宝永水府大平記(読み)ほうえいすいふたいへいき

改訂新版 世界大百科事典 「宝永水府大平記」の意味・わかりやすい解説

宝永水府大平記 (ほうえいすいふたいへいき)

水戸藩は1706年(宝永3)松波勘十郎を頼み,年貢増徴,専売制改組,内陸舟運路建設など財政立直しのための〈宝永改革〉を展開した。しかし08年末から全藩農民の反対運動が盛んになり,09年1月には数千人が江戸に上って藩邸と交渉を重ね,将軍徳川綱吉の葬儀に臨む藩主の駕を道に阻止する態勢を組むことで藩を屈服させ,松波罷免,改革の停止をかちとった。この事件の経過を伝える民間記録の一つが本書である(原本は茨城県日立市大内隼男所蔵,《日本思想大系》58所収)。茨城県常陸大宮市の旧大宮町長山春代所蔵の《宝永太平記》は,本書とほとんど同じものである。ほかに1701年(元禄14)から始まる《宝永大平記》《御改革訴訟実秘録》《宝永吾妻鑑》などの題の写本が数点,同じく06年から始まる《水戸御領御改革訴》(笠間市江川文展所蔵),《御改革訴訟》(彰考館所蔵,刊本は《近代日本における歴史学の発達》(上)所収)がある。《御改革訴訟》は,農民側の中心的指導者市毛藤右衛門が勝利の直後にまとめた総括で,多数の一揆記録のなかでも稀有のものであり,家老と農民代表の論争を詳しく紹介するなど,一揆史,民衆思想史のきわめて貴重な史料となっている。本書は,これをもとにさらに1690年からの前史と松波追放以後獄死までの後史および関連落書を付加して体裁をととのえたものである。これらのほかに〈水府松並評〉〈水府松並記〉の2写本があるが,これは江戸の職業的作者の手になる実録文芸で,本書の系列とはまったく別の独自のものである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android