忌地(読み)イヤチ(英語表記)sick soil

デジタル大辞泉 「忌地」の意味・読み・例文・類語

いや‐ち【忌地/×厭地】

《「いやぢ」とも》作物を連作した場合、生育が悪くなり、収穫が少なくなること。エンドウトマトナスなどに起こりやすい。連作障害

いや‐じ〔‐ヂ〕【忌地/×厭地】

いやち

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改訂新版 世界大百科事典 「忌地」の意味・わかりやすい解説

忌地 (いやち)
sick soil

連作障害ともいわれ,耕地に年々同一あるいは近縁の作物を連作した場合,作物の生育が不良となり,収量が低下する現象をいう。トマト,ナス,ゴボウスイカ,キュウリなど多くの野菜類や豆類,あるいはモモ,イチジクリンゴなど果樹類に広く認められる現象である。一方,タマネギカボチャ,イチゴ,水稲などでは忌地は認められず,概してイネ科作物やイモ類ではその程度は軽微であるが,陸稲サトイモは連作に弱い。忌地は連作によって土壌環境が生物学的あるいは化学的に変化し,特定の作物の生育に不適合な状況となることに基づくものである。その原因については,現在不明の点も少なくないが,次の三つの要因が単独にあるいは複合して起こるものと考えられている。その第1は,病原微生物まんえんによるものである。一般に,特定の作物は特定の病原微生物との結びつきが強いため,同一作物を連作した場合,それら病原微生物が著しく増殖し,作物に大きな被害を及ぼすことが多い。病原微生物としては土壌伝染性の病原菌センチュウ線虫)があげられている。第2は,養分欠乏によるものである。作物は種によって土壌中から吸収する養分が量質ともに異なっているため,同一作物を連作すると,特定の養分が欠乏してくる。栄養のバランスを失った作物は,生育が不良となる。第3は,作物が固有の物質を排出し,これが同種または近縁の作物の発芽や生育に阻害的に働くことに基づくものである。アレロパシーと呼ばれるこの現象は,近年研究者の注目を集めるところとなっており,個々の阻害物質の同定や化学構造の決定がなされつつある。

 忌地の解決策としては,基本的には同一作物の連作をやめ,各種の作物を組み合わせて順次作付けていく輪作方式の採用が,最も望ましいものとされている。輪作を行っている時間的経過のなかで,特定作物と結びついた生育阻害要因がしだいに除去されていくことがその対策の基本となっている。しかし日本においては,現在,経済的に見合った輪作作物を見いだすことが困難であるため,とかく連作に走りがちの傾向がある。このような場合には,個々の阻害要因に対応した処置が講ぜられている。すなわち,病原微生物に対しては殺菌剤や殺虫剤による土壌消毒を徹底的に行うことや,耐病性,耐虫性の品種を栽培することが重視されている。また養分欠乏に対しては,不足する養分を施肥や客土によって補うという対策が行われている。さらに阻害物質の蓄積に対しては,排水を十分に行い,あるいは土壌をよく耕起して日光や空気に当て,阻害物質の分解や散逸を図るのがよいとされている。しかし,忌地問題にはなお不明な部分も多く,また以上の諸対策を完全に実施することも容易なことではない。野菜類の主産地を中心として,連作による障害は大きな問題を提起している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「忌地」の意味・わかりやすい解説

忌地
いやち

同一または分類学的に近縁な種類の作物を連作した場合、作物の生育が悪くなり、収量が減少もしくは皆無となる現象を忌地または忌地現象という。忌地は、程度の差はあるが多くの作物でみられ、とくにアマ、エンドウ、ゴボウ、スイカ、トマト、ナスなどは著しく減収する。これらの作物を栽培した畑では、数年から10年くらいは同一作物の栽培をしないほうがよい。しかし、一般にイネ科の作物はほとんど忌地がなく、水田作のイネはまったく忌地を示さない。忌地の原因は十分に解明されてはいないが、いくつかの要因が複雑に影響しあっていることが多いと考えられる。その要因として、土壌中の特定の養分の消耗、病原菌や線虫、害虫の蔓延(まんえん)、作物の根からの生育阻害物質の分泌、残根中の毒素、土壌の物理性の変化などがあげられている。忌地の対応策として土壌消毒や客土などが行われているが、いずれも根本的な解決策とはなっていないため、連作を避け、他の作物と輪作をすることが望ましい。

[星川清親]

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百科事典マイペディア 「忌地」の意味・わかりやすい解説

忌地【いやち】

同一種または近縁作物の連作によって,それらの作物の発育が悪化し,収量も減少するようになる現象。連作障害とも。ナス,トマト,スイカ,キュウリなどの野菜類や豆類,リンゴ,モモ,イチジクなどの果樹類に広く見られる。原因としては,病原微生物・線虫の増加,必要養分の減少,土壌微生物相の変化,植物からの有毒物質の分泌などがあげられる。土壌消毒,必要養分の補給,連作の中止などで対処。
→関連項目連作

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「忌地」の意味・わかりやすい解説

忌地
いやじ
sick soil

連作障害ともいう。同一作物の連作によって生育がはなはだしく不良,あるいは生育不能となる現象。忌地を起しやすい作物はえんどう,トマト,なす,亜麻,里芋,すいか,メロン,大麦,桃,いちじくなどが知られている。原因としては土壌養分の欠乏,土壌病原菌,土壌線虫,および有害物質の蓄積などがある。原因が養分の欠乏ならば必要な養分を加え,水に可溶性の有害物質であれば多量の水で洗い流し,また線虫その他の微生物の場合には湛水処理を行なって土壌生物相を変化させればよい。

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世界大百科事典(旧版)内の忌地の言及

【アレロパシー】より

…このような作用によって,近傍の他種との競争に打ち勝って繁栄している種があり,植物群落の種組成の決定や遷移の進行については,さまざまな生態的条件の一つとしてアレロパシーが大きな役割を果たしていると推定されているが,まだ研究はよく進んではいない。 作物の忌地とよばれる現象には同種間のアレロパシーが関与しており,ジャガイモ塊茎等の生育を阻害する物質がジャガイモから分泌しているらしい。しかし,忌地の場合の原因物質が何であるかはまだ同定されておらず,その作用機構の究明が待たれている。…

【連作】より

…作物の種類や土壌,気象,管理の方法などによってその現れ方や程度は異なるが,重要な作物でこのような障害が現れるものが多く,農林水産省の調査によると,陸稲,ビールムギ,ダイズ,トマト,キュウリ,ナス,ダイコン,ニンジン,ハクサイなど65種にのぼる。この現象は古くから知られていたが,原因不明のまま忌地(いやち)または連作障害と呼ばれてきた。しかし,近代農学の進歩に伴ってしだいに原因の解明が進み,微量要素の欠乏,病気やセンチュウの害,あるいは特異的な有害物質の蓄積によるなど,原因が判明したものも多い。…

※「忌地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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