家族の経済格差(読み)かぞくのけいざいかくさ

知恵蔵 「家族の経済格差」の解説

家族の経済格差

2006年は、「経済格差の拡大」に関する議論が盛んであった。経済格差の拡大は、家族のあり方に影響を及ぼし、同時に、家族のあり方の多様化が、経済格差を拡大させる要因ともなる。 1990年頃までは、サラリーマン‐専業主婦型家族(モデル家族)は、「中流家族」の典型であった。サラリーマンの初任給格差は小さく、その後格差がつくものの、ほとんどのサラリーマンの収入が上昇したので、ほとんどの人が結婚でき、平等意識を持てたのである。 近年、経済の構造転換によって、若年男性の収入格差が大きくなると、収入の低い男性は結婚相手として避けられるようになり、未婚化が進む。さらに、収入の格差を伴って女性の職場進出が進行し、夫婦の役割分業パターンの多様化と共に、家族の経済的格差が拡大する。フルタイム共働きで高収入を稼ぎ出す若年夫婦や、高収入男性のもとで裕福に暮らす専業主婦型家族が出現する一方、夫婦共に不安定雇用のため生活困難に陥る家族や、収入が低いために結婚相手として選ばれにくい未婚男性も増加する。 この影響は、子育て世代に最も顕著に表れている。私立中学受験など子供に多額の教育投資を行う親が増えている一方で、収入が低いために自治体から就学援助を受ける親も増大している。 これは、子供の能力開発機会が不平等になるだけでなく、意欲にも格差が生じる一因になっている。

(山田昌弘 東京学芸大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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