている。V字谷は古くから甲州に通じる交通路として利用された。安倍川の下流部には静岡平野が開けるが,その主体はこの川がつくった扇状地性の平野であって,扇頂は賤機山南端の浅間神社付近にあり,静岡市の中心市街地(かつての駿府)はそこから扇央付近にかけて広がっている。なおこの川の上流域は古くは梅ヶ島の日影沢など安倍金山で知られたし,現在では四季の自然を訪ねるハイキングコースとして,また梅ヶ島や口坂本は静かな山峡の温泉・湯治場として親しまれている。山間の流域一帯では茶と林業のほか,ワサビシイタケの栽培も行われている。なおこの川の表・伏流水は,農業用水工業用水,静岡市駿河区・葵区の上水などとして利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安倍川」の意味・わかりやすい解説

安倍川
あべかわ

静岡市梅ヶ島温泉北方の安倍峠(あべとうげ)に源をもち、静岡市街地南部で駿河湾(するがわん)に注ぐ川。一級河川。流路延長51キロメートル。流域面積567平方キロメートル。中河内(なかごうち)川、足久保(あしくぼ)川、藁科(わらしな)川などがおもな支流である。流域は瀬戸川層群、竜爪(りゅうそう)層群などの地質からなり、断層や破砕帯も多く、源流に近い大谷崩(おおやくずれ)は代表的な崩壊地。また、急流であるため河川の諸作用も激しく、砂礫(されき)からなる広い河原をみせ、下流に形成された扇状地には静岡市街地がのっている。荒れ川であるため、中・下流部では薩摩土手(さつまどて)をはじめ、雁行(がんこう)状の霞堤(かすみてい)による治水が進められ、新田集落が開かれた。利水面では静岡市の上水道、静清工業用水道(せいせいこうぎょうようすいどう)の水源として、伏流水が取水されている。河床の砂礫も骨材として採取されたが、河床低下が問題となった。江戸時代、東海道を旅する人は徒渉でこの川を渡った。両岸には川会所があり、川越人夫を常備していた。

[北川光雄]

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百科事典マイペディア 「安倍川」の意味・わかりやすい解説

安倍川【あべかわ】

静岡・山梨県境の安倍峠に発し,南流して静岡市で駿河湾に注ぐ。長さ51km。流域面積567km2。中河内川,藁科(わらしな)川などの支流があり,本支流とも荒れ川で下流は網状流路をなす。平安時代には阿倍河とみえ,渡船があった。江戸時代の東海道筋として徒渉であった。流域は耕地が少なく,林業,ワサビ,茶,ミカンの栽培が行われる。
→関連項目手越宿

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安倍川」の意味・わかりやすい解説

安倍川
あべかわ

静岡・山梨県境の安倍峠付近に源を発し,静岡県中央部を南流,駿河湾に注ぐ川。全長 51km。東海型の急流河川で,上流域には大谷崩をはじめ大小いくつかの崩壊地があり,中流域にかけて河岸段丘が発達,集落が立地している。流域は江戸初期にかけて,金山が開発され産金地帯として知られた。下流域は静岡平野で,静岡市街地南郊に登呂遺跡がある。

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日本の郷土料理がわかる辞典 「安倍川」の解説

あべかわ【安倍川】


「安倍川餅」の略。⇒安倍川餅

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