年金財政方式(読み)ねんきんざいせいほうしき

改訂新版 世界大百科事典 「年金財政方式」の意味・わかりやすい解説

年金財政方式 (ねんきんざいせいほうしき)

一般に拠出原則に基づく年金制度では,一定期間の保険料拠出が年金受給権取得のための条件の一つとなっている。そのため,年金制度の給付費は制度発足当初においてはほとんどなく,時間の経過とともにしだいに増加し,数十年という歳月を経過した後に,はじめて給付費の実質的な大きさが一定水準で推移することとなる。このように,時間的に大きく変化する給付費を賄っていくための財源を,どのような考え方で調達していくかという計画のことを,年金制度の財政方式と呼んでいる。財政方式は,拠出と給付の間の均衡を〈どの範囲の加入者,受給者を対象として考えるか〉,また〈どのような期間内で考えるか〉などにより,種々のものが考えられる。代表的な財政方式としては,積立方式と賦課方式をあげることができる。この両方式とも年金制度の加入者および受給者のすべてを含む範囲で収支の均衡を考えるものである。

積立方式は,加入者数に比べて受給者数が少なく,給付費も制度が成熟したときに比べて比較的少ない段階で,各年次における収入のうち支出を上回る部分を積み立て,制度が成熟した段階においては保険料収入と積立金の運用収入とによって給付費を賄うように計画するものである。積立方式のもとにおける保険料は,年金数理の手法を用いて将来の加入者数,受給者数,給付費などの要素を推計し,これに基づいて長期にわたり平準的な拠出水準となるように算定される。これに対して,賦課方式は年金制度の運営される期間を1年間程度の短期間に区切り,この期間内だけでの収支の均衡を考えていくものである。したがって賦課方式のもとでは,各年次における受給者数の加入者数に対する比率が直ちに負担の大きさに反映するため,拠出水準は制度の成熟につれてしだいに上昇する。

 積立方式と賦課方式の違いは,年金積立金の機能を制度運営上どのように評価しているかというところからきている。たとえば,当初は積立方式を採っていた場合でも,賃金物価の上昇等の経済変動に応じて年金の実質価値の維持を図っていくと,積立金の給付費に対する相対的な価値は次第に減少し,運用収入が収入全体に占める割合は低下していく。その結果,当初予定した積立金の役割を果たすことができなくなり,これを補うために拠出水準を引き上げて収支均衡を図らなければならなくなる。このような状態にある財政方式を修正積立方式と呼んでいる。また,原則的な考え方としては賦課方式を採っている場合であっても,保険料収入や給付費の一時的な変動に対処して財政運営を円滑に進めるために,支払準備金的な積立金を保有するように計画することがある。この場合には,保有する積立金の大きさによっては,積立方式ほどではないが運用収入が収支均衡に寄与している。これを修正賦課方式と呼んでいる。修正積立方式と修正賦課方式は,基礎となっている考え方が積立方式であるか賦課方式であるかが異なるだけであって,明確に区分できる尺度はない。

 積立方式と賦課方式の中間にある財政方式で,拠出水準の設定方法が明確であるものの例としては,年金現価積立方式と段階的保険料方式をあげることができる。前者は各年度において新たに受給者となる者が将来受給することとなる年金の給付現価に相当する額を,その年度の加入者に保険料として賦課するという方式である。後者は10年あるいは15年という期間内で収支均衡が得られるような平準的な拠出水準を定めるという方法を将来に向かって順次繰り返していくことによって,段階的な保険料を実現していくという方式である。

 以上に述べた財政方式は,主として公的年金制度において採られているものである。公的年金制度には経済変動に応じて年金の実質価値を維持していくことが要請されているため,当初は積立方式を採ったとしても次第に修正積立方式,修正賦課方式を経て賦課方式に移行するという経過をたどることになる。これは歴史の長い西欧諸国の年金制度が,現在ではほとんどが賦課方式により運営されているということで実証されている。

企業年金などの私的年金制度は,加入者数の規模が比較的小さいこと,母体企業の業績の影響を受けやすいことなど,保険集団の安定性という面に対する配慮が必要とされる。そのため,加入者および受給者の権利保護ならびに費用負担の平準化という観点から,原則として積立方式が採用されている。この場合の積立方式は,加入者の拠出実績に対応して定まる給付の支払いに要する費用が完全に積み立てられることを目標としている。その基本的な考え方には,発生給付方式と投影給付方式の二つがある。前者は,年金制度への加入期間が経過するごとに,その加入期間に対して割り当てられる年金額を,将来にわたり支払っていくための費用を掛金として積み立てる方式である。後者は,今後の加入期間も含めて将来支給されることとなる年金額を推計し,この年金を支払っていくために必要となる費用を,今後の加入期間内に平準的あるいは傾斜をもった掛金により積み立てる方式である。
年金
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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