対流圏(読み)たいりゅうけん(英語表記)troposphere

翻訳|troposphere

精選版 日本国語大辞典 「対流圏」の意味・読み・例文・類語

たいりゅう‐けん タイリウ‥【対流圏】

〘名〙 地表から平均の高さ約一一キロメートルまでの上下の対流のさかんな大気層極地方では約八キロメートル、赤道地方では約一七キロメートルまでに達する。日射により対流が生じ、雲の発生、降雨などの気象現象が起こる部分温度は一キロメートル上昇するごとに平均摂氏約六・五度低下する。
※美しい星(1962)〈三島由紀夫〉六「中緯度地帯の圏外切れ目を洩れて、とめどもなく対流圏へ散華する」

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デジタル大辞泉 「対流圏」の意味・読み・例文・類語

たいりゅう‐けん〔タイリウ‐〕【対流圏】

大気圏の区分の一。地表から極地方では高さ約8キロ、赤道地方では約17キロまでの大気の層。日射により対流を生じ、雲・雨などの天気現象はこの圏内で起こる。上面を圏界面といい、その上は成層圏になる。
[類語]大気圏成層圏中間圏熱圏電離圏電離層外気圏

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「対流圏」の意味・わかりやすい解説

対流圏
たいりゅうけん
troposphere

地球を取り巻く大気のうち、地表面から始まり高度10~17キロメートルの範囲をいう。対流圏の上端を対流圏界面、または単に圏界面とよぶが、その上端の高度は高緯度地域で低く10キロメートル前後、熱帯地域では高く17キロメートルに達する。中緯度の大気をモデル化した標準大気では11キロメートルである。

 対流圏では、気温は高さとともに減少し、その割合は、標準大気では1キロメートル当り6.5℃とされている。このような状態は、水蒸気凝結を伴う空気の鉛直運動に対して不安定であり、したがって盛んに対流がおこる。ほとんど温度一定の成層圏が発見されたのちに、それに対して対流圏と名づけられた。晴れた日に見られる積雲や、夏に多く見られる積乱雲入道雲)は対流の現れである。熱帯域にはつねに積乱雲の集団が散在し、そのなかで著しいものは熱帯低気圧となる。

 対流圏では、南北の温度差に起因する大規模な大気擾乱(じょうらん)である温帯低気圧も発生する。これらの擾乱に伴って雲が生じ、雨や雪のような降水現象もおこる。すなわち天気の変化がみられる。成層圏以上の大気中には、このような天気現象はない。これらの運動(擾乱)によって、対流圏内の空気は上下・南北によく攪拌(かくはん)されており、ある場所に存在した物質は約30日で対流圏全体に行き渡る。

松野太郎

海洋

表層水、中央水と赤道水の上部を含む部分をいい、暖水圏にあたる。対流圏の中では海面を通じて大気との熱などのエネルギー交換が盛んで、対流や強い海流もあることから、水温塩分の場所による差が大きい。中緯度海域では季節による温度・塩分などの変化も著しい。

[半澤正男]

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改訂新版 世界大百科事典 「対流圏」の意味・わかりやすい解説

対流圏 (たいりゅうけん)
troposphere

大気圏の最下層にあって,対流混合の活発な成層。大気の重量の7~8割は対流圏内にある。地球表面に接し,海洋や大陸から水蒸気が補給される。大気圏の水蒸気はほとんど対流圏内にあり,雲,降水,雷雨,にじなど主な気象現象はこの層の中で発生する。対流圏下部の大気は地面や海面から熱を輸送されて暖められるが,対流圏上部は放射によって熱を失うので,冷やされ,鉛直気温減率は大きくなる。そのままでは大気成層は鉛直的に不安定になるので,対流が起こり上下の混合が盛んになる。その結果,平均的にほぼ一定の気温減率(5~7℃/km)の成層がつくられる。この気温減率が2℃/km以下になるところを圏界面tropopauseまたは対流止面といい,成層圏と対流圏の境に当たる。その高度は赤道地方で約18km,高緯度地方で約8kmである。対流圏下部は地表面に接しているので摩擦力が大きいが,対流圏上部は摩擦が少ないために大気の運動特性が違う。そこに注目して対流圏の成層を分けると,下から接地層(地面~高度約100m),エクマン境界層(高度約100m~約1km),自由大気(高度約1km~圏界面高度)の三つがある。接地層は地面摩擦が大きく,運動量や熱の乱流拡散が活発な気層,エクマン境界層はコリオリ力,気圧傾度力,地面摩擦力の三つの力がつりあって運動する気層で,これら二つの気層を大気境界層と呼ぶ。自由大気は摩擦力の影響が無視できるほど小さく,運動は理想流体で近似できる。
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百科事典マイペディア 「対流圏」の意味・わかりやすい解説

対流圏【たいりゅうけん】

(1)大気成層のうちいちばん低い層。極地方で高度約8km,赤道地方で約18km以下。地面は日射で暖められ,上部では放射による冷却があるため,対流が起こる。雲の発生や降雨,降雪はこの圏内だけにみられる。(2)海洋では北緯55°〜南緯45°の海域の海水の上層をいい,大気とのエネルギー交換が盛んで,海流が存在し,対流や渦動が活発。赤道下で深さ約300m,南北緯20°〜30°で最も深く約800m。
→関連項目オゾン層保護条約気温減率成層圏

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「対流圏」の意味・わかりやすい解説

対流圏
たいりゅうけん
troposphere

大気圏の最下層をなす部分で,地表から対流圏界面までの大気層。高さは極地方では約 10km以下,赤道地方では約 18km以下である。地面が日射で暖められることにより地表面付近の大気が暖められ,上層の大気は赤外放射によって冷やされるため,気温減率が増大する。この結果上下対流が発生し,常に空気の上下混合が起こることから対流圏と呼ばれる。このような対流平衡(断熱平衡)にある大気では,気温は 100m上昇するごとに 0.6~0.7℃の割合で下降する。地球大気はその下層に水蒸気を多く含むため,この対流に伴って雲の発生や降雨,降雪が盛んに起こり,気象の変化はほとんどこの圏内で起こるといってよい。

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世界大百科事典(旧版)内の対流圏の言及

【大気】より

…また,高度60km以上では空気分子は電離しているので電離圏ともいい,それ以下を中性圏ともいう。(1)対流圏troposphere 温度が高度1kmにつき5~6℃下がる層で,高さは地上から十数kmに達する。太陽からの熱は大気層に吸収されることなく地球に達して地表面をあたためる。…

【大気】より

…一般には温度構造に着目した区分と大気の組成比に着目した区分とが用いられる(図3)。前者は気温の逓減率によって区分したもので,下から対流圏,成層圏,中間圏,熱圏に分けられる。後者では大気の組成比が高度約80kmまで変わらず,大気を構成する分子がよく混合しているので,均質圏homosphereと呼ぶ。…

【大気大循環】より

… 大気は気温の鉛直分布の特徴からいくつかの層に分けることができる。地表から約10kmまでは,気温が上層へいくほど低くなっており,この層を対流圏という。対流圏では対流活動が活発で,空気の上下の混合が盛んである。…

※「対流圏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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