徳永直(読み)とくながすなお

精選版 日本国語大辞典 「徳永直」の意味・読み・例文・類語

とくなが‐すなお【徳永直】

小説家熊本県出身。労働者生活を通して社会主義運動にめざめる。大正一一年(一九二二山川均のもとに寄寓、博文館印刷所共同印刷前身)の労働争議に加わり、その体験に基づいた小説「太陽のない街」でプロレタリア作家としての地位獲得、以来ナップの中心作家となる。第二次大戦後も民主主義文学運動に参加した。著「八年制」「妻よねむれ」など。明治三二~昭和三三年(一八九九‐一九五八

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デジタル大辞泉 「徳永直」の意味・読み・例文・類語

とくなが‐すなお〔‐すなほ〕【徳永直】

[1899~1958]小説家。熊本の生まれ。印刷工となり、上京して労働運動に参加。共同印刷争議の体験を「太陽のない街」に描き、プロレタリア作家としての地位を確立。他に「失業都市東京」「妻よねむれ」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「徳永直」の意味・わかりやすい解説

徳永直
とくながすなお
(1899―1958)

小説家。明治32年1月20日、熊本県に生まれる。小学校を6年で中退後、印刷工場の見習工、文選工などの職業を転々とした。のち山川均(ひとし)を頼って上京、博文館印刷所(現共同印刷)に就職し、出版従業員組合結成に加わったが、1926年(大正15)共同印刷争議に敗れ解雇された。しかしこの体験をもとに29年(昭和4)『太陽のない街』を『戦旗誌上に連載、ナップ系の数少ない労働者出身の作家として独自の地位を築いた。その後『能率委員会』(1929)、『失業都市東京』(1930)など盛んな創作活動を展開、やがてプロレタリア文学運動の政治主義的偏向を批判、転向小説『冬枯れ』(1934)や『はたらく一家』(1937)、『八年制』(1937)などを発表した。戦後は新日本文学会の創立に参加。『妻よねむれ』(1946~48)、『静かなる山々』(1949~54)ほかを発表。いわゆる50年分裂では『人民文学』に参加した。昭和33年2月15日没。

[大塚 博]

『『現代日本文学大系59 徳永直他集』(1973・筑摩書房)』『久保田義夫著『徳永直論』(1977・五月書房)』『浦西和彦編『人物書誌大系1 徳永直』(1982・日外アソシエーツ)』


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改訂新版 世界大百科事典 「徳永直」の意味・わかりやすい解説

徳永直 (とくながすなお)
生没年:1899-1958(明治32-昭和33)

作家。熊本生れ。小学校6年から印刷工,文選工などをしながら苦学,労働運動に近づき,1922年に上京して博文館印刷所に勤め,26年にはその後身共同印刷のストライキに参加し解雇された。この経験は29年《太陽のない街》を生み,日本プロレタリア作家同盟を代表する作家となる。33年《創作方法上の新転換》で作家同盟の指導方針を批判し脱退。34年,転向文学《冬枯れ》を書き,また37年《太陽のない街》絶版声明を出すなど,時代の圧力に屈したが,《はたらく一家》(1938),《八年制》(1939),活字印刷の労苦の歴史を描いた《光をかかぐる人々》(1943)などで庶民の実態をリアルに描いた。敗戦後,新日本文学会創立に参加,日本共産党員作家として《妻よねむれ》(1948),《静かなる山々》(1952)などを発表。破婚をめぐる《草いきれ》(1956)が壺井栄との論争になった。自伝的作品《一つの歴史》(1957)を未完のままに死去。労働者出身作家の一典型として重視される。
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百科事典マイペディア 「徳永直」の意味・わかりやすい解説

徳永直【とくながすなお】

作家。熊本県生れ。早くから職を転々としたのち労働運動に活躍,1929年《太陽のない街》でプロレタリア作家として世に出,ナップに参加した。戦争中には日本の活字印刷の歴史を描いた労作《光をかゝぐる人々》がある。敗戦後は新日本文学会創立に参加。《妻よ,ねむれ》などの作品がある。
→関連項目新日本文学プロレタリア文学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「徳永直」の意味・わかりやすい解説

徳永直
とくながすなお

[生]1899.1.20. 熊本,花園
[没]1958.2.15. 東京
小説家。小学校中退。職を転々としたのち,1922年山川均を頼って上京,印刷工員として労働組合運動に参加。 26年共同印刷の大争議にかかわり,敗北後この争議の経過を描いた『太陽のない街』を『戦旗』に連載,これによりプロレタリア作家として認められた。第2次世界大戦中は『光をかかぐる人々』 (1943) で地味な抵抗を示し,戦後は新日本文学会の結成に参加,『新日本文学』創刊号から亡妻の思い出として下積みの女の一生を描いた『妻よねむれ』 (46~48) を発表。ほかに『八年制』 (37) ,『静かなる山々』 (49~54) ,『草いきれ』 (56) などがある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「徳永直」の解説

徳永直 とくなが-すなお

1899-1958 昭和時代の小説家。
明治32年1月20日生まれ。博文館印刷所につとめ,後身の共同印刷で争議に参加し解雇される。昭和4年体験をもとに「太陽のない街」をかき,プロレタリア作家としてみとめられる。戦後は新日本文学会の創立に参加し,「妻よねむれ」などをのこした。昭和33年2月15日死去。59歳。熊本県出身。
【格言など】お前はもう安心して眠れ! 子供のせなか,亭主のせなかで眠ってくれ!(「妻よねむれ」)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「徳永直」の解説

徳永直
とくながすなお

1899.1.20~1958.2.15

昭和期の小説家。熊本県出身。貧しい家庭のため小学校を中退,印刷工見習いとなる。のち労働運動に近づき山川均をたよって上京,博文館印刷所(のち共同印刷)で植字工となるが,1926年(昭和元)共同印刷争議に参加して解雇される。29年「太陽のない街」を「戦旗」に連載,ナップ派のプロレタリア文学の有力な新人として高く評価された。以降盛んな作家活動を続け,第2次大戦後も「妻よ眠れ」などの作品がある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「徳永直」の解説

徳永直
とくながすなお

1899〜1958
昭和期のプロレタリア文学作家
熊本県の生まれ。もと印刷工。1926年共同印刷大争議に参加して失職。その経験をもとに'29年『太陽のない町』を雑誌『戦旗』に発表。ナップ(全日本無産者芸術連盟)に参加し人民作家として活躍した。第二次世界大戦後,新日本文学会に属し『妻よねむれ』などを発表。

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世界大百科事典(旧版)内の徳永直の言及

【太陽のない街】より

徳永直(すなお)の長編小説。1929年《戦旗》に連載,《日本プロレタリア作家叢書》4として戦旗社刊。…

※「徳永直」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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