尼崎（読み）あまがさき

精選版 日本国語大辞典

あまがさき【尼崎】

(海士が崎、海士之幸の転か) 兵庫県南東端の地名。古くから漁業・水路の重要港で、中世には尼崎城が築かれ、近世には戸田・青山・松平諸氏の城下町として繁栄。中国街道の宿場でもあった。阪神工業地帯の中核をなす臨海工業都市。源義経船出の大物浦(だいもつのうら)跡などがある。大正五年（一九一六）市制。

出典　精選版 日本国語大辞典

デジタル大辞泉

あまがさき【尼崎】

兵庫県南東部の市。古くからの港で、源義経が船出した大物浦だいもつのうら跡がある。もと松平氏の城下町。海岸は工業地。人口45.4万（2010）。

出典　小学館

日本歴史地名大系

尼崎
あまがさき

• 兵庫県：尼崎市
• 尼崎

神崎（かんざき）川河口に位置し、中世には瀬戸内海有数の港湾都市として発展した。尼ヶ崎・海士崎・海崎とも記される。鎌倉時代に作成された大物浜・長洲浜請文（真福寺文書）によれば、尼崎浜は大物（だいもつ）の南に川を隔てて位置し、久安年間（一一四五―五一）以後の「新出地」と記され、同川河口の砂洲が陸地化することによって平安時代末期頃に形成された新地であった。「山槐記」治承三年（一一七九）六月二二日条によると、安芸厳島参詣の途中、寺江（てらえ）に宿泊した前太政大臣藤原忠雅が同月八日に寺江から「尼□」に至り、船から車に乗換えて福原（ふくはら）に向かっている。同書によると「尼□」は寺江から二〇町余、福原とは約五里離れているので、「尼□」は尼崎である可能性が高い。寛喜二年（一二三〇）四月に方違えのため摂津吹田まで下向していた九条道家が旅のついでに海辺散策をしようとした際に、随行していた公卿から「大物尼崎等名字異様也、住吉可宜」と進言されている（「明月記」同月六日条）。

〔鎌倉時代の尼崎〕

平安時代末期に誕生した新地尼崎に対して、長洲（ながす）御厨の領主京都賀茂御祖（かもみおや）社（下鴨社）は大物とともに同御厨の新出地として領有権を主張している（前掲大物浜・長洲浜請文）。一方で奈良東大寺は「長洲庄内新開大物・尼崎両浜」は開発地主の猪名為末から長洲本庄の内として同寺に寄進されたもので、為末が寺家から補任された地主職は以後その子孫が相伝していったと述べており（文永三年一一月日「東大寺衆徒申状案」東大寺文書）、長洲をめぐる争いと同様に双方が領有権を主張し、対立するに至っている。当地は様々な物資流通の拠点となっていったが、なかでも材木は代表的な物資の一つで、後世の記録ではあるが、俊乗房重源が東大寺の再建工事を進めた際には用材が周防国から瀬戸内海を経て当地に集められ、さらに奈良まで運ばれたといわれ、これらの材木の員数を点検するための鉄印が当地に置かれていたとされる（宝暦六年周防国阿弥陀寺略縁起）。また貞応二年（一二二三）に始められた大報恩（だいほうおん）寺（現京都市上京区千本釈迦堂）の建設工事では、当地の富裕な材木商が夢告を得て巨材を寄進したという（「半陶藁」内閣文庫蔵）。

鎌倉後期になると相当数の船舶が出入りする港湾となっており、弘安九年（一二八六）に摂津四天王寺から播磨に向かう一遍が、当地で一遍を送ってきた土御門内府（源定実）と歌の贈答をしている（一遍上人絵伝）。正応二年（一二八九）には沙門性海からの申請により当地と渡辺（わたなべ）（現大阪市）・室（むろ）（現御津町）の三ヵ所に入港する船舶から石別一升の津料を徴収して、魚住（うおずみ）泊（現明石市）の修築の費用に充てることが認められている（同年九月二九日「伏見天皇宣旨案」東大寺文書）。

出典　平凡社「日本歴史地名大系」

改訂新版　世界大百科事典

尼崎［市］ (あまがさき)

兵庫県南東端，大阪湾奥にある市。1916年市制。人口45万3748（2010）。淀川をへだてて大阪市に隣接する重化学工業都市で，大阪との結びつきが強い。市域は伊丹段丘末端にある北部，武庫川，猪名川（下流は神崎川）の形成した三角州上にある中部，大阪湾を埋め立てた南部に区分され，北部は住宅，中部は商工業，南部は工業機能が卓越している。市街地の1/3は海抜0メートル地帯にあり，防潮堤や排水施設で洪水を防いでいる。尼崎の地は古くから水陸交通の要所であり，近世には城下町として繁栄した。本格的な工業都市としては1889年に尼崎紡績（現，ユニチカ）が開業したことに始まり，ほかにも化学，食品，機械などの工場が臨海部や神崎川沿岸に立地していった。第1次世界大戦時に尼崎の工業は飛躍的に発達し，臨海部の大規模な埋立てが進められた。昭和に入ると福知山線沿線に内陸型工業地区も形成され，阪神工業地帯の中核としての地位を築いた。第2次大戦で大きな被害を受けたが戦後の復興は早く，人口も順調に増えた。しかし，大気汚染や地盤沈下なども著しく，公害反対の住民運動が全国にさきがけて起こった。公害防止協定の施行や地下水くみ上げ禁止などの効果で環境改善は進んだが，人口減少や工場の分散，縮小などで産業活動が停滞している。北部の阪急電鉄神戸線沿線の住宅地の発展にくらべ東海道本線以南の古い市街地の衰退が顕著である。名神高速道路のインターチェンジがある。なお，尼崎城は明治維新の際に取りこわされ，付近は官庁・学校区となっている。
執筆者：小森 星児

歴史

摂津国尼崎の地名がみえるのは中世からで，それ以前は三国川（神崎川）の河口付近は河尻と呼ばれ，平安時代以来，瀬戸内海航路の起点として発展し，神崎，杭瀬，大物（だいもつ）などの諸港が開けた。神崎の遊女は《遊女記》にえがかれて有名。以後も河尻の砂浜は発達し，大物浜の南側に新しく開けた場所が尼崎である。《明月記》寛喜2年（1230）4月3日条に，大物とならんで尼崎の地名がみえるのが早い例である。港津としてしだいに発達し，正応2年（1289）9月29日付伏見天皇宣旨案では，尼崎が河尻の諸港を代表する名称となり，やがて大物浜などを含む付近一帯の名称ともなった。鎌倉後期以来，関所が設けられる一方，集落の発達も目ざましく，叡尊や一遍も尼崎に布教した。室町時代に入ると問丸が活躍し，為替取引の上でも要地となり，また商人の定住する市場も発展した。鎌倉時代以来，大覚寺，本興寺などの寺院が建立され，戦国時代にはキリシタンの布教も行われた。戦国時代には住民は惣中を結成，一方，海港の要地に着目して細川高国が1526年（大永6）に尼崎城を築城，以後尼崎は城下町として発展した。
執筆者：熱田 公　すでに戦国時代に辰巳，風呂辻，市庭，別所，大物の5町から成る町場となっていたが，近世に入ってその地に1617年（元和3）7月戸田氏5万石が入封した。10月には新城を築くべしとの幕命が出て，天守閣をもつ城と城下町が建設された。城は旧町場の西の砂州に海に面して築かれた。旧町場には道路の拡幅・新設などの改造がほどこされ，城地の西，砂州上に新たに中在家町，宮町が建設された。その北に侍屋敷（東屋敷，西屋敷），さらに北に寺町が作られ，旧町場や城地予定地に散在していた8ヵ寺や，戸田氏とともに移ってきた6ヵ寺ほかが集められた。6ヵ寺は戸田氏の移封とともに大垣に去り，その後も青山・松平両氏の入封時に寺院の転入出がみられた。上記町場7町のほか，戸田時代には海岸の砂州（葭島）にも町割りがなされた。ここは次の青山時代に築地町として完成する。城地によって遮断された中国街道は，城の東，別所町で南に迂回して築地町を通り，鉤の手に城の西に出ることになった。こうして尼崎は17世紀後期には侍屋敷・寺町と町場8町から成る町に発展した。尼崎では，1624年（寛永1）に大坂に干鰯（ほしか）屋ができるに先立って，すでに干鰯の取引が行われていたというし，中在家町には早く魚市場ができ，17世紀末には2軒の生魚問屋も生まれた。魚問屋仲間は1810年（文化7）には20株に増え，遠く周防，安芸に及ぶ瀬戸内全域から活け舟・出買いによって生魚が集まり活況を呈した。鮮魚は快速の今井船で神崎川～淀川をさかのぼって日々京に運ばれ，乗客輸送のための尼の天道（てんと）船（過書船）も京との間を上下した。町方人口は1734年（享保19）の1万6494人あたりをピークとし，以後減少に向かい，1838年（天保9）には9671人であった。
執筆者：八木 哲浩

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」