山王霊験記(読み)さんのうれいげんき

精選版 日本国語大辞典 「山王霊験記」の意味・読み・例文・類語

さんのうれいげんき サンワウ‥【山王霊験記】

絵巻物日枝神社縁起を描いたものと日吉山王(ひえさんのう)霊験談を説くものの二系統がある。
[一] 静岡県日枝神社蔵。一巻。紙本着色。同社の縁起を図絵としたもので弘安一一年(一二八八)の奥書がある。詞(ことば)は「源平盛衰記」の白山神輿登山事以下に酷似。絵は損傷が著しいが、細く、しかも強い線で描かれた温雅画風を示す。
[二] 久保惣記念美術館(蓮華寺旧蔵)・滋賀県生源寺ほか蔵。五巻。紙本着色。室町時代初期の作。叡山僧侶伝記を中心として日吉山王の霊験談を集めたもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「山王霊験記」の意味・わかりやすい解説

山王霊験記 (さんのうれいげんき)

日吉山王社(日吉(ひよし)大社)にまつわるさまざまな霊験譚を描いた絵巻で,現存作品に2系統がある。静岡日枝神社本1巻は,後二条関白藤原師通が日吉山の神罰をこうむった説話から本社創立の縁起を説く。損傷はなはだしく,詞2段,絵1段を残すのみとなっているが,弘安11年(1288)製作・奉納の奥書があり,絵1段の叡山と争う義綱の軍の場面は生彩に富み,鎌倉期大和絵の温雅な画風を示す。一方,京都蓮華寺旧蔵本2巻,穎川美術館本1巻,延暦寺本1巻はもと一連の作品で,叡山の僧侶を中心とした伝記にあらわれる日吉山王の霊験譚を集めたもので,《山門僧伝》とも呼ばれた。画面上下に形式化した霞(すやり霞)をおき,画風も簡略で稚拙なものとなっており,15世紀室町時代の製作と考えられる。
筆者

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「山王霊験記」の意味・わかりやすい解説

山王霊験記
さんのうれいげんき

日吉(ひえ)山王の創立の由来、霊験などを説いた絵巻。遺品に静岡・日枝(ひえ)神社蔵1巻、和泉(いずみ)市久保惣(くぼそう)記念美術館蔵2巻、西宮(にしのみや)市の穎川(えがわ)美術館蔵1巻、延暦(えんりゃく)寺蔵1巻がある。日枝神社本は1288年(弘安11)の制作で、後二条(ごにじょう)関白師通(もろみち)が日吉山王の神罰を被る場面と日枝神社創建の縁起を描く。ほかの3点は室町期(16世紀)の作で画風等しく、本来一連のものと思われる。

[村重 寧]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「山王霊験記」の解説

山王霊験記
さんのうれいげんき

「山門僧伝」とも。日吉(ひえ)山王の霊験談を集めた絵巻。現存の遺品には,1288年(正応元)の奥書をもつ静岡県沼津市の日枝神社の1巻(縦37.6cm,横664.5cm。重文)と,これと系統を異にする室町時代の制作になる4巻本(久保惣記念美術館・穎川(えがわ)美術館・延暦寺に分蔵)がある。また詞書(ことばがき)だけ伝わる「日吉山王利生記(りしょうき)」は文永年間の,同じく「山王絵詞」(妙法院蔵)は1314年(正和3)の成立と推定される。紙本着色。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「山王霊験記」の意味・わかりやすい解説

山王霊験記
さんのうれいげんき

山王権現 (→日吉大社 ) の縁起と霊験を描いた絵巻物。筆者不明。正応1 (1288) 年の奥書がある。静岡県の日吉神社蔵。ほかに室町時代初期の六角寂済筆と伝えられるものが3種 (蓮生寺本2巻,生源寺本,井上本各1巻) ある。

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