引張(読み)ひっぱる

精選版 日本国語大辞典 「引張」の意味・読み・例文・類語

ひっ‐ぱ・る【引張】

〘他ラ五(四)〙 (「ひきはる(引張)」の変化した語)
① ひき延ばす。ひき延ばして張る。また、線などをひく。
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)張周趙任申屠第一二「唐土にはまないたの上にのせて、四の枝をひっはりて斧を以て頸と腰とをきって三段になすぞ」
② 力を入れてひき寄せようとする。
太平記(14C後)二「両方の手を引張(ヒッパッ)て、其上を歩せ奉ん」
③ 無理に連れて行く。つかまえて引き立てる。
※高野本平家(13C前)一「上卿をとてひっはり」
④ ひき連れる。伴う。
恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉三〇「左(と)も右(かく)も、向方の奴を引伴(ヒッパ)って来ると為よう」
⑤ 誘い入れる。また、誘惑する。「仲間に引張る」
※大本神諭‐火之巻(1920)〈出口ナオ〉大正七年旧三月一五日「この御道(おみち)は引っ張りには行かんから、気が附いて来たら出て御座れ」
⑥ 磔(はりつけ)にする。磔の刑に処する。
浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)中「浅ましい欲心に海賊の仲間に入〈略〉木の空にひっぱらるるは今の事」
⑦ 時間・期限を延ばす。また、解決や決定を引き延ばす。
※浄瑠璃・薩摩歌(1711頃)中「入相時分に膳立して、夕飯・夜食をひっぱり」
⑧ (自動詞的に用いて) 匹敵する。肩を並べる。
洒落本・廻覧奇談深淵情(1803)其三「鼠色の顔(かんばせ)鶏卵(たまご)のしろみにひっぱる」
⑨ かぶる。着る。ひっかける。
※雑兵物語(1683頃)下「夏はやれかたびら一枚、冬は木綿の袷をひっはりて」
⑩ もらってくる。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)前「そねむなイ、此野郎ほうをのべべ(〈注〉うつくしいきもの)を引張(ヒッパッ)たと思って」
⑪ 引用する。
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の花見「そんな喩へを引っぱられちゃ」

ひっ‐ぱり【引張】

〘名〙
① ひっぱること。
② (互いに引き合うことの意から) 合同ですること。共同。一緒。
※咄本・譚嚢(1777)三人一座「引ぱりにして、三人でやるからは、いってもゑい。五匁づつ二人ながら、おれが所へよこしやれ」
③ 同一の程度、有様であること。好一対
※滑稽本・素人狂言紋切形(1814)下「操狂言庄屋と、歌舞伎の大屋と、引張(ヒッパリ)な役さ」
④ 取り合い。競争。
※雑俳・露丸評万句合‐宝暦一三(1763)「壱反をひっはりに着る云名附け」
※歌舞伎・景清(1842)「岩永、梶原抜かけるを、重忠、仁田留る。引(ヒッ)ぱりよろしく。三重かけりにて」
⑥ 揚代が南鐐一片(二朱銀)の安女郎。また、道ばたで通行人の袖をひっぱって売淫する女。引張女郎。夜鷹。つじぎみ。やぼち。街娼。また、女をののしってもいった。
※浄瑠璃・百合稚高麗軍記(1742)四「ヤイそこなひっぱりめ」
※洒落本・蕩子筌枉解(1770)幽州「今この桑名屋といふひっぱりへ来てゐる」

ひき‐は・る【引張】

〘他ラ四〙
① むりに連れて行く。引き立てる。ひっぱる。
※枕(10C終)三九「そばへたる小舎人童などに、ひきはられて泣くもをかし」
② たるみのないように強く引いて張る。
日葡辞書(1603‐04)「ユミヲ ヒサシク fiqifatte(ヒキハッテ)イレバ ユンゼイツクル」
③ 強い意志をもつ。
※愚管抄(1220)四「後二条殿又事のほかに引はりたる人にて」
④ 身につける。着る。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android