岩井俊二(読み)イワイシュンジ

デジタル大辞泉 「岩井俊二」の意味・読み・例文・類語

いわい‐しゅんじ〔いはゐ‐〕【岩井俊二】

[1963~ ]映画監督・映像作家。宮城の生まれ。プロモーションビデオの制作、テレビドラマの監督・脚本を経て映画監督となる。初の長編映画「Love Letter」は各種の映画賞を受賞、中国や韓国でも多くの観客を獲得した。他に「スワロウテイル」「リリィ・シュシュのすべて」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩井俊二」の意味・わかりやすい解説

岩井俊二
いわいしゅんじ
(1963― )

映画監督、映像作家。宮城県生まれ。1987年(昭和62)に横浜国立大学教育学部卒業。中学・高校時代から盛んに映画館に通い、少女漫画にも熱中していた彼は、大学で映画研究会に属し、6年間に8ミリ映画を9本撮り上げていた。1988年、桑田佳祐(けいすけ)(1956― )の「いつか何処かで~I Feel the Echo」、原由子(ゆうこ)(1956― )「ガール」のプロモーション・ビデオを手がけ、プロのキャリアをスタートさせる。その後もプロモーション・ビデオの製作を続けながら、テレビドラマの脚本執筆と演出にも乗り出し、1991年(平成3)に関西テレビの深夜ドラマシリーズ「ドラマDOS」で、初めて監督と脚本を担当したドラマ『見知らぬ我が子』が放映されたのを皮切りに、1992年からは、フジテレビ深夜ドラマシリーズ「La Cuisine」などでも作品を発表してしだいに注目を集めるようになった。この時期の代表作として『GHOST SOUP』『FRIED DRAGON FISH』(ともに1992。後者は1996年に劇場公開)などがある。

 1993年、フジテレビのゴールデンタイム・ドラマシリーズ「if もしも」で、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993。1995年に劇場公開)を発表、テレビ作品として異例ながら、日本映画監督協会の新人賞を受賞する。夏休みの登校日に中学生の男女に起こった恋愛がらみのささやかな事件を描くもので、この作品での「現実A」とありえたかもしれない「現実B」を一つの物語のなかで綴(つづ)る手法は、代表作『Love Letter』(1995)にも間接的に継承されていった。

 精神の錯乱から何でも紐(ひも)で縛らずにいられなくなる「強迫性緊縛症候群」を患(わずら)う主婦とその夫の物語を、緻密(ちみつ)な構成でさらに閉塞(へいそく)感を加えて描く45分の中編『undo』(1994)は、もともとオリジナル・ビデオとして発表する予定でほとんど事前の宣伝活動もなく小規模で劇場公開されたが、多くの熱心な観客を集める。続く長編劇映画第一作『Love Letter』は、興行的に大ヒットを記録したばかりか、各種の映画賞を制覇した。今は亡きかつての恋人の記憶に縛られたままでいる女性が、その恋人の旧住所宛てにラブレターを送ってみたところ、故人であるはずの彼から返事が返ってくる、という謎(なぞ)めいたエピソードで始まるこの物語は、主演女優の一人二役という仕掛けも効を奏し、プロモーション・ビデオ、コマーシャルフィルム、ドラマと岩井がこれまでさまざまなフィールドで培ってきた現代的な映像センスとストーリーテラーとしての手腕などを集大成させたものと評価された。また、この映画の影響力は、日本にとどまらず、韓国、香港、台湾などの東アジア一帯に広がりをみせ、多くの観客を獲得するばかりか、次々と亜流の映画を生み出した。

 1時間ほどの中編『PiCNiC』(1996)は、精神科病院に送り込まれた女性がそこで知り合った2人の男性とともに「地球滅亡」を目撃する旅に出る風変わりなロード・ムービーだが、阪神・淡路大震災やオウム真理教事件が相次いだ後の、岩井らの世代が共有する「終末観」が前面に出ると同時に、社会から排除された存在に焦点を合わせる姿勢において次作につながる作品でもある。こうして生まれた長編劇映画第二作『スワロウテイル』(1996)は、通貨としての円が繁栄を極めた時代を背景に、国籍不明の人物や言葉が飛び交う円都(イェンタウン)での盗賊やロック・バンドらの活躍を描く無国籍活劇の様相を呈するものである。移民の描き方などで多くの批判が投げかけられ、問題含みではあったが、『Love Letter』で確立され、広く流通した岩井にまつわるソフトなイメージを自ら突破する意志もあらわで、バブル経済とその崩壊を体験しつつあった日本社会のオルタナティブな可能性を視覚化する大胆な試みであった。

 2000年4月から7月にかけてインターネット上でBBS(電子掲示板)のスタイルを使い、一般の人たちの書き込みも部分的に取り込みながら進行させる実験的なインタラクティブ小説「リリイ・シュシュのすべて」を発表。自らそれを『リリィ・シュシュのすべて』(2001)として映画化した。これまでの岩井作品におけるノスタルジックで牧歌的な学園生活ものから一変、中学生の陰惨で救いのないいじめの光景が、手持ちのデジタル・ビデオカメラの荒れた画像で延々としかも克明に撮影され、またしても観客たちに衝撃を与えた。

[北小路隆志]

資料 監督作品一覧

FRIED DRAGON FISH(1992)
打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?(1993)
undo(1994)
Love Letter(1995)
PiCNiC(1996)
スワロウテイル(1996)
Yen Town Band/Swallowtail Butterfly あいのうた(1996)
四月物語(1998)
リリイ・シュシュのすべて(2001)
Jam Films「ARITA」(2002)
花とアリス(2004)
市川崑物語(2006)
ニューヨーク、アイラブユー(2010)
ヴァンパイア(2011)
friends after 3.11[劇場版](2011)

『『Now and Then 岩井俊二』(1998・角川書店)』『宮台真司責任編集『フィルムメーカーズ17 岩井俊二』(2001・キネマ旬報社)』

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知恵蔵mini 「岩井俊二」の解説

岩井俊二

映画監督、脚本家、音楽家。1963年、宮城県生まれ。88年より音楽ビデオなどの制作に携わる。93年、テレビドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(フジテレビ)で日本映画監督協会新人賞を受賞。95年「Love Letter」で長編映画デビューし、数々の映画賞を受賞した。96年には長編映画第2作となる「スワロウテイル」を公開、独特の世界観で話題となる。2000年、BBS(電子掲示板)への岩井と一般人の書き込みによるインターネット小説「リリイ・シュシュのすべて」が作られ、本作品を元に01年には岩井自身の監督により映画化された。03年、原作・脚本・監督を務めたショートフィルム「花とアリス」をインターネット上で発表し、04年には長編映画化した。08年、第24回サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門の審査員を務め、同年、NYを舞台にしたオムニバス映画「New York I Love You」の一編を担当した。14年10月には、上記実写映画「花とアリス」の前日譚となるエピソードを、自身初の長編アニメーション映画「花とアリス殺人事件」として15年2月に公開することが明らかになった。同作では脚本・音楽も手がけ、主演声優は実写映画と同じく鈴木杏・蒼井優が務める。

(2014-10-20)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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