デジタル大辞泉
「忙」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
せわし・い せはしい【忙】
〘形口〙 せは
し 〘形
シク〙
① 速度や調子などが速く、次から次へと
間断なく続いている。ゆったりしていない。せわしない。
※石山寺本成唯識論寛仁四年点(1020)「異の儀(よそほひ)を設(まうけ)て険(セハシク)曲れるをもて性と為」
※
蝴蝶(1889)〈山田美妙〉一「あまりの意外に息もせ
はしく」
② しなければならないことなどが多く重なったりして暇がない。いそがしい。多忙である。せわしない。
※長秋詠藻(1178)上「世中は秋の山田の庵(いほ)なれや畦(あぜ)の通ひ路せはしかるらむ」
③ とげとげしくきびしい。小さなことにこだわり、
ゆとりがない。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
※虎明本狂言・乳切木(室町末‐近世初)「あまりせはしうてわるひ、ちと
そちへくつろがしめ」
④ 経済的に切迫している。苦しい。世の中をわたっていくことがむずかしい。
※浮世草子・
世間胸算用(1692)二「されば其聟
(むこ)どのかたも、よくよくせはしければこそ、芝居並の利銀にて何程でも借らるるなり」
※浮世草子・
傾城歌三味線(1732)一「玉屋新兵衛腹の中から世のせはしきことをしらず」
⑤ せかれることがあって落ち着きがない。せかせかしている。気ぜわしい。せわしない。
※
御伽草子・福富長者物語(室町末)「鬼うばがあまりにせはしく申侍るもうるさければ」
※
夜明け前(1932‐35)〈
島崎藤村〉第二部「物の煮えるのを待てないほど気がせはしく」
[語誌](1)①の意では、
挙例の「石山寺本成唯識論寛仁四年点」が早いが、その後院政期の
和歌に「水の流れ」についての例が見られる。
(2)室町後期になると、②の「忙しい」の意を受けて、それによる否定的な印象・評価を強調する③の意が生じた。「日葡辞書」は「せわせわしい」と
同義とし、「せわせわしい人」とは「
しみったれで口うるさく、振舞いのいやらしい人」と記述している。別に「せわしなし」が「
名語記」に見え、主として他から見て好ましくない状態について用いられている。
せわし‐が・る
〘自ラ五(四)〙
せわし‐げ
〘形動〙
せわし‐さ
〘名〙
いそがわし・い いそがはしい【忙】
〘形口〙 いそがは
し 〘形シク〙 (第三者的な立場から見て) せわしい感じである。するべきことが多くて落ちつかない様子である。また、目的をできるだけ短時間で達成しようとしているようである。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)六「軍事忙
(イソガハシク)迫む」
※
平家(13C前)七「
鶏鳴(けいめい)又いそがはし」
※
浮雲(1887‐89)〈
二葉亭四迷〉二「お政は、〈略〉お勢の袖を匆
(イソガ)はしく曳揺
(ひきうご)かして」
[語誌](1)平安時代には漢文訓読系の文に見られ、
和文では「いそがし」が使われている。
(2)意味的には「いそがし」が
主体の実際の状況を示すのに対し、「いそがわしい」は第三者の視点から主体の
様態を表現する。
いそがわし‐が・る
〘自ラ四〙
いそがわし‐げ
〘形動〙
いそがわし‐さ
〘名〙
いそがわし いそがはし【忙】
せわし せはし【忙】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報