心機能検査(読み)しんきのうけんさ(英語表記)heart function test

改訂新版 世界大百科事典 「心機能検査」の意味・わかりやすい解説

心機能検査 (しんきのうけんさ)
heart function test

心臓の機能を評価するために行う一群の検査をいう。心臓の機能で最も基本的なものは,全身の血流を確保するポンプ作用であり,この作用を維持するための機構として,心臓の電気的興奮による調律,心臓各室の収縮,房室弁および動脈弁などによる血液の逆流防止,冠状動脈による心筋への栄養・酸素供給,形態の適応的変化などがある。心機能検査はこれらのそれぞれの働きを評価するもので,形態の評価,拍出される血液の量と拍出様式の評価,血流を維持するための圧力の評価,電気的興奮過程の評価,および病態の原因または結果としての血液などの変化の評価が含まれる。これらの評価を行うために,次のような検査がある。

正面,側面および右,左前斜位の4方向から撮影し,心臓の各室や大血管の位置と大きさ,さらに負荷の有無を知ることができる。同時に,心臓機能の低下の結果として生じる肺鬱血(うつけつ)や胸水などを確認することができる。

カテーテルを心臓に挿入し,造影剤を注入して撮影する検査法。これによって,心臓の内腔構造,心室と大血管の関係,弁の狭窄や閉鎖不全の程度,心室壁の収縮運動の状態,駆出率,逆流量,短絡の有無などが描出される。冠状動脈の狭窄や閉塞状態を調べるための選択的冠動脈造影法もある。またCTスキャンDSAなど,コンピューターを用いた撮影・解析法も開発されている。
CT検査

核磁気共鳴装置を用いて心臓血管の状態や血流を調べる。同様の機序でコンピューターによって心臓の機能を記録することも行われている。

心臓の電気的興奮を記録する方法で,あらゆる不整脈をはじめ,心房や心室の肥大の有無,心筋障害や心筋の虚血の有無,心筋梗塞(こうそく)の有無やその部位,心臓のまわりの状態などを知ることができる。特殊な方法として,心臓カテーテルを用いた心内(ヒス束)心電図,テープレコーダーを用いた長時間連続記録,空間的表示を行うベクトル心電図,運動後の状態を調べる負荷心電図などがある。これらは特殊な病態を知る目的で用いられる。重篤な状態では持続的に監視することも多い。以上のほか,コンピューターを用いた体表面マップ法がある。この方法では興奮の伝播の状態を知ることができ,心筋梗塞や不整脈の詳細な解析が可能である。
心電図

心臓の弁の開閉に伴う音や血液の流出に伴う雑音を記録する検査法。弁の性状や心臓の奇形,短絡の有無,肺動脈の圧の上昇,心膜炎などの状態が鑑別できる。ふつう心音図は心電図と同時に記録され,心臓の各部の興奮,収縮の関連がわかる。心機図として,頸静脈・頸動脈拍動を測定し,心尖拍動図を同時に記録することによって,血液の駆出状態を調べることができる。
心音 →心機図

超音波画像診断の一つで,体外から超音波を入射し,心臓の壁や弁からの反射を利用して,心臓の形や大きさ,心室壁の厚み,収縮運動,弁の動きと形の変化,心囊液などを調べる方法。心血管造影法と比べ,被験者に対する影響が少ないうえに,情報量も多いことから,広く用いられるようになった。ドップラー法や造影剤を静脈に注射する方法によって,血液の逆流や短絡を知ることもできる。カテーテルの先に送受信器をつけて血管の状態を観測する血管内エコー法もある。
心エコー図

色素希釈法は血管内に色素を,熱希釈法では血液より低温度の液体を,血管内に注射し,その下流で色素の濃度や血液の温度を測定することによって,血流量を測定する方法。これによって,心臓機能の最も重要な項目である心拍出量を測定することができる。
色素希釈法 →熱希釈法

放射性同位体の標識化合物を注射して,その心腔内の動態や心筋への化合物の取込み方を体外から記録する方法。心拍出量や駆出率,心筋の局所収縮性,冠動脈血流の分布,心筋梗塞の部位と大きさを知ることができる。またポジトロン放射物質を用いるPET法も一部で用いられている。

静脈あるいは動脈から適切な太さの中空のカテーテルを大血管や心房,心室まで挿入し,その部分の血圧や血流を測定する方法。同時にその部分の血液を採取して酸素濃度を測定することによって,短絡や心拍出量を計算することができる。またカテーテルの先端に血流速度計などがついたものを用いて血流を測定したり,電極をつけて心電図や心音図を記録するもの,小さなはさみがついていて生検ができるもの,心房中隔を窄刺(せんし)する針のついたもので静脈側から左心房へカテーテルを導くもの,カテーテルの先端の形を工夫し選択的造影に用いられるものなどがある。カテーテル法は治療にも用いられ,冠状動脈や狭窄部分や心房中隔卵円孔を広げることや電気焼灼で不整脈を治療することも行われる。
心臓カテーテル法

血液の細胞成分やコレステロールなどの化学成分血性反応を分析して虚血性心臓疾患のかかりやすさ,不整脈の起りやすさや,心筋梗塞や心筋炎などの心筋の障害の程度,薬の副作用などを調べたり,動脈血ガス分析で心臓性ショックや心不全の状態を知ることができる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「心機能検査」の意味・わかりやすい解説

心機能検査
しんきのうけんさ

心臓の機能を調べることで、循環機能検査ともいう。心臓病の診断には視診や打聴診のほかに、心電図や胸部X線検査などによって器質的な異常を調べることが必須(ひっす)であるが、病態の正確な把握、重症度の評価、治療法の選択や予後の判定に際して心機能不全の有無およびその程度を知ることも重要である。心機能不全は他覚的に頸(けい)静脈怒張、肝腫大(しゅだい)、浮腫(ふしゅ)(むくみ)や肺野ラ音(ラッセル音の略で、肺の聴診上聞かれる一種の雑音)の聴取によっても診断されるが、その正確な判定には、次のような検査法を適宜選択して行う。

(1)静脈圧測定 心不全の診断に必要で、注射針を直接静脈に刺入して測定する。右心不全の程度に伴い、静脈圧は高くなる。

(2)循環時間測定 血液が一定の血管距離をもっとも速く流れる時間を測定する。一般には末梢(まっしょう)静脈より指示薬を注入し、検出部位までの指示薬の移行する時間を測定する。心不全や末梢循環障害で延長し、動脈管開存症など正規でない循環経路を生じた短絡疾患や甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症で短縮する。

(3)心臓X線検査 心臓を4方向からX線撮影することにより、心臓弁膜症や心不全にしばしば随伴する心房、心室、大血管の拡大の有無およびその程度を判定する。また、左心不全徴候である肺野うっ血・浮腫像も知ることができる。

(4)心音図・心機図 心臓および大血管の拍動に関連した機械的現象をとらえたものを心機図といい、通常、心音図と心電図を参考曲線として、頸動脈波、頸静脈波、心尖(しんせん)拍動図などを同時記録する。心機図によって非観血的に心疾患の補助診断、心時相の同定、心機能の推測などを行う。

(5)超音波エコー法 超音波探触子を胸壁に当てて心臓内構造物の形態と動きを非侵襲的に調べる方法で、これにより弁や壁の動き、心室壁の厚みを描出し、弁膜症や心臓肥大の程度および心収縮能の評価を行う。

(6)心臓RI検査 RI(放射性同位元素)を体内に投与し、心臓や肺への分布状況およびその経時的変化から心臓の形態や循環動態機能を診断する方法で、心筋を描出する心筋シンチグラフィと心臓および大血管内の血液を描出する心プールシンチグラフィの2種がある。前者によって心筋梗塞(こうそく)部位や心筋血流量を、また後者によって心拍出量、循環血液量、短絡疾患の有無などを知ることができる。

(7)心臓カテーテル検査 大腿(だいたい)動静脈または上腕動静脈からカテーテルを挿入し、大動脈や肺動脈などの大血管および心臓の腔内(くうない)の血圧、血液中の酸素と炭酸ガスの含量などを調べる。これによって肺高血圧症の有無、弁膜や短絡疾患の有無および程度、心拍出量などがわかる。また、カテーテル先端より造影剤を注入し、心臓血管造影を行って心臓奇形や弁膜異常などの形態異常を検出するほか、心機能を評価することもできる。なお虚血性心疾患の診断のためには通常、冠動脈造影もあわせて行う。

[井上通敏]

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