小栗判官(読み)オグリハンガン

デジタル大辞泉 「小栗判官」の意味・読み・例文・類語

おぐり‐はんがん〔をぐりハングワン〕【小栗判官】

伝説上の人物。常陸ひたちの城主。名は助重。父満重が管領足利持氏もちうじに攻め殺されたとき、照手姫に救われて、藤沢の遊行上人の道場に入る。説経節浄瑠璃主人公

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精選版 日本国語大辞典 「小栗判官」の意味・読み・例文・類語

おぐり‐はんがん をぐりハングヮン【小栗判官】

説経節や浄瑠璃などに登場する伝説上の人物。また、それを主人公とした浄瑠璃作品。→小栗物
浮世草子・昼夜用心記(1707)一「あちらには出羽播磨ぶし、こなたには加賀掾角太夫ぶし。説経は小栗判官(ヲグリハングヮン)林清ぶしに涙をこぼし」

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改訂新版 世界大百科事典 「小栗判官」の意味・わかりやすい解説

小栗判官 (おぐりはんがん)

説経節の曲名。正本としては,古い説経から詞章を得ているといわれる御物(おもの)絵巻《をくり》と,奈良絵本《おくり》が注目される。奔放な振舞いが災いして都から常陸へ流された小栗が,相模の豪族横山の一人姫照手(てるて)と強引に契るに及んで怨みを買い,横山によって毒殺されるまでを前半とする。後半は横山の館を追放された照手が水仕(みずし)(奴隷)にまで落ちながら小栗への愛を忘れず,冥界からよみがえった餓鬼身(がきしん)の小栗を乗せる土車の先導役となり,物狂いの姿で熊野へと送りこむ。〈湯の峯〉の湯を浴びて復活した小栗は照手と結ばれ,後に美濃国安八郡(あんはちのこおり)に荒人神(あらひとがみ)として現れ,照手も結神(むすぶのかみ)に祭られる。荒馬鬼鹿毛(おにかげ)の曲乗りなどに小栗の英雄としての片鱗を見るが,その小栗を生と死の二つの世界にわたって見守り続けた照手に,この作の力点が置かれている。近松門左衛門の《当流小栗判官》,折口信夫の《餓鬼阿弥蘇生譚》《小栗判官論の計画》がある。

 小栗判官は悪の魅力をそなえた人物として形象され,その本質は力の表現としての〈荒(あれ)〉の系譜につながる。近世の歌舞伎の世界の雷神,牛頭(ごず)天王,四天王,竜神,鍾馗(しようき)など荒神(こうじん)とか荒人神とかいったものの前身であり,〈荒事(あらごと)的〉な悪の始源に位置するものである。説経の作中で閻魔大王が〈あの小栗と申するは,娑婆にありしそのときは善と申せば遠うなり,悪と申せば近うなる,大悪人の者なれば〉というが,それは倫理的な悪ではなく,自由で気ままな行動力が生んだ悪というほどの意味である。小栗を表現するのに〈小栗不調(ふぢよう)の者なれば〉という言葉もある。〈不調〉とは常軌を逸している,ほしいままにふるまう,またみだらでだらしないという注釈がある。鞍馬の毘沙門の申し子として二条大納言兼家の嫡子と生まれた小栗は72人の妻嫌いをして定まる御台所がない。あるとき御菩薩池(みぞろがいけ)の大蛇と契り,帝の怒りにふれて常陸へ流罪となる。これは物語の発端の部分の展開であるが,不調の者の面目はすでに躍如としている。また,常陸の大守でありながら相模の横山の一人姫照手と強引に契りを結んでしまうのも,血縁的地縁的な共同体によって結束している在地豪族にとって,外者(よそもの)小栗の重大な侵犯である。しかし,不調の者としての放胆な行動力だけでなく,一転して罪穢を担った醜悪な餓鬼の姿という相反する契機が共存するところに中世的な悪の英雄としての特徴があるといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小栗判官」の意味・わかりやすい解説

小栗判官
おぐりはんがん

説経浄瑠璃(じょうるり)の曲名。作者、初演は不詳。正徳(しょうとく)(1711~16)末か享保(きょうほう)(1716~36)初めごろに出た佐渡七太夫豊孝の正本には『をくりの判官』とある。京都・三条高倉の大納言(だいなごん)兼家の嫡子小栗判官は、洛北(らくほく)菩薩(みぞろ)池の大蛇の化身と契ったが、罪を得て常陸(ひたち)(茨城県)に流される。やがて美女の照手姫(てるてひめ)と結婚するが、姫の一族に毒殺されてしまう。死んだ小栗は閻魔(えんま)大王の命令で、善人のゆえに娑婆(しゃば)へ帰され、餓鬼阿弥(がきあみ)と名づけられた。藤沢の上人の配慮で餓鬼阿弥は車に引かれて熊野本宮へ行き、そこで三七日の御湯に浸され、めでたく元の体に戻る。一方、照手姫は海に沈められるところを救われ、人買いの手に渡されて各地を転々とし、重労働に苦しめられるが、知らずに餓鬼阿弥の車を運び、のち小栗と再会して都へ行くという筋。

 この作は『山荘太夫(さんしょうだゆう)』と似た部分があり、人買い説話に霊験談を加えて巧みな宗教劇としている。後世への影響は大きく、浄瑠璃義太夫節(ぎだゆうぶし)では近松門左衛門の『当流小栗判官』を経て、文耕堂らの『小栗判官車街道(くるまかいどう)』(1738・竹本座初演)に書き替えられた。歌舞伎(かぶき)では『二人照手姫』(1687・市村座初演)ののち、1703年(元禄16)正月に市村座で『小栗鹿目石(かなめいし)』が、同7月には森田座で『小栗十二段』が上演された。小説では仮名草子『おぐり物語』、黒本『小栗判官』、読本(よみほん)『小栗外伝』があり、幕末期には説教源氏節にも入った。また、神奈川県藤沢市の時宗(じしゅう)本山遊行寺(ゆぎょうじ)(清浄光寺(しょうじょうこうじ))には、1429年(永享1)に照姫(照手姫)が建てたというお堂と、小栗・照手姫ゆかりの品と称するものがあり、説教や絵解きで親しまれた。

[関山和夫]

『「小栗判官」(荒木繁・山本吉左右編・注『説経節』所収・1973・平凡社)』

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百科事典マイペディア 「小栗判官」の意味・わかりやすい解説

小栗判官【おぐりはんがん】

説経節の代表作。鞍馬寺毘沙門天の申し子である小栗が武蔵相模の郡代の娘照手姫(てるてひめ)の元へ強引に婿入りし,その父兄に殺されたのち,閻魔大王の計らいで蘇り,夫のため苦難に耐えて生きていた姫と再会するというもの。正本に1675年刊の正本屋五兵衛版《おぐり判官》等があり,また古い説経に基づくとされる近世初期写の絵巻《をくり》や奈良絵本《おくり》等がある。
→関連項目申し子

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朝日日本歴史人物事典 「小栗判官」の解説

小栗判官

説経節など中世から近世にかけて流行した語り物文芸に登場する伝説上の人物。説経節「をぐり」では,大蛇と契った罪で常陸に流された小栗は,武蔵・相模郡代である横山氏のひとり娘,照手を絶世の美女と聞き,強引に婿入りする。このことを怒った横山によって小栗は毒殺され,照手は家を離れたのち売られて美濃国青墓で下女奉公をする。死んだ小栗は閻魔に許されて餓鬼身として蘇生。藤沢の上人の尽力によって土車に乗せられ,人々に熊野に運ばれて,本復する。照手と再会した小栗は,横山に復讐するという筋。浄瑠璃「当流小栗判官」(近松門左衛門作か)など,のちの作品にも影響を与えた。

(佐谷眞木人)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「小栗判官」の解説

小栗判官 おぐりはんがん

説経節などの登場人物。
常陸(ひたち)(茨城県)に流罪となり,豪族横山氏のうつくしい娘照手(てるて)姫に婿入りするが,一門の者に毒殺される。やがて餓鬼の姿でよみがえり,熊野の湯をあびて元の姿にもどり,照手姫とも再会する。浄瑠璃(じょうるり),歌舞伎にも脚色されている。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「小栗判官」の解説

小栗判官
(通称)
おぐりはんがん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
小栗十二段 など
初演
元禄16.7(江戸・森田座)

小栗判官
おぐりはんがん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
宝暦12(大坂・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の小栗判官の言及

【清浄光寺】より

…これは高さ125cmの角石塔婆で,1416年(応永23)上杉禅秀の乱における敵味方の犠牲者が浄土に往生するようにと祈ったものである。また塔頭(たつちゆう)の一つ長生(ちようしよう)院は,俗に小栗堂と呼ばれ,説経節で名高い〈小栗判官〉の伝説を持ち,小栗判官や照手姫の墓がある。背後の山の中腹には歴代上人の墓のほか,鎮守の熊野権現,徳川氏ゆかりの宇賀神社がある。…

※「小栗判官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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