精選版 日本国語大辞典 「山吹」の意味・読み・例文・類語
やま‐ぶき【山吹】
〘名〙
① バラ科の落葉低木。各地の山野に生え、また、観賞用に庭園などに広く栽植される。高さ一~二メートル。葉は柄をもち長さ三~七センチメートルの長卵形で縁に不規則な鋸歯(きょし)がある。春、新しい短い側枝の先端に黄金色で径四センチメートル内外の五弁花を一個ずつ開く。果実は扁球形で約五ミリメートルぐらい。茎には白い髄があり、子どもが玩具の鉄砲の玉などに使った。八重咲きで果実のできないヤエヤマブキ、白花のシロバナヤマブキなどの品種がある。漢名、棣棠・棣棠花。《季・春》
※万葉(8C後)一一・二七八六「山振(やまぶき)のにほへる妹がはねず色の赤裳の姿夢に見えつつ」
② 「やまぶきいろ(山吹色)①」の略。
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「まばゆき色にはあらで、紅、紫、山ぶきの地の限り織れる御小袿などを」
③ 「やまぶきがさね(山吹襲)」の略。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「やまぶきの綾の三重がさね」
④ 紋所の名。①の花、また花と枝葉を図案化したもの。抱き山吹、向う山吹などがある。
※俳諧・犬子集(1633)二「咲色はかな山ふきのゐんす哉〈慶友〉」
※随筆・独寝(1724頃)下「百万貫の山吹も同じ事のつもりといへり」
⑥ 女房詞。
(イ) 鮒(ふな)をいう。〔大上臈御名之事(16C前か)〕
(ハ) 干大根と嫁菜を煮たものをいう。
※女重宝記(元祿五年)(1692)一「ほし大こんによめなは山(ヤマ)ぶき」
⑦ 「やまぶきちゃ(山吹茶)」の略。
※洒落本・南閨雑話(1773)馴染の体「その山吹を、よヲふく。ほうじて入れや。どれへ。ヱヱモフこの子は、それナきのふ道さんの所から来た茶よ」
⑧ 香木の名。分類は羅国(らこく)。二百種名香の一つ。〔五月雨日記(1479)〕
⑨ 魚の背鰭の部分の名。
[語誌](1)①は「万葉集」のころからよく詠まれたが、王朝和歌では晩春の景物として定着した。水辺に咲くので、「移ろふ」と「映ろふ」を掛けたりすることが行なわれた。
(2)蛙(かわず)との取合せも「かはづ鳴く甘南備河に影見えて今か咲くらむ山振(やまぶき)の花」〔万葉‐一四三五〕のように「万葉集」からあるが、王朝和歌ではさらに一般化した。山城の歌枕である井手は山吹と蛙の名所として知られ、「かはづ鳴く井手の山吹散りにけり花の盛りにあはましものを」〔古今‐春下〕などと詠まれている。
(3)一重山吹は結実するが、八重山吹は、雄しべが花弁化し、雌しべが退化しているため、結実しない。
(4)②は梔子(くちなし)色なので、「口無し」(物を言わないの意)の縁で詠まれることも多い。「山吹の花色衣ぬしやたれ問へど答へずくちなしにして〈素性〉」〔古今‐雑体〕など。
(5)「和漢朗詠集」を始めとして、日本漢詩の歌題に「款冬」と表記することが多いが、「款冬」は中国ではツワブキの一種で、ヤマブキとは別物。
(2)蛙(かわず)との取合せも「かはづ鳴く甘南備河に影見えて今か咲くらむ山振(やまぶき)の花」〔万葉‐一四三五〕のように「万葉集」からあるが、王朝和歌ではさらに一般化した。山城の歌枕である井手は山吹と蛙の名所として知られ、「かはづ鳴く井手の山吹散りにけり花の盛りにあはましものを」〔古今‐春下〕などと詠まれている。
(3)一重山吹は結実するが、八重山吹は、雄しべが花弁化し、雌しべが退化しているため、結実しない。
(4)②は梔子(くちなし)色なので、「口無し」(物を言わないの意)の縁で詠まれることも多い。「山吹の花色衣ぬしやたれ問へど答へずくちなしにして〈素性〉」〔古今‐雑体〕など。
(5)「和漢朗詠集」を始めとして、日本漢詩の歌題に「款冬」と表記することが多いが、「款冬」は中国ではツワブキの一種で、ヤマブキとは別物。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報