当事者訴訟(読み)とうじしゃそしょう

改訂新版 世界大百科事典 「当事者訴訟」の意味・わかりやすい解説

当事者訴訟 (とうじしゃそしょう)

この語は多義的であるが,広義では,対立する当事者を対等の立場で訴訟手続に関与させ,その請求・申立てについて裁判所が審判を下す訴訟をさす。しかし,行政訴訟の分野では,当事者訴訟は抗告訴訟に対立する観念として用いられ,一定の訴訟類型をさしている。すなわち,抗告訴訟とは,〈公権力の行使に関する不服の訴訟〉(行政事件訴訟法3条1項)とされるのに対し,当事者訴訟は,〈当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令規定によりその法律関係の当事者の一方被告とするものおよび公法上の法律関係に関する訴訟〉(4条)とされる。いいかえれば,前者の抗告訴訟においては,行政庁を相手に行政庁の権限行使もしくは不作為適否が争われるのに対し,後者の当事者訴訟においては,権利・義務の帰属する法主体どうしの間で権利・義務関係の存否が争われることになる。

 行政事件訴訟法4条前段にいう当事者訴訟の例としては,土地収用に基づく損失補償額について起業者または土地所有者等がその減額または増額を求めて相手方を被告として提起する訴訟が挙げられる。このような訴訟は,実質的には,収用委員会の裁決に対する不服という意味で抗告訴訟の要素をもつが,立法政策上,紛争のより直截的な解決を目ざして,当事者相互を直接争わせる訴訟形式が採用されたものであるといえよう。同様の立法例は農地法85条の3,鉱業法53条の2などにも見られる。この種の訴訟は,形式的当事者訴訟とも呼ばれ,出訴期間の定めが設けられたり,訴訟提起についての行政庁への通知(行政事件訴訟法40条)の規定が設けられている。

 つぎに,行政事件訴訟法4条後段にいう当事者訴訟,すなわち,実質的当事者訴訟の例としては,公務員の免職処分の無効を前提とする公務員の身分の確認を求める訴訟とか,給与の支払を求める訴訟などが挙げられる。この種の訴訟は通常の民事訴訟と異ならないが,裁判管轄や出訴期間について若干の特例が設けられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「当事者訴訟」の意味・わかりやすい解説

当事者訴訟
とうじしゃそしょう

行政事件訴訟の一種で、対等当事者間の公法上の紛争に関する訴訟をいい(行政事件訴訟法4条)、公権力の行使に関する不服の訴訟である抗告訴訟と私法上の法律関係に関する民事訴訟との中間的訴訟である。当事者訴訟には二つの種類がある。その一つは「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」で、土地収用に基づく損失補償額についての不服を、収用裁決をした土地収用委員会を被告とすることなく、起業者と土地所有者などの間で争わしめるのが一例である。

 他の一例は「公法上の法律関係に関する訴訟」で、公務員の給与や公法上の損失補償請求訴訟、公務員・議員・国公立学生の地位確認訴訟などがこれに属するとされているが、公法と私法の区別が不明確であるため争いがある。また、それは職権証拠調べ(行政事件訴訟法24条)などを除き民事訴訟と同じであるので、民事訴訟と区別する実益はほとんどない。

 なお、広義では、対立当事者を訴訟手続に関与させ、その利益追行に基づいて裁判をすることをさす。また民事訴訟では、当事者が弁護士を訴訟代理人として依頼する弁護士訴訟に対し、自ら訴訟行為をする本人訴訟を当事者訴訟という。

[阿部泰隆]

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百科事典マイペディア 「当事者訴訟」の意味・わかりやすい解説

当事者訴訟【とうじしゃそしょう】

(1)行政訴訟では,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟としての抗告訴訟に対し,対等な主体・機関の間の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。(2)民事訴訟では,弁護士だけが訴訟手続に関与できるものとする弁護士訴訟に対し,本人自身が訴訟をなし得る本人訴訟をいう。
→関連項目行政事件訴訟法

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「当事者訴訟」の意味・わかりやすい解説

当事者訴訟
とうじしゃそしょう

行政事件訴訟法が定める行政訴訟の一類型。 (1) 当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とする訴訟と,(2) 公法上の法律関係に関する訴訟とがある (行政事件訴訟法4) 。前者の例としては,土地収用法 133条の収用委員会の裁決のうち損失補償に関する訴訟などが,後者の例としては,公務員の身分の確認訴訟や公務員の給与の支払請求訴訟などがある。

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