心身平行論(読み)しんしんへいこうろん(英語表記)parallelism

翻訳|parallelism

改訂新版 世界大百科事典 「心身平行論」の意味・わかりやすい解説

心身平行論 (しんしんへいこうろん)
parallelism

精神と身体,心的事象と物的事象という二つの系列は相互に平行し対応するが,因果的に一方が他方に影響するのではないとする立場。物的事象はあくまで他の物的事象とのみ,心的事象は他の心的事象とのみ因果連関をなし,両系列の間には相互作用はないとみなす。〈平行論Parallelismus〉という用語はフェヒナーのころから用いられたが,哲学史上,平行論の立場をとったのはまず17世紀の機会原因論者である。彼らは物心二元論に立ち,物心対応の真の原因を神に帰した。すなわち,刺激に対して感覚が,意志発動に対して身体運動が起こるとき,刺激や意志は神が感覚や身体運動を生じさせる機会原因にすぎないと考えた。スピノザは,思惟と延長を同一の実体(神)の二つの表現にすぎないとみる一元論の立場から,心身の平行を主張した。フェヒナーはスピノザの思想を心理学の領域に移し,汎心論の立場から平行論を唱え,精神物理学を創始した。心身平行論はシュライエルマハーショーペンハウアーにも見られる。
心身問題
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の心身平行論の言及

【心身問題】より

…その代表者であるデカルトも,身体と心の絡みの中心を松果腺としただけで,松果腺と心の絡みを説明できなかった。そこで,そのような作用はない,心と身体とは二つの時計のようにうまく調子がそろって平行しているのだ,というのがフェヒナーが平行論Parallelismusと名付けたものである(心身平行論)。その一変種として,主役である身体とくに脳の動きに心が随伴するという随伴説epiphenomenalismがある。…

【スピノザ】より

…彼は実体を自己原因としてとらえ,デカルトにはじまるアリストテレス的実体概念の革命を徹底し,無限に多くの属性から成る唯一の実体を神と呼んだ。いっさいの事物は様態すなわち神の変状であり,神はいっさいの事物の内在的原因であり,いっさいの事物は神の必然性によって決定されているとして,〈神即自然〉の汎神論的体系を展開し,思惟と延長を神の二つの属性,すなわち同一実体の本質の二つの表現と見て,心身平行論の立場をとり,デカルトの二元論をのりこえた。こうして彼は,自己の個体本質と神との必然的連関を十全に認識するとき,有限な人間は神の無限にあずかり,人間精神は完全な能動に達して自由を実現し,そこに最高善が成立すると説いた。…

※「心身平行論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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