山言葉(読み)ヤマコトバ

デジタル大辞泉 「山言葉」の意味・読み・例文・類語

やま‐ことば【山言葉/山詞】

忌み詞の一。猟師・きこりなどが、山に入ったときだけ用いる特殊な言葉。水を「わっか」、狼を「やみ」などという類。
鷹匠たかじょうが用いる特殊な言葉。鷹詞たかことば

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改訂新版 世界大百科事典 「山言葉」の意味・わかりやすい解説

山言葉 (やまことば)

海上で用いられる沖言葉に対して山中で使用する忌言葉一種。山中を俗界である里(さと)と区別するための特殊な用語で,食事,食物,食具,鳥獣,狩猟用具,性などに関する語が主要なものである。地方によって表現法や使用場所に若干のちがいがあるが,山言葉を有する地域は南は沖縄から北は下北半島に及び,狩猟者,伐木業者などの間では現在もこれが守られる場合がある。とくに猿,蛇,猫などの動物名をそれぞれ〈キムラ〉〈ナガムシ〉〈マガリ〉などと呼びかえる点は漁民にも共通し,両者信仰に共通なもののあったことを考えさせる。
忌言葉
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百科事典マイペディア 「山言葉」の意味・わかりやすい解説

山言葉【やまことば】

猟師などが使う忌言葉(いみことば)。70〜80語が知られ,部外者には秘密にされた。米を〈くさのみ〉,オオカミを〈やせ〉,クマを〈くろげ〉〈山の人〉などという。またぎの山言葉にはセタ(犬),ワッカ(水)など,アイヌ語からの借用もみられる。沖言葉と同様,本名で呼ぶと獲物に感づかれるためという。
→関連項目隠語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「山言葉」の意味・わかりやすい解説

山言葉
やまことば

山で働く人々の間に使われてきた忌言葉一定の言葉を使うことを忌み,代用語を使う。本来は信仰的な心情に発したものであるが,のちには隠語として仲間意識を強めるために用いられるようになった。くまのことをクロゲ,おおかみをヤセ,犬をセタ,米をクサノミ,水をワッカなどというのがその例である。

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世界大百科事典(旧版)内の山言葉の言及

【忌言葉∥忌詞】より

…特定の時や場所で口にしてはならない言葉やその代りに用いる言葉をいう。忌言葉は山言葉沖言葉,正月言葉,夜言葉,縁起言葉などに分けられる。忌言葉は,宗教儀礼における〈忌〉の一つの形式で,神や神聖な場所に近づく際には不浄なものや行為を避けるだけでなく,それを言葉に出していうことも忌み,代用語を用いていい表したことから生まれたと考えられている。…

【隠語】より

…元来は〈かくしことば〉といったが,隠語の字をあてられた結果〈いんご〉と呼ばれるようになり,スラングslangの訳語ともされて,隠語の意義内容は複雑になった。隠語は仲間うちだけに通用する目的の非公式の言葉であるから,香具師(やし)や犯罪者等の反社会的集団のものだけにかぎらず,平安時代の神宮の〈斎宮忌詞(いつきのみやいみことば)〉(塔をアララキ,僧をカミナガ,打つをナヅなど),宮廷女官の〈女房言葉〉(田楽をオデン,杓子をシャモジ,豆腐をオカベなど),僧侶の〈学林秘語〉(卵をシロナス,鮎をカミソリ,酒をゴマスなど),大阪の人形遣いの用いた〈占傍(せんぼう)〉(金銭をセンタロウなど),漁師の〈沖言葉〉や猟師の〈山言葉〉なども広い意味で隠語といえる。このほか,学生,芸能人,商人,医師,軍隊,山窩(さんか)などの社会で用いられる隠語もあるが,一般には隠語といえば反社会的集団の符丁言葉を意味することが多い。…

【タブー】より

… また類似した形態として,明確に区別しておくべき領域や範疇を混交したり不当に近づけたりする行為がタブーとされる場合がある。日本の事例をあげれば,山中で狩猟生活に従事していたマタギは,山中で狩猟を行っているときには〈山言葉〉を用い,そこで〈里言葉〉を用いることをタブーとしていた。同様に〈里言葉〉と区別される〈沖言葉〉を用いる漁民もいる。…

【ネコ(猫)】より

… これら輸入された飼猫とは違い,ヤマネコといわれるものは種として別種であり,人にはなれない。そのほか奥羽山地の山言葉ではテンのことを実名で呼ばず,ヤマネコといいかえている。これをふつうの人が耳にすると実際には存在しないヤマネコがその地にいると誤解する可能性がある。…

※「山言葉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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