床ずれ(読み)とこずれ(英語表記)bedsore

翻訳|bedsore

改訂新版 世界大百科事典 「床ずれ」の意味・わかりやすい解説

床ずれ (とこずれ)
bedsore

褥瘡(じよくそう)の一般名称で,長期臥床中の人の背や腰など,長時間圧迫されている部位にできる壊死性の皮膚障害をいう。病人が長く床に伏していると,長時間圧迫されている部位に血行障害を起こして酸素や栄養が行かないようになり,やがて床ずれが生ずる。まず圧迫されている部位の皮膚が赤くなり,ついで紫色の斑点となり,水疱ができる。さらに進むとただれ,潰瘍となり,痛みを伴う。

 床ずれができやすいのは,(1)脳卒中,糖尿病などの慢性疾患や意識障害,運動障害,あるいは骨折など,長期間病床にあって,自発的な動作が阻まれ,体位の変換が困難な状態にある場合,(2)さらに,痛みやかゆみ,圧迫感などの知覚が障害されている場合,(3)全身的な栄養障害,浮腫,糖尿病などによって感染に対する抵抗力が弱まっている場合,(4)多量な汗や頻回な尿・便失禁,また衣類やシーツ類のしわや汚れ,湿気などによる刺激によって皮膚が清潔に保てなかったり,損傷されやすい状態にある場合,などである。こうしたいくつかの要因が重なり合って床ずれができることが多い。とくに床ずれになりやすい部位としては,身体の重みで病床の圧迫が加わる突出部があげられる。

床ずれはいったんできるときわめて治りにくいが,前記のような状態にある人にできやすいのだから,その発生機序と原因をよく知り,予防することが最もたいせつである。床ずれを予防するには以下のことに注意すべきである。

(1)圧迫の除去 介護者が一定時間(2時間以内)ごとに体位を変換し,同じ部位が長時間にわたって圧迫されないようにする。また,円座,まくら,空気マットレス,離被架を用いて圧迫部を保護するとよい。(2)皮膚の清潔・乾燥と血行の促進 頻繁な清拭は皮膚の清潔を保つとともに,温湯やマッサージによって血行を促す。清拭は床ずれを予防すると同時に,初期症状の皮膚が赤くなった状態の手当としても有効である。赤くなっているところに蒸しタオルを当て,血行を促してから清拭し,そのあと周囲の皮膚を赤くなっているところに向かってマッサージする。また,ドライヤーの温風を皮膚から離して当てると血行促進と乾燥の効果がある。こうした手当で進行をくいとめ,十分回復させることができる。(3)摩擦の除去 吸湿性のある寝具を用い,シーツや寝具をよく伸ばして,しわのないようにする。器具などを使用する場合は,直接に皮膚に当たらないようにガーゼやタオル,包帯でおおうなどのくふうをする。(4)外傷の予防 便器をさしこむときや体位を変える場合は皮膚を傷つけないように注意して行う。(5)全身の栄養改善 低栄養状態にある場合は高タンパク質・高ビタミンを嗜好に合わせてとれるようにくふうする。

床ずれは介護者の注意深い予防手段によって防ぐことができるが,不幸にしてできてしまったときには,早期に発見し,早期に適切な手当を行って感染を防止し,進行をくいとめることがたいせつである。最近では人工皮膚のようなもので床ずれの部分を密封して感染を防止し,進行させずに組織の回復を待つことができる新しい製品も作られている。早めに専門家の力を借りることが必要である。
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六訂版 家庭医学大全科 「床ずれ」の解説

床ずれ(褥瘡)
とこずれ(じょくそう)
Bed sore (Decubitus)
(皮膚の病気)

どんな病気か

 持続的な圧迫によって、組織の血流が減少・消失し、虚血(きょけつ)状態、低酸素状態になって、組織の壊死(えし)が起こった状態です。

 寝たきり麻痺などで体位を変えられない人にできます。腰の仙骨部(せんこつぶ)や足の(かかと)の部分、骨が突出している部分など、圧迫を受ける部分に現れます。栄養不良状態があると(そう)(傷)が治りにくくなり、慢性化しやすくなります。

症状の現れ方

 初めは圧迫を受けた部位が赤くなり、水疱(すいほう)紫斑(しはん)が現れます。浅い褥瘡では浅いびらんがみられるのにとどまりますが、深い褥瘡では急性期を過ぎたころに創面が徐々に黒ずんで、壊死組織が明らかになってきます。

 このような黒ずんだ壊死がみられる黒色期、さらにこれらが取り除かれると壊死に陥った皮下脂肪や筋肉が汚い黄色を示す黄色期、治癒機転がはたらいて肉芽(にくげ)組織が再生し創面が赤くなる赤色期、創の周囲から上皮が形成されて皮膚がおおわれる白色期の時期があります。

 慢性のものでは、創が洞穴(どうけつ)状に皮下に拡大するポケットを形成する場合もあります。感染があると悪臭を伴うことがあり、体力が衰えていると褥瘡の感染が全身的な感染を引き起こすこともあるので注意が必要です。

検査と診断

 D(深さ)、E(滲出(しんしゅつ)液)、S(大きさ)、I(炎症)、G(肉芽組織)、N(壊死組織)、P(ポケット)の程度を評価するDESIGNツールで褥瘡の状態を判定します。

 感染がある場合は細菌培養を行って、どのような菌の感染があるかを調べる場合があります。

治療の方法

 深い褥瘡では壊死組織の除去や洗浄を行い、時期に応じた外用薬の処置をします。ポケットを形成するものでは、切開をして露出させる場合があります。消毒は必要ではなく、生理食塩水や水道水で患部を洗浄したあとに外用薬や被覆剤を貼付(ちょうふ)します。

病気に気づいたらどうする

 すぐに医師に相談してください。病巣部に圧迫をかけないように体位交換をたびたび行うなどの注意だけでなく、栄養をつけることも重要です。

堀川 達弥

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

百科事典マイペディア 「床ずれ」の意味・わかりやすい解説

床ずれ【とこずれ】

褥瘡(じょくそう)とも。長時間一定の部位が圧迫されたことによって生じる皮膚傷害。鬱血(うっけつ)による発赤と疼痛(とうつう)があり,次いで壊疽(えそ)・潰瘍(かいよう)を生じて細菌感染が加わる。局所の血行障害に全身性の栄養障害・神経麻痺(まひ)が加わると生じやすい。予防がもっとも大切で,そのためには体位を変え,局所の清潔,マッサージ,感染予防などが必要。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「床ずれ」の意味・わかりやすい解説

床ずれ
とこずれ

褥瘡

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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