家子(読み)いえのこ

精選版 日本国語大辞典 「家子」の意味・読み・例文・類語

いえ‐の‐こ いへ‥【家子】

〘名〙
① その家に生まれた子。とくに良家の子弟、高貴の子供の場合に用いられる。
万葉(8C後)五・八九四「天の下 奏(まを)したまひし 家子(いへのこ)と 選ひたまひて」
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「舞のさま手づかひなむ、いゑのこはことなる」
② 武士の一族で、その惣領(家督・嫡男)と主従関係に立ったもの。庶子・分家一族などが含まれた。一族。一門。血縁関係がなく臣従したものを郎等、郎従、所従、家人などと呼んだのに対する語。
※玉葉‐寿永二年(1183)一二月二日「行家軍忽以敗績、家子多以被伐取了」
③ 武士の従者のうち、自己の所領をもち経済的に自立しうるもの。所領をもたないものを家人と呼んだのに対していう。
※常陸大掾伝記(江戸)「家の子と云は、本領を持たる名代の人奉公するを、家の子と云也」
④ (武家の)家臣家来
※義経記(室町中か)八「秀衡が家の子、長崎太郎太夫と申す」
⑤ (私家の)従僕。召使い
※源氏(1001‐14頃)東屋「故大将殿にも、若くより参り仕うまつりき。いゑのこにて見たてまつりしに」
政界などで、勢力者の子分派閥に属する一般議員など。

け‐ご【家子】

〘名〙 家の者。妻子召使弟子などの類。後世、特に「しもべ」の意に限っていう地方もある。いえのこ。
※竹取(9C末‐10C初)「然(しかる)に祿いまだ給はらず。是を給ひてわろきけこに給はせん」
※俳諧・芭蕉真蹟懐紙(酒に梅)(1685)「葛城の郡竹内に住人有けり。妻子寒からず、家子(けご)ゆたかにして、春田かへし、秋いそがはし」
[語誌](1)「いへのこ」の漢字表記「家子」の「家」を音読みした語と説かれる。「いへのこ」が古く「万葉集」にあるのに対して、「けご」は挙例の「竹取物語」の用例が最も古い。
(2)平安時代の貴族社会における「いへのこ」は名門の子弟などを指した。中世以降、「いへのこ」は従者の意も表わしたが、従者の中でも尊重される者に対して用いた。それに対して、「けご」は本来、妻子、弟子、召使など家に属する(主人以外の)者を一般的に指す語として用いられた。

や‐つ‐べ【家子】

〘名〙
① 山形県庄内地方などで、子分または手下をいう。
② 青森県津軽地方などで、実子をいう。

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デジタル大辞泉 「家子」の意味・読み・例文・類語

け‐ご【家子】

妻子・召使いなど、その家の者。いえのこ。
「これを給ひて―に給はせむ」〈竹取

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改訂新版 世界大百科事典 「家子」の意味・わかりやすい解説

家子 (いえのこ)

中世武士団の構成員の一。奈良・平安時代には良家の子弟をさしてよばれたが,武士団の発展とともにその家結合の主要な構成員をさすようになった。武士団の家は惣領を中心とした血縁関係を結合の基礎においていたが(惣領制),家子とは惣領の子弟,一族庶子家の長,および血縁関係はないがこれに準ぜられた者をさす。家人(けにん)や郎従郎等などの従者とは区別され,本領をもち経済的には独立していて,武士団の中では高い地位をしめていた。しかし鎌倉末期になって,分割相続から単独相続への転換,庶子家の独立の傾向など,武士団に変化がおきると,家子の家人への転落や逆に家子の自立がみられるようになり,かつての家子の武士団結合にしめる比重は低下した。その後の家子は単に一族,または一族に擬された地位の高い者ほどの意味で使われるようになった。
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百科事典マイペディア 「家子」の意味・わかりやすい解説

家子【いえのこ】

中世武士団の構成員。一門の嫡流である惣領(そうりょう)に対して庶流のものをいったが,次第に家人と混用され,一族のほか家臣をも意味するようになった。→郎等

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旺文社日本史事典 三訂版 「家子」の解説

家子
いえのこ

中世武士団の構成員で,一族の長である惣領に対して庶子をいう
彼らは所領をもち独立の生計を営むが,その行動は惣領の指揮下にあった。室町時代には家人 (けにん) とともに家臣を意味したが,守護の被官となって消滅した。

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世界大百科事典(旧版)内の家子の言及

【家中】より

…家中は主家の名を冠して〈前田様御家中〉〈伊達家御家中〉〈尾州家御家中様〉などと呼ばれ,その所属の藩士または藩であることを示した。狭い範囲の同族結合である家内という家中本来の意味が,武士団の成長につれて拡大され,大名に臣従する家子(いえのこ)や新参服属の郎党までも含めて家中または家中衆と呼ぶようになったのである。家中には大名の一門,譜代,外様などの区別があり,身分格式の差別を伴った。…

【郎等】より

…従者のうちでも地位の高い者を郎等といい,低い者は従類といった。郎等のうち主人一家に擬せられたのが家子(いえのこ)であり,家子,郎等,従類などをあわせて郎従という。郎等は中世初期武士団にあっては中核的存在であり,主人に名簿(みようぶ)を奉呈したり,また初参(しよさん)といってはじめて見参(げんざん)することにより,主従関係を形成した。…

※「家子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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