建築設備(読み)けんちくせつび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「建築設備」の意味・わかりやすい解説

建築設備
けんちくせつび

各種の建物に求められる諸機能を充足し、建物に居住する人の健康を守り、安全性、作業能率、快適性を高めるための電気機械、供給処理、輸送、情報伝達などの設備をいう。建物自体はむろん、建物の機能と居住性を高めるために適切な材料構造を用い、目的にあった設計に基づいて建てられる。日射、昼光、風、水、土、植生といった自然エネルギーをできるだけ利用して居住性を高めようとする考えは設計の基本的思考である。今日、この考えによる方向をパッシブまたはソフトであるといい、資源エネルギーを消費する設備機器に頼る方向をアクティブまたはハードであるという。高度の居住性や特定の機能を充足するためには建築設備に頼らざるをえない。しかし、建築設備の多くは有用便利なものではあるが、なくてはすまされない不可欠なものではない。不可欠なものは自然環境である。自然環境を破壊せず、パッシブな方向だけではどうしても悪化するところを建築設備でカバーするという方向、とくにエネルギー消費型の設備を最小化する方向を実現することが今後の課題であろう。

 建築設備は大きく次の8種に分けられる。

(1)熱・空気調整設備 人の健康、作業能率、快適感、温冷感と環境の熱・空気条件との関係に基づいて換気・暖房・冷房設備が設けられる。換気設備は室空気の悪化、汚染を防止し、衛生上必要な換気量(新鮮外気の導入)を与える。暖冷房設備は室空気の温湿度、室周壁の温度を調整して居住性を高める設備で、蒸気、温水、温風による暖房方法は19世紀初頭から普及した。今日では熱ポンプによる暖房が加わった。空気調和設備は換気、暖房、冷房の機能を含み、さらに湿度と室内気流を調整し、空気の浄化を行う総合的設備であり、20世紀の初頭に開発され、初めは生産過程や貯蔵を目的とする施設に適用された。高度な清浄空気を必要とする所に用いられるクリーンルーム設備や、空気汚染や熱発生の大きい工場などに用いられる工場換気設備は一部門をなしている。

(2)水調整設備 人の居住および生産過程に必要な水を供給し、使用されて汚れた水を排除する給排水設備は諸設備のなかでもっとも重要で不可欠な設備である。給水浄化、排水処理は衛生および環境保全の点で重要であるが、水源水質の低下は水量の不足とともに絶えず解決を迫られる問題であり、また今日の排水処理システムは工場排水を含むために、環境を汚染することなく維持することが今後ますます困難になると思われる。対策は、工場排水の個別処理、生活排水の自然循環原理にたつ(土壌利用)処理、井水利用促進計画など建築設備の一部とみられる小システムの開発であろう。水調整にはこのほか、給湯、飲用冷水供給、および消火用水供給の設備が含まれる。

(3)電気設備 動力源、熱源、光源として電力の受電・変電設備、配管(電線管)、配線設備、および照明設備と、それらに付属する各種の制御装置。

(4)ガス設備 各種都市ガス用、プロパンガス(LPG)用の各種設備機器(エンジン、冷凍機、暖房・給湯機器、料理用機器)およびガス配管設備。

(5)消・防火設備 火災感知、煙感知、警報通報の機器類、および消火設備排煙設備

(6)輸送設備 エレベーターエスカレーターエアシューター、各種物品輸送機。

(7)情報伝達設備 電話インターホン、音響設備(オーディトリアム音響設備、呼出し・告知用、BGM用スピーカーシステムなど)。

(8)塵芥(じんかい)処理設備 ダストシュート、塵芥焼却炉、厨芥(ちゅうかい)処理器、真空塵芥輸送装置。

[石原正雄]

『井上宇市他編『建築設備ハンドブック』(1981・朝倉書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「建築設備」の意味・わかりやすい解説

建築設備 (けんちくせつび)
building equipment

現代の建築物の内部には,要求されるさまざまな機能を果たすために,電気やガス,あるいは給排水のための装置や機器が大量に組み込まれている。要求される機能は多様であり,また巨大な超高層建築から1戸建ての小住宅に至るまでその規模も非常に異なるが,これら建築物と一体となってその効果を全うする各種の装置,機器施設などを総称して建築設備と呼ぶ。建築の元来の機能とは,外敵を防ぎ,雨露をしのぐことであったと思われるが,人間は生活を営むうえでの必要から各種の物質や道具を建物内に持ち込んで使用するようになった。例えば川または井戸で水をくみ住居まで持ち帰って水がめにためておくという場合には,それは建築とは関係のない一つの生活行為であるが,水道施設が発達し,配管を家屋内に敷設して好みの場所で任意に水が使用できるようにする段階になると,建物を作る当初からそのための計画を行い,配管,蛇口,流しなどの機器の類を建築の一部として組み込んでおくことが必要になってくる。同様のことは,燃料としての薪が都市ガスに変わり,燭台やランプが電灯照明に変わり,火鉢,こたつの類がセントラルヒーティングに変わるというように非常に多くの事例を挙げることができる。要するに,生活の便宜のために持ち込まれた道具とか物質,エネルギー,情報などの供給処理の機能が建物の一部分として作り付けになっていった姿が建築設備にほかならない。建築物を人体にたとえた場合,構造が骨格を,意匠が皮膚と外観を決定し,設備が建物に血管と神経を与えると説明される場合もある。

 明治時代に洋風建築が始まった当初から,建物内で水を使用し,また排泄される汚物を処理するための給排水衛生設備があって,給水管,衛生器具,排水管,ポンプ,汚水浄化槽などの装置が使用された。また暖をとるための蒸気暖房設備とそれに伴うボイラー,蒸気管,ラジエターなどの装置類も使用された。その後も設備化つまり機能の作り付け化が進行し,まず電灯の普及によって採光照明が設備化され,次いで都市ガスによって建物内での火気使用が,エレベーター,エスカレーターなどによって建物内での交通と物流が設備化されていく。しかし何といっても建築における設備の比重を飛躍的に高めたのは1960年代に始まった空気調和設備の普及である。空気調和設備においては熱を作るためのボイラー,冷温を作るための冷凍機,室内の空気の汚染を防止するための換気装置およびそれらから温風,冷風を製造する空気調和機,送風機,ダクト(風導管)など非常に大型の機械類と大量の燃料,電気を使用するようになり,これによって建設工事中に占める設備工事費の割合も急激に高まった。建物の種類によって異なるが,標準的な高層事務所建築において30~40%が設備工事に費やされている。

 住宅についても建築設備の比重の増大は同様であるが,とくに住宅では狭小な面積に多様な機能性を凝集した形で組み込む方向に発達して独特の形態を示すに至っている。例えば台所の流しと給排水,給湯,ガスレンジ,オーブンと排気扇,さらに手もと照明や冷蔵庫,皿洗機などの設置場所と電源コンセントなど多くの要素を一括して,キッチンユニットとして一体的に製品化してしまうもの,あるいは浴槽と給排水,給湯,便器,洗面器などの衛生器具,排気設備を一体にしたサニタリーユニットなどである。今日の住宅設計においてはまずこれらの機能的中心を設定してからその周囲に各種の居室を配していくのが一般的になっている。

 建物に対する機能上の要求はますます多様化していて,新しい種類の建築設備が次々と出現している。上に例示した以外で重要なものには,防災関係の設備すなわち,火災感知・警報設備,スプリンクラーなどの消火設備,排煙設備,非常用電源設備などがある。また建物全体の運転管理の機能も設備化されつつある。これは上記した諸設備の運転状況などの情報をオンライン化された管理センターに集めて管理し,常時,非常時の建物の適切な運営のための判断機能をもたせるというものであり,ここに至って建築は頭脳を具備する段階にきたといえる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「建築設備」の意味・わかりやすい解説

建築設備
けんちくせつび
building equipment

居住者の保健性,快適性,利便性,安全性などを確保するため,あるいは工場などにあっては生産性をあげるため,建築物に付設される設備の総称。空気調和設備,給排水設備,消火設備,防災設備,電気設備,照明設備,搬送設備,厨房設備,衛生設備,ごみ処理設備,ガス設備などが含まれる。一般的に都市設備である電気,ガス,上下水道,通信のネットワーク設備,地域冷暖房設備,ごみ処理施設などとは区別されている。建築設備は建築物の機能性向上,省エネルギー,省資源,地球環境保全などに大きく関与するために,その重要性がますます大きくなっている。

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