建物保護法(読み)たてものほごほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「建物保護法」の意味・わかりやすい解説

建物保護法
たてものほごほう

建物保護ニ関スル法律」(明治42年法律40号)の略称。1991年(平成3)借地借家法制定(法律90号)により、借地法借家法とともに廃止された。借地借家法は、建物保護法など3法の基本部分を受け継ぎつつ、社会・経済の変化に応じて大幅な修正を加えているが、経過措置として、旧法の効力は一定の範囲で維持されている。建物保護法は、日露戦争後の地価暴騰の際に盛んに行われた地震売買(地上権賃借権を設定しながら登記をしない場合に、地主が地代値上げの目的でその土地を売却すること)に対し、借地人を保護するために制定された。賃貸借の目的たる土地の譲渡があった場合、借地の登記がなければ、土地の譲受人に対抗できない。民法不動産賃借権の登記を認めたが(605条)、賃貸人に登記協力の義務がないため、これは有名無実となっている。そこで建物保護法は、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権を保護するため、もっと簡便な方法を認めた。すなわち、地上建物の登記をすれば、借地権をもって新地主などの第三者に対抗できるものとしたのである(1条)。なお、この規定は借地借家法に基本的に受け継がれた(借地借家法10条1項)が、同法は、建物の保護から借地権の保護へと進めている(同2項)。建物の滅失があっても借地権の効力はある、ということ。

[淡路剛久]

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改訂新版 世界大百科事典 「建物保護法」の意味・わかりやすい解説

建物保護法 (たてものほごほう)

〈建物保護ニ関スル法律〉の略称。1909年公布,1991年借地借家法制定とともに廃止。借地人(賃借人,地上権者)が借地上に所有する建物の登記がなされていれば,借地の所有者が交代しても賃借権または地上権を主張できるとしたもの。民法典上は,賃貸されている土地の所有者がかわると,賃借権が登記されていない限り,賃借人は賃借権を新しい地主に主張(対抗)できないことになるが(605条),実際には,賃借権の登記は,ほとんどなされなかったため,地主は賃借人に地代値上げを請求し,賃借人がこれを承諾しないと,所有権を譲り渡して新地主から賃借人に明渡しを求めるという方策をとった。こうした譲渡は地震のように突如として建物を破壊するというので,地震売買と呼ばれ,明治30年代に大問題になった。そこで,借地人の権利の保護が唱えられ,賃借権そのものの登記がなくても,借地上の建物登記(これは地主の協力なしに借地人単独でできる)があれば,新地主にも借地権を主張できるという建物保護法が制定されるに至った。建物保護法は,賃借権だけでなく,地上権を設定して未登記のまま建物を所有している場合にも同じ問題が生ずるので,この場合も建物登記があれば,新地主に地上権を主張できるとしている。

 この法律によって,宅地の賃借権・地上権に対する保護は強化されたが,建物の登記名義人が借地人と異なる場合などに,対抗力があるといえるかどうかが争われている。1991年の借地借家法の制定により廃止され,同法10条にほぼ同じ趣旨の規定がおかれた。
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百科事典マイペディア 「建物保護法」の意味・わかりやすい解説

建物保護法【たてものほごほう】

正称は〈建物保護ニ関スル法律〉(1909年)。借地人が借地上の建物について保存登記をしておけば,その土地の借地権(賃借権,地上権)については別に登記をしておかなくとも,第三者に対抗できる旨を規定。1991年の借地借家法の制定にともなって廃止。
→関連項目地上権

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