応急手当(読み)おうきゅうてあて(英語表記)first aid

翻訳|first aid

精選版 日本国語大辞典 「応急手当」の意味・読み・例文・類語

おうきゅう‐てあて オウキフ‥【応急手当】

〘名〙 負傷または急病などの際、とりあえず施す手当て
乳姉妹(1903)〈菊池幽芳〉後「巡査や医師の応急手当を受て」

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デジタル大辞泉 「応急手当」の意味・読み・例文・類語

おうきゅう‐てあて〔オウキフ‐〕【応急手当(て)】

応急処置」に同じ。

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改訂新版 世界大百科事典 「応急手当」の意味・わかりやすい解説

応急手当 (おうきゅうてあて)
first aid

けが人や急病人がでたときに,医師による本格的な治療を受けるまでの間に行う一時的な手当をいう。手当の目的は,けが人や急病人の状態や患部をさらに悪化させないで医師に引き渡すことである。応急手当に際しては,医師が行うような治療,たとえば薬をのませたり注射をしたり,また医薬品を用いてきず(傷)を消毒したり,骨折部を整復したりすることは絶対にしてはならない。最近は,応急手当を含めて,けが人や急病人をすみやかに救助し医師に渡すまでの応急処置は救急法と呼ばれている。国民の一人一人が正しい知識をもって応急手当ができるようになることが求められている。

救急医療

応急手当をする人は次のことを守らなければならない。

(1)医師が判定するまで,けが人や急病人の生死を判定しない。医師に渡すまで,全力をつくしてけが人や急病人の救命に努力する。

(2)医薬品を使わない。あやまった薬の使い方をすれば,病状がますます悪化するおそれがある。

(3)いつも冷静な態度で,けが人や急病人を勇気づけて安心させながら正しい手当をする。

(4)あくまでも,応急手当の範囲内での手当をし,その後はかならず医師にみてもらうようにする。

次のような点に注意して応急手当をする。

(1)呼吸停止,心拍動停止,大出血,意識障害,毒物や薬物服用などはただちに生命にかかわるので,すみやかに人工呼吸心臓マッサージなどの手当を行う。呼吸があるかどうかは,胸や胃のあたりが上下に動くのをみる。また,けが人や急病人の鼻や口に自分の耳を近づければ,吐く息を感じる。のどや気管にものがつまっていれば,ゼーゼーという呼吸音を聞く。脈をふれるには,首の両側にある頸動脈,手首,股の付け根などの部位がよい。脈がふれなければ,心臓から血が送り出されていないと考えてよい。呼吸があって心臓が止まっていることはない。意識をみるのは脳に異変があるかどうかをみるためである。意識の程度をみるには,耳元で大声で呼びかける。目を開けたり,簡単な命令に応ずるが,ぼんやりしている状態を意識混濁と呼ぶ。大声で呼んでも反応はないが,強くつねると体の一部を動かす状態を半昏睡という。大声で呼んでも強くつねってもまったく反応しない状態を昏睡と呼ぶ。脳内の出血,薬の中毒,頭のけがなどのほかに,大出血や重い病気でも意識がはっきりしなくなる。眼の黒い部分(瞳孔)の大きさも意識の状態をみるのによい。意識がなく瞳孔が大きく開いているときは,生命の危険が迫っている。脳損傷や脳内出血など脳に異常があるときは左右の瞳孔の大きさがちがうことが多い。

(2)手足が動かせるかどうかをみて,神経のどこかにきずがあるかどうかを調べる。意識があるのに手足を動かせないときは,脳,脊髄,末梢神経にきずがあることを示している。骨が折れていれば,折れたところから下が動かないこともある。からだの片側の手と足を動かせないときは,脳に異常がある。両手と両足が動かなければ,頸で脊髄がきずついており,両足が動かなければ,腰の部分の脊髄が損傷している。なお,脊髄がひどくきずついていれば,皮膚をつねっても痛みを感じない。

(3)顔色,皮膚の色,皮膚の温度などはからだの中の血のめぐりの状態をみるのに大切である。唇や爪の色が青黒いときは,からだに酸素が十分に行きわたっていないことを示す。呼吸ができないか,心臓が止まりかけているか,薬品の中毒,などが考えられる。顔色や皮膚の色が白く,冷たく,湿った感じのときは,大出血,または心臓の動きが悪くて血圧が下がってショックの状態にあることを示す。顔色や皮膚の色が赤みをおびている場合は,血圧が高いことを示す。都市ガスによる一酸化炭素中毒,脳卒中日射病熱射病などでよくみられる。

(4)出血,きず,打撲,骨折,痛みの部位などは,全身をよく調べる。衣服をぬがせられないときは,むりをしないで,はさみなどで衣服を切る。出血があれば,まず止めることが大切である。

(5)けが人や急病人を寝かせる体位も大切である。意識があれば,本人が最も楽な体位で寝かせる。咳が出たり,息が苦しい人,胸が痛い人などは上半身を約20~30度におこした体位が楽である。顔色が青白い人は,両足を15~20cmの高さに上げてあお向けに寝かせれば,脳への血の流れがよくなる。顔色が赤いときは,頭や肩を高くして寝かせる。頭をけがしている場合や意識のない場合は,あお向けか横向きに寝かせる。吐き気,嘔吐などがあるときは,横向きかうつ伏せにし顔を横に向ける。この寝かせ方では,胃の中の物が逆流しても,また口内に唾液がたまっても,気管内に流れ込まずにひとりでに口から外に流れ出る。それで,呼吸ができなくなったり,肺炎がおきたりするのを防ぐことができる。

(6)体温を保つように心掛ける。戸外,寒い室内,寒い日に応急手当をする場合,必要以上に衣類をぬがせない。また,地面や冷たい床の上に直接に寝かせないで,新聞紙や布などをしいた上に横にさせる。大出血のある人や心臓の悪い人は血の流れがよくないので,体温が下がる。なお,ぬれた衣類はぬがせて乾いたものに取りかえるのが望ましい。保温には毛布などで全身を包んでやる。電気毛布も有用である。湯たんぽは部分的な加温効果しかないし,また接触部位に熱傷をおこす危険がある。とくに,意識のない人は湯たんぽの接触部位の熱さを訴えないので,ひどい熱傷をおこすことが多い。湯たんぽの使用は医師の指示にしたがって行う。

(7)けが人や急病人には原則として飲物や食物は与えない。ブドウ酒,その他のアルコール類も絶対に与えてはいけない。意識のない人は気管内に誤嚥(ごえん)し,窒息や肺炎などをおこす。また,頭,胸,腹,大きな骨のけが人や急病人は病院へ移送後早めに手術が行われることが多い。その際,嘔吐による胃内容物が逆流し,麻酔をかけたり,手術をしたりするさまたげとなる。また,腹部のけがでは,胃や腸が破れていることもあり,飲物や食物が破れたところから,腹の中に流れ出て腹膜炎をおこす。けが人や急病人が飲物をほしがるときは,水にひたしたガーゼやハンカチーフなどで唇をぬらしてやる。日射病,熱射病,ひどい下痢などでは,体内の水分が不足している状態(脱水症)であるから,吐き気がなければ,番茶,湯ざまし,水などを少量ずつたくさん与える。

(8)けが人や急病人は気持ちが動揺しているので,勇気づけ安心させるよう努力する。きずの状態がひどいと話したり,血のついた布とかを見せたりしない。知ったような説明をしないことも大切である。

(9)吐いた物,排出物,薬の空瓶などは勝手に処分しない。これらは医師が診断を下すのに大切な手掛りとなり,また法律上の証拠品として役に立つ。かならず医療機関に患者とともに持参する。

(10)医師または救急隊にすみやかに連絡する。その際,けが人や急病人の発生時間・場所・状況,氏名・年齢・性別,応急手当の内容,現在の病状などを要領よく正確に伝える。自分でけが人や急病人を病院へ連れて行く場合は,慎重に搬送する。重い病人は救急車で搬送をしてもらうのがよい。救急車がくるまでに,入院に必要な身の回り品や健康保険証などを準備しておく。病院へは,状況のよくわかる人や応急手当をした人が同行し,医師の質問に冷静かつ正しく答えることが,診断や治療に大いに役に立ち,ひいてはけが人や急病人の救命につながる。

 以上のような,応急手当の心得や原則をよく理解し,短時間で的確な手当ができるかどうかが,患者の容体や予後に大きく影響する。日ごろから,それぞれの病状やけがに対する応急手当の方法を知っておくことが必要である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「応急手当」の意味・わかりやすい解説

応急手当
おうきゅうてあて
first aid

卒倒したり,けがをした場合などに,専門の医師が到着するまで,または十分な治療ができる施設に収容するまでの間に,救命のために行う適切な処置をいう。外傷性ショック,心停止,呼吸停止などが認められる重篤な状態では,最初の手当てが生命を左右するので,果断な処置が必要となる。心停止や呼吸停止に対しては人工呼吸と心臓マッサージを行う。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「応急手当」の意味・わかりやすい解説

応急手当
おうきゅうてあて

救急処置

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世界大百科事典(旧版)内の応急手当の言及

【救急医療】より

…救急医療のなかには次のものが含まれる。(1)一般人が行う応急手当や救急蘇生法,(2)救急隊員が行う救急処置および救急車による患者の病院への搬送,(3)医師の診療,看護婦の介助や看護,医療従事者(放射線科技師,臨床検査技師,医療事務者など)による検査や事務手続,(4)救急医療情報センターによる情報の収集と伝達。
[救急医療の対象となる病気やけが]
 日本では,けが,やけど,その他の不慮の事故で若い人たちが死亡することが多いため,長い間,不慮の事故による患者の対策が救急医療で最も重要視されてきた。…

※「応急手当」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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