害敵手段(読み)がいてきしゅだん

改訂新版 世界大百科事典 「害敵手段」の意味・わかりやすい解説

害敵手段 (がいてきしゅだん)

広義には,交戦国が戦争目的達成のため敵に対して行使する暴力的または策略的手段・方法の総称であり,狭義にはその中心を占める兵器を指す。交戦国は原則としてみずから有する害敵手段を総合的に行使しうるが,国際条約や慣習規則による制限には従わなければならない。このことは,1907年〈陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則〉(ハーグ陸戦規則)で〈交戦者ハ害敵手段ノ選択ニ付,無制限ノ権利ヲ有スルモノニ非ス〉(22条)として明文化され,1949年のジュネーブ諸条約に対する1977年の第一追加議定書でも確認されている(35条)。害敵手段は,兵器と攻撃・爆撃方法とに大別される。特定の兵器や特定の攻撃・爆撃方法について禁止や規制をする規則が種々存在するが,それらの背景にある共通の原則として次のものがあげられる。すなわち,無差別攻撃ないし破壊の禁止,文民や非軍事物の攻(爆)撃からの保護,不必要な苦痛を与える害敵手段・方法の禁止である。背信行為の禁止もこれに加えられることがある。これらの原則はすでに19世紀後半以降の国際文書(1868年ペテルブルグ宣言やハーグ陸戦規則)において表明されてきた。しかし,今日の害敵手段は核兵器をはじめとする大量破壊兵器登場総力戦ゲリラ戦といった新しい方法の採用により多様化・複雑化しており,基本原則の個々の害敵手段への適用のためにも新しい規則の作成が必要となっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「害敵手段」の意味・わかりやすい解説

害敵手段
がいてきしゅだん

武力紛争時に交戦者が戦争目的を達成するために相手側交戦者に対して行う戦闘行為をいう。相手側交戦者の戦闘意思,戦闘能力を奪って,戦闘外におく。交戦者には害敵手段行使の権利が与えられるが,1907年の「陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則」は,「交戦者ハ害敵手段ノ選択ニ付無制限ノ権利ヲ有スルモノニ非ス」 (22条) と規定する。毒,毒ガス細菌の使用,背信行為,不助命宣言,捕虜・傷病者・文民の殺傷などは禁止されている。

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