寒天(読み)かんてん

精選版 日本国語大辞典 「寒天」の意味・読み・例文・類語

かん‐てん【寒天】

〘名〙
① 冬の空。また、寒い気候。さむぞら。《季・冬》
※新撰万葉(893‐913)上「寒天月気夜冷々、池水凍来鏡面瑩」
テングサを煮て固め、凍らせてさらに乾燥したもの。軽く、白色。再び煮て冷やすと透明になって固まる。寒天寄せなどの料理や、蜜豆、羊かんの材料に用いたり、また、医薬用にも用いる。「寒天製す」「寒天晒す」「寒天造る」「寒天干す」などの形で冬の季題とする。
浮世草子・男色大鑑(1687)三「挟箱に付し石花(カンテン)干瓢もおろして、立戻り」
③ (寒天のように)やわらかい人。軟派(なんぱ)
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一二「カンテン野郎、こんにゃく男児たア、君の事だ」

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デジタル大辞泉 「寒天」の意味・読み・例文・類語

かん‐てん【寒天】

寒い冬の空。寒空さむぞら。冬天。 冬》
テングサなどの煮汁を凍結・乾燥させた食品。煮溶かしてゼリー状とし、蜜豆水羊羹などの菓子の材料とする。また、微生物培養基や写真工業など利用は広い。
[類語](1寒空冬空青天碧落青雲朝空夕空夜空初空秋空秋の空星空

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「寒天」の意味・わかりやすい解説

寒天
かんてん

テングサなどの紅藻類を煮溶かして固めたもの(ところてん)をいったん凍結したのち乾燥した製品。寒晒(かんざら)しでつくる「ところてん」の意味からこの名がある。

河野友美・大滝 緑]

歴史

1658年(万治1)の冬、参勤交代途上の島津侯が京都伏見(ふしみ)の旅宿美濃屋(みのや)太郎左衛門方で、食べ残しのところてんを戸外へ捨てたところ、寒夜のもとで凍結し、日中になると解けて乾燥し、鬆(す)の入った乾物になった。これをヒントに宿の主人が創製して売り出したのが寒天の始まりという。寒天の命名者は隠元隆琦(いんげんりゅうき)とも伝えられる。明和(めいわ)年間(1764~72)に摂津(大阪府)島上郡の宮田半平が伏見の寒天製法を習って大規模な製造を始めたが、天保(てんぽう)年間(1830~44)に信濃(しなの)国(長野県)諏訪(すわ)に伝わり、自然条件に恵まれた同地の名物となった。

[河野友美・大滝 緑]

製法

天然寒天と工業寒天(フレーク状、パウダー状など)に大別される。天然寒天には棒(角)寒天と糸(細)寒天があり、冬季、屋外で自然凍結、自然解凍、天日乾燥でつくられる。両者の大きな工程上の違いは、ところてん(寒天ゲル)の脱水方法にある。天然寒天の製法は、乾燥したテングサなどの原藻を水で煮て木箱に入れて固め、これを戸外に並べ、1週間ぐらい零下5~零下10℃の寒気で凍結、5~10℃の低温で乾燥を繰り返す。原藻を煮溶かすときの水は、鉄分の少ないものがよい。ゼリー状のところてんは、凍結により寒天質と氷の結晶に分かれ、これが溶けるときに、寒天質と水とが分離する。この脱水工程を機械化してつくられるのが工業寒天である。(1)人工的に凍結→解凍→乾燥させたものがフレーク状寒天で、(2)凍結させないで、ところてんをただちに脱水→濃縮→乾燥させたものがパウダー状寒天である。かつては、工業寒天は純度は高いが粘性は弱いといわれたが、現在は、原料精製の手法などにより、目的の粘性のものをつくることができる。また、医学用、分析用、組織培養用の製品もつくられている。

[河野友美・大滝 緑]

成分

炭水化物(主成分はアガロースアガロペクチン)がおもで、消化吸収しにくい。したがって低エネルギー食品として利用されることも多い。煮熟して冷却すると40℃前後でゼリー化し、ゼリー化したものは80~85℃でないと溶けない特性をもつ。酸性になるとゼリー化力が低下する。

[河野友美・大滝 緑]

利用

棒寒天のちぎったものやフレーク状寒天は、洗って絞り、水につけて加熱、パウダー状寒天は水に溶かして加熱して煮溶かす。棒寒天では1本に対して水2~3カップが標準である。砂糖や果物や牛乳などを加えてゼリー状に固める。寒天濃度1%のとき約30℃で凝固する。濃度が高いほど凝固は早い。また、砂糖が加わると凝固しやすくなる。卵白の気泡を入れた泡雪かん、2色の層状にしたものなどがつくられる。また、水羊かんなどの菓子原料や医薬品原料、微生物培養の寒天培地としても使われ、利用範囲は広い。

[河野友美・大滝 緑]


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改訂新版 世界大百科事典 「寒天」の意味・わかりやすい解説

寒天 (かんてん)

テングサなどの熱水抽出液の凝固物であるところてん(心太)を凍結乾燥した海藻加工品。ところてんはすでに奈良時代に食用にされていたが,江戸時代に至り,偶然戸外に捨てたところてんが寒気で凍り乾燥したことが契機となり製造されるようになったため,寒天と名付けられた。原藻はテングサ,オニクサ,ヒラクサ,オバクサなどのテングサ目に属するものが主であるが,スギノリ目のオゴノリなども用いられる。近年,原藻の一部はチリ,アルゼンチンから輸入している。

寒天は製法により〈天然寒天〉と〈工業寒天〉に分けられる。天然寒天の製造は,原藻配合,水洗,煮熟抽出,ろ過,凝固成形,切断,自然凍結,自然融解・乾燥の工程をとる。凍結~乾燥は数回反復し,最後に風乾して仕上げる。この間1~2週間を要し,原藻に対する製品の歩留りは15~30%である。長野,岐阜が主産地で〈角寒天〉〈細寒天〉がある。工業寒天の製法は天然寒天の製造工程を機械化したもので,ところてんを冷凍機により凍結し,注水解凍,圧搾脱水,熱風乾燥,粉砕の工程をとる。製品は鱗片状,粒状,粉末状などに仕上げる。なおオゴノリのみを原藻とした場合は,あらかじめアルカリ処理により凝固性を高める必要がある。工業寒天では立地条件に制限はなく,静岡,東京,千葉などが主産地であるが,近年国内だけでなく,韓国,インドネシアデンマーク,スペイン,メキシコ,チリ,アルゼンチン,オーストラリアなどでも生産されている。

製品の成分はタンパク質,脂肪をほとんど含まず,大部分がD-ガラクトースおよび3,6-アンヒドロガラクトースを構成糖とする多糖類よりなる。品質は通常ところてんのゼリー強度により決められる。普通の細菌に対し著しく抵抗力があるため細菌培地など医薬用,工業用に用いられるほか,水に85℃前後で溶け,冷やすと約30℃でゲル状に凝固する性質が可逆的であるところから,ようかん,ジャム,乳製品,缶詰など食品加工用に使われる。また難消化性のためカロリー源としての栄養価は低いが,便秘を防ぐ効果があり,最近は低カロリー食品の素材としての用途が広がっている。

 寒天の語が見られるようになるのは《和漢三才図会》(1712)あたりからで,同書には〈石花菜(ところてん)〉を寒夜に煮て屋外に置くと〈凝凍して甚だ軽虚なり,俗にこれを寒天と謂う〉とある。それに続けて,スオウで赤く染めたのを色寒天といい,伏見(現,京都市)でつくっていること,それが僧家の料理に重用されていることなどを述べている。寒天の使用によって大きな変化が生まれたのは菓子で,寛政(1789-1801)ごろ創製された練りようかんは圧倒的な人気を博したものであった。現在では練りようかん類以外にジャムやゼリーなどの製菓用に,また料理では口取りに使う甘味の寄せ物のほか,滝川豆腐のようなものに用いる。滝川豆腐は水から煮溶かした寒天液に,裏ごしした豆腐をまぜて冷やし固め,ところてんのように天突きで突き出して鉢に盛り,ワサビじょうゆや二杯酢で食べる。もみノリ,刻みネギなどを添える。
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食の医学館 「寒天」の解説

かんてん【寒天】

《栄養と働き》


 寒天(かんてん)の原料はテングサやオゴノリなどの紅藻類(こうそうるい)です。なかでもテングサは静岡、千葉、三重、和歌山から北海道、朝鮮半島の近海で収穫されます。
 テングサを日光にさらして漂白し、そのあと煮出して煮汁をかためたものが、「ところてん」になります。そのところてんを切り、凍結させたのち解凍させ、さらに乾燥させたものが寒天です。寒天は日本の特産物です。
 現在、兵庫、長野などでは冬期の寒さを利用して天然寒天をつくりますが、工場で量産される工業寒天のほうが数多く出回っています。
 寒天はゼラチンとよく似ていますが、凝固性が10倍もあり、溶けにくいという特徴があります。ゼラチンは牛やクジラ、豚など動物の皮の中のたんぱく質からつくったもので、煮沸(しゃふつ)してゼラチン質を抽出し、ろ過→冷却→乾燥→ブレンドという工程を経て製品になったものです。
 主成分はたんぱく質で、食物繊維が主成分の寒天とは異なります。
〈100gで3kcalという超低カロリー食〉
○栄養成分としての働き
 寒天の成分は、複合多糖類に分類される高分子炭水化物です。
 低カロリーなので太る心配がありません。
 食物繊維が豊富なので、便をやわらかくしたり便秘(べんぴ)解消に役立つほか、便をだすときにコレステロールも体外に排出します。
 便秘は吹き出ものや肌荒れ、精神をイライラさせるほか、大腸がんを引き起こす原因の1つと考えられています。

《調理のポイント》


 寒天は冷たい水には溶けませんが、熱を加えると溶けます。そして、40度以下になるとかたまるという性質があります。
 調理するときは、寒天を水に浸してから加熱しますが、その際の温度の目安は、溶けるのが87度~95度、かたまりはじめるのが30度~40度、常温でもかたまる、と覚えておきましょう。
 寒天には、棒寒天、糸寒天、粉寒天などの種類がありますが、調理方法はほぼどれも同じです。
 たとえば棒寒天なら、30分~1時間水につけ、十分もどしてから煮溶かしてかため、天突きで細い糸状にします。この食べものが、ところてんです。
 関東では酢じょうゆとカラシ、関西では黒蜜をかけて食べるのが一般的です。
 寒天は無味無臭ですので、みつ豆やようかんなどの菓子や製菓として用いられています。中華料理のデザートの杏仁豆腐(あんにんどうふ)も寒天が使われたものです。
 また、食卓の料理として煮こごりや、(糸寒天なら水もどししただけで使えるので)サラダ、寄せものなど幅広く利用できます。
 寒天は、湿気の少ないところに保管すれば、3年以上は十分保存が可能です。

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化学辞典 第2版 「寒天」の解説

寒天
カンテン
agar, agar-agar

海藻類のテングサ科(Gelidium),オゴノリ科(Gracilaria),オキツノリ科(Ahnfeltia),そのほかに含まれる酸性多糖で,細胞間粘性物質.原藻を洗浄し,沸騰水で抽出して得られた粘性水溶液に,アルコールを加えて沈殿させる.また,加温溶液を冷却して得られたゲルを凍結,融解を繰り返して精製する.アガロース(80~28%)とアガロペクチンとからなる.アガロースは(1→3)結合のβ-D-ガラクトビラノースと(1→4)結合の3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトビラノースが交互に繰り返された構造を有し,アガロペクチンは多糖の混合物で,D-ガラクトース,3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース,硫酸エステル,D-グルクロン酸からなっている.また,ピルビン酸D-ガラクトースにケタール結合しているものもある.市販の寒天は白色透明で冷水に不溶であるが,多量の水を吸収して膨潤する.熱水に徐々に溶け,1~2% の熱水溶液を冷却するとゼリー状に凝固する.微生物培地,製菓原料に使われる.

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普及版 字通 「寒天」の読み・字形・画数・意味

【寒天】かんてん

寒空。唐・岑参〔三会寺蒼頡造字台に題す〕詩 野寺、(く)れ 天、古木悲し 階、鳥跡り ほ書をれる時に似たり

字通「寒」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「寒天」の意味・わかりやすい解説

寒天【かんてん】

テングサを70〜80℃に煮熟し,濾過(ろか)した液を箱中に流し入れて天然の寒気で凝固・凍結させたのち,日光に当てて水を除き乾燥させたもの。ところてんを冷凍機で凍結させて作る工業寒天もある。またオゴノリを化学処理して化学寒天も作られている。ジャム,ゼリー,ようかん,ところてん等菓子用に,また緩下剤,細菌培地,酒類の清澄剤,オブラート等にも用いられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「寒天」の意味・わかりやすい解説

寒天
かんてん
agar-agar

天草などの海藻から抽出した粘質物を凍結乾燥したもの。ところてん,みつ豆などとして食用とするほか広く料理,製菓材料,あるいは緩下剤,オブラート原料など医用,細菌培養基などにも用いられる。ところてんとしては平安時代から食用に供されていたが,寒天の製造は江戸時代中期からで,京都の旅館主によって製造販売されたのが最初であると伝えられる。初め,おもに京阪地方でつくられていたが,現在ではその大半が立地条件のよい長野県で生産されている。成分は大半が炭水化物であるが,食用してもほとんど消化されないことから,低エネルギー食品として関心を集めている。

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知恵蔵 「寒天」の解説

寒天

テングサ、マクサなど海藻の加工乾燥食品。水で戻して煮溶かし、みつまめ、ところてん、水羊羮などの和菓子に使われてきた。2005年にテレビ番組で紹介されて以来、食物繊維を豊富に含みがんや糖尿病予防に効果的、低カロリーでダイエットにもよい健康食品として脚光を浴びている。BSEの影響が心配されるゼラチンの代用品としても活用される。

(中島富美子 フード・ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「寒天」の解説

寒天

 紅藻類のテングサなどから抽出する多糖で,食用にする.

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世界大百科事典(旧版)内の寒天の言及

【多糖】より

…実際,細胞分裂の直後に形成される最初の隔壁はペクチンであり,この隔壁の表層およびその内側にできる二次壁にセルロースが配列する。紅藻の粘質多糖としては寒天agarが知られている。この中でゲルを形成する成分はガラクトースとL‐アンヒドロガラクトースからなる多糖で,アガロースと名付けられている。…

【山岡[町]】より

…古代は《和名抄》にみえる淡気(たむけ)郷,中世は遠山荘に含まれ,近世は上手向(かみとうげ),下手向など5ヵ村が中山道大井宿(現,恵那市)の助郷であった。古くからの水田地帯で,寒天と陶土の町としても知られる。天然の寒天製造は冬の寒冷な気候を利用して昭和初期に始められたが,第2次大戦後は県立寒天研究所の指導によって化学寒天も製造され,県下有数の生産高をあげている。…

※「寒天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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