小道具(読み)こどうぐ

精選版 日本国語大辞典 「小道具」の意味・読み・例文・類語

こ‐どうぐ ‥ダウグ【小道具】

〘名〙
① こまごました道具、器具類。
※石山本願寺日記‐証如上人日記・天文八年(1539)六月二八日「斎如元光蓮寺勤之。仍代七貫文両度二。又小道具、大根、牛蒡、蕨、竹子のすし、蔤、かうの物、ささけ」
② 鎧(よろい)・兜(かぶと)の付属品。また、武具のこまごましたもの。
※雲形本狂言・鎧腹巻(室町末‐近世初)「鎧腹巻にはいろいろ小道具(コダウグ)が有」
③ 刀剣の付属品。目貫(めぬき)、鍔(つば)、縁頭(ふちがしら)など。
※浮世草子・棠大門屋敷(1705)二「能くこそ来れりと御機嫌すぐれ、小道具望みの話ふたつみつ過ぎて」
④ 女が髪や身につける装飾品。櫛(くし)、笄(こうがい)などの類。
※浮世草子・好色一代女(1686)四「いづれか女のかざり小道具(コダウグ)のこる所もなし」
⑤ 華道で、心(しん)の枝以外の役枝。
※立花大全(1683)二「松には、こけにても、しゃれにても、そへてつかふたるもよし。小道具もかくのごとし」
⑥ 茶道で、羽箒(はねぼうき)、火箸、鐶(かん)、蓋置(ふたおき)などのこまごました道具。
南方録(17C後)滅後「三つ組の小道具、心づかひにも及ぶまじきことと存ずる由申しければ」
⑦ 能で、役者が携帯できる程度の小さい道具。扇、太刀、杖など。→作物(つくりもの)
⑧ 舞台・映画などで使用するこまごました道具。室内装飾品の一部、登場人物の携帯品、食器などをさし、舞台上の人物の手に触れるものが多い。また、それを製作し取り扱う人をもいう。⇔大道具
滑稽本八笑人(1820‐49)四「錺(かざ)りつけから小道具は、みんな胸の内にならべておくは」
⑨ 容貌としての目、鼻、口などの部分。
※滑稽本・八笑人(1820‐49)初「顔の容色(コダウグ)があつらへ通ぢゃあうれしくもねへ」

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デジタル大辞泉 「小道具」の意味・読み・例文・類語

こ‐どうぐ〔‐ダウグ〕【小道具】

こまごまとした道具・器具類。
演劇などで、舞台で使用するこまごました道具。⇔大道具
事を効果的に運ぶために利用する名目。だし。「子供を小道具に使って、同情を引く」
刀剣の付属品。つば目貫めぬきなど。
女性が髪や身につける装飾品。櫛・こうがいなど。
小道具方」の略。
[類語]七つ道具古道具

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改訂新版 世界大百科事典 「小道具」の意味・わかりやすい解説

小道具 (こどうぐ)

演劇,映画,テレビ用語。演劇,舞踊,オペラ,映画,テレビなどの舞台やスタジオにセットする家具,調度,装飾品や,演技者が身につけるアクセサリーや所持する小さい道具をいい,美術効果の一部の役割を担っている。小道具は,大道具,衣装(舞台衣装),かつら)などとともに,舞台美術を構成する裏方の一ジャンルで,ドラマの求めに応じて,演出家,舞台美術家の指示と演技者の構想を中心に,演目と登場人物の役柄や性格に相応して調達し,製作することを任務としている。小道具は〈出道具置道具)〉と〈持物(もちもの)(持道具)〉に大別される。〈出道具〉は,大道具がセットされた舞台やスタジオの空間内に,装置の一部として幕が開く前から置かれる家具,置物,掛軸,几帳(きちよう),屛風,火鉢……などをいい,〈持物〉は,時代物では矢立,莨入(たばこいれ),印籠,扇,中啓や草鞋(わらじ),草履,下駄など,現代劇では指輪,イアリング,ペンダント,時計,財布……などをいう。刀剣,槍,弓矢,鎧(大鎧,腹巻,胴丸,具足),馬具や,烏帽子,冠などは,〈持物〉といわず,それぞれ〈武具〉〈冠り物〉に区分されている。《菅原伝授手習鑑》の〈車引〉の牛,《一谷嫰軍記》の馬,《国性爺合戦》の虎のほか,蝦蟇(がま),ネズミなどの縫いぐるみの動物類,駕籠,御所車,輿,人力車などの乗物も小道具方の扱いである。

 日常に使用しているものをそのまま使うときは〈本物〉といい,特別に作ったものは〈拵(こしら)え物〉,使い捨ての消えてしまうろうそく,煙草(たばこ),食べ物を〈消え物〉,こわすことを目的とした皿,茶碗,三宝などを〈壊れ物〉,動く動物,鼻緒が切れる履物,しおれる草花,射られた態(てい)で立つ矢など,あらかじめ仕掛けを施した道具を〈仕掛物〉と呼称している。能,狂言では歌舞伎の大道具に該当する職掌はなく,能舞台に置く塚,建物,舟や車など象徴的な据え道具は〈作り物〉,手に持つ中啓,刀,釣りざお,持ち枝などを〈小道具〉または〈手道具〉と呼んでいる。歌舞伎の小道具は,〈附帳(つけちよう)〉(演目ごとに各幕,各場別に用いる出道具の品目と,各登場人物の役名,配役名別に持物,冠り物,差し物,履物などを分類して記載した基本台帳)に記され,舞台稽古に間に合わせて劇場へ搬入される。

 舞台,スタジオにおける出道具は,大道具とともに場面の時代,季節,環境,登場人物の生活状況や身分などを視覚的につくりあげる役割をもつ。持物は,演技者が役を作りあげていくうえに,また作中の人物になりきる変身のための素材として大切な役割を担っている。

 日本における小道具の歴史は,能,狂言,歌舞伎の歩みとともに古いが,たとえば歌舞伎では,俳優の自前や劇場の所有物を用いた時代を経て,小道具が企業として確立したのは,初世藤浪与兵衛(1829-1906)が,保存,製作,賃貸しを始めた1872年(明治5)である。以来新劇,オペラなどの新しい舞台芸術,映画,テレビの発達とともに,いくつかの専門業者が生まれ,今日にいたっている。

 欧米においては,毎日上演演目が変わるレパートリー・システムが主流であるため,小道具を含めた舞台美術全般が日本とはかなり事情を異にしている。とくに国立劇場が発達しているヨーロッパの国々の現状を瞥見すると,東ベルリンには大道具,小道具,衣装,靴などを総合的に製作する中央舞台美術工場があり,市内の各国立劇場に付属している巨大な倉庫に運び,演目別に納入しておいて,その日の演目に備えて出し入れを行っている。モスクワでは,モスクワ芸術座ワフタンゴフ劇場など,それぞれ劇場付属の製作場があるが,ボリショイ劇場付属作業場がもっとも大きく,舞台美術全般の近代的工場の観を呈している。オーストリアでも,ウィーン市内に舞台美術製作工場があり,ウィーン国立歌劇場やブルク劇場の倉庫へ道具を搬入している。パリ市内のクリシーに,オペラ座コメディ・フランセーズオデオン座などの国立劇場専用の舞台美術製作工場があり,大きな倉庫も付設してあって大型のコンテナー付きのトラックが,毎日定期的に道具類の搬出入を行っている。ヨーロッパでは,大道具,小道具,衣装,鬘などが,日本のように個々の企業として成り立っているのではなく,国や公共機関直属の総合的な舞台美術工場が製作を行って,おのおのの国立劇場の需要にこたえているのである。

 中国では京劇の場合,たとえば北京の中国京劇院や北京京劇院には,それぞれ四つの京劇団が付属していて,各京劇団の上演演目に備えて,院のなかに構成されている演出処(演出部)に工厰と舞台工作隊が置かれている。工厰は,作景(背景,大道具製作),小道具製作,服装製作,作盔(さくかい)(冠り物製作)の4部から成りたっている総合的な舞台美術工場で,そこで製作された道具類を,上演時に各劇場に搬入し,劇場に派遣される舞台工作隊員(灯光=照明,大道具,小道具,衣装,冠り物のセッティング要員)によってセットするというしくみである。京劇に限らず伝統的な越(えつ)・川(せん)・評(ひよう)・昆(こん)・粤(えつ)劇院や,話劇(新劇)の代表的な組織体である北京,上海の人民芸術劇院などの場合も,ほぼ同様と考えていい。中国には各省の各市に数多くの伝統演劇の専門劇団や業余劇団が存在しており,上海市の広東路にある生産合作社が,戯劇服装,軟硬盔帽,戯靴,刀槍戯具,髭,石帯など幅広く注文に応じ販売している。なかでも規模の大きいものは,第一綉品(刺繡のこと)生産合作社,第九刀槍戯具生産合作社,第十綉品生産合作社などで,とくに第九は籐材を用いた刀,槍,矛,斧,鞭,旗竿や,竹材に羊皮を張り水銀で光らせた青竜刀など,中国の伝統的な演劇で使用する小道具を,一手に引きうけて販売している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小道具」の意味・わかりやすい解説

小道具
こどうぐ

演劇用語。舞台で使用する小形の道具すべてをいう。能から出た語だが、歌舞伎(かぶき)では大道具に対する語になり、現代では広く芸能界に普及している。

 普通、小道具は、家具・置物など装置の一部分として舞台に置かれる「出(で)道具」と、被(かぶ)り物(烏帽子(えぼし)、冠(かんむり)など)、履き物(下駄(げた)、草履(ぞうり)など)、鎧(よろい)、刀剣など、俳優が身につけたり手に持ったりする「持(もち)道具」とに大別されるが、歌舞伎では他の部門との区別は微妙で、たとえば竹籔(たけやぶ)や立ち木などの大道具でも、登場人物がその小枝を折る場合は、折れる部分だけは小道具の担当で、被り物のなかでも、頭巾(ずきん)、鉢巻、手拭(てぬぐい)などは「小裂(こぎれ)」という部門に属する。舞台に登場する動物類は、鳥、蝶(ちょう)など後見が差金(さしがね)で扱うものも、馬、牛など、中に人間が入るものも小道具の領分で、犬、狐(きつね)など縫いぐるみのものは首だけを小道具がつくり、胴体は「にく屋」という肉襦袢(にくじゅばん)製作業がつくることになっている。また、火を見せるための「吹(ふき)ぼや」、妖怪(ようかい)や忍術の煙を見せる「掛煙硝(かけえんしょう)」、舞台で血を見せるための「糊紅(のりべに)」なども小道具に属する。

 初期の歌舞伎では衣装とともに俳優が各自であつらえたが、江戸中期以降は各劇場で専従の小道具師(小道具方(かた))を常備するようになり、1885年(明治18)からは初世藤波与兵衛(ふじなみよへえ)が各座の小道具製作を一手に引き受け、その後、藤浪小道具株式会社に発展、小道具貸出しの専業として今日に至っている。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小道具」の意味・わかりやすい解説

小道具
こどうぐ

舞台で使用する道具,登場人物の携帯品,調度および室内装飾の一部,動物,食物などの総称。このうち,舞台でその都度消耗されるものを「消え物」または「焚捨 (たきすて) 」「定焚 (じょうたき) 」という。松明 (たいまつ) ,雪,食物などはこれに属する。舞台に置かれる調度の類は「置道具」といい,登場人物が持って出たり,持運んだりする「持道具」と区別される。古くは各劇場に小道具方があったが,1885年から小道具の製作と貸出業を始めた藤浪与兵衛は,各劇場の小道具を一手に引受ける専門業者となった。

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百科事典マイペディア 「小道具」の意味・わかりやすい解説

小道具【こどうぐ】

演劇,映画,テレビ用語。俳優が着用あるいは手にすることのできる小型の道具類をいう。大道具の対。家具,置物などの出道具と,帽子,傘(かさ),扇子などの持道具(持物)に大別される。本物,こしらえ物,消え物,壊れ物などいろいろの名称がある。
→関連項目舞台装置

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