官房学(読み)カンボウガク(英語表記)Kameralismus[ドイツ]
Kameralwissenschaft[ドイツ]
cameralism

デジタル大辞泉 「官房学」の意味・読み・例文・類語

かんぼう‐がく〔クワンバウ‐〕【官房学】

17~18世紀にかけてドイツ・オーストリアで発展した、富国策を中心とする財政行政経済政策などに関する思想体系。カメラリズム

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精選版 日本国語大辞典 「官房学」の意味・読み・例文・類語

かんぼう‐がく クヮンバウ‥【官房学】

〘名〙 官房事務に必要な学問。特に一七~一八世紀ドイツ、オーストリアで起こった財政、行政、経済政策に関する包括的な学問。カメラリズム。〔最新百科社会語辞典(1932)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「官房学」の意味・わかりやすい解説

官房学 (かんぼうがく)
Kameralismus[ドイツ]
Kameralwissenschaft[ドイツ]
cameralism

17世紀後半から18世紀末にかけて神聖ローマ帝国下のドイツ・オーストリアに発達した,行政に関する諸学の総称。三十年戦争後のウェストファリア条約(1648)により神聖ローマ帝国内の各領邦には領邦主権が認められ,帝国は連邦となった。これ以降各領邦君主は絶対君主制確立をめざして競争しはじめた。当時の領邦君主を補佐していた官庁官房Kammerと呼ばれ,ここに近代官僚制の萌芽が形成されていたのである。官房学はこのような領邦君主と官僚のための学問であり,絶対君主制を確立するための学問であった。そこで,約1世紀半にわたる官房学に共通していたのは,重商主義のドイツ版というべき経済政策によって君主の財庫の繁栄をはかる方策が論じられ,君主主権の絶対性が弁証され,後見主義的な官房行政が一般福祉の名のもとに正当化されたことである。もちろん,官房学も時期的に変遷している。1727年にプロイセンの大学で官房学の公開講座が開設され,これより組織的な官僚養成教育がはじまっているので,これ以前の官房学を前期官房学,以後のそれを後期官房学という。前期官房学者にはゼッケンドルフV.L.von Seckendorff,ベッヒャーJ.J.Becher,ヘールニクP.W.von Hörnigk,シュレーダーW.F.von Schröderなどがおり,領邦君主に対して個別具体的で実践的な献策をするための著作が多かった。これに対して,後期官房学者にはユスティJ.H.G.von Justi,J.vonゾンネンフェルス,ベルクG.H.von Bergなどがおり,彼らの著作には官僚養成講座用の教科書が多く,その内容も総合的体系的で理論的であった。また後期官房学には自然法哲学の影響があらわれ,君主をも拘束する法の観念が徐々に形成されていった。しかし,1806年に神聖ローマ帝国がナポレオンに敗れ崩壊して以来,ドイツ・オーストリアの各領邦にも憲法闘争が生じ,絶対君主制は立憲君主制に移行していった。官房学は絶対君主制の終焉(しゆうえん)とともに衰退し,これに代わってこの土壌のなかからドイツ流の財政学,経済政策学,国家学,行政学,公法学が分化発展していくことになった。官房学の影響はドイツ流の国家学,公法学等をとおして明治以来の日本にもおよんでいる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「官房学」の意味・わかりやすい解説

官房学
かんぼうがく
Kameralwissenschaft

17~18世紀のドイツで富国策として発展したカメラリスムスを体系化した学問をいう。官房学ないし官房学派 Kameralismusとは,君侯の内府 Kammerからきた言葉である。イギリスの重商主義が,王室の財政中心とはいえ,ある程度まで国民的視野に立っていたのに対し,16~18世紀中頃にかけてのドイツにはまだ統一国家がなく,大小多くの領邦に分裂しており,完全な農業国で,その富強化のためには文化面も含めて国家問題の全般を掌握する特殊な専門家を必要としていた。このことが国家に関する諸科学,すなわち経済理論,経済政策,財政学,行政学,技術工芸学などの集合体たる特有の官房学を生み出した要因と考えられている。 1727年にハレ大学とフランクフルト・アン・デア・オーデル大学に官房学の講座が開設されたときを境に,通常は前期官房学と後期官房学とに分けて考えられており,前期の代表者は J.ベッヒャー,W.シュレーダー,V.ゼッケンドルフらであり,後期の代表者は J.ユスティ,J.ゾンネンフェルスらである。

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百科事典マイペディア 「官房学」の意味・わかりやすい解説

官房学【かんぼうがく】

ドイツ語Kameralwissenschaft,Kameralismusの訳。17世紀後半から18世紀末にドイツ諸邦で発展した学問で,経済,行政,財政等にわたり,絶対君主制の確立を目指す領邦君主と官僚(官房)に奉仕した。領邦の政治的・経済的統一,君主の富強,国庫の充実を目的とする,ドイツ版重商主義を支える学であったが,のちのドイツ流財政学,国家学,行政学などの土壌となり,明治以降の日本にも影響を与えた。
→関連項目租税公需説

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「官房学」の解説

官房学(かんぼうがく)

カメラリスムス

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世界大百科事典(旧版)内の官房学の言及

【行政学】より

…広義には,政府の行政に関する種々の研究の総称である。この広義の行政学の淵源をもとめるなら,それは17世紀中葉以来神聖ドイツ・ローマ帝国内の各地で発達した官房学である。官房学は,のちの財政学,行政学,行政法学,経済政策学等の母胎であった。…

※「官房学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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