① 物事を理解したり感受したりするときの心の働きをいう。
(イ) ある事について、こうだと考えること。また、その内容。思慮。所存。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)九「説法の師を供養するときには、仏世尊のごとしといふ想(オモヒ)あり」
(ロ) こうなるだろうという予想や想像。また、こうだろうという推量。
※蜻蛉(974頃)中「かけてだに思ひやはせし山ふかくいりあひの鐘にねをそへんとは」
(ハ) 過ぎてきたことをふりかえって心に浮かべること。回想。追憶。
※
蓬莱曲(1891)〈
北村透谷〉一「今は早や、夢にも上らず、回想
(オモヒ)も動かず」
(ニ) 物事から自然に受ける感じ。感慨。また、ある気持をいだかせるような体験。
※
更級日記(1059頃)「花もみぢのおもひもみな忘れて悲しく」
※平家(13C前)三「諸人身の毛よだって、満座奇異の思をなす」
② ある対象に強く向けられる心の働きをいう。
(イ) こうしたいという願い。希望。また、こうしようという決意。「思いがかなう」
※
万葉(8C後)一八・四〇九四「大君の 御門
(みかど)の守り
われをおきて 人はあらじと いやたて 於毛比
(オモヒ)し増
(まさ)る」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)旅立「片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」
(ロ) あれこれと心を悩ますこと。心配。
物思い。また、嘆き悲しむ気持。
※万葉(8C後)一七・三九〇五「遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば意毛比(オモヒ)なみかも」
(ハ) 恋しく慕わしく感じること。また、その気持。いとしい気持。思慕の情。和歌では「火」にかけて用いられることが多い。「思いをかける」「思いを寄せる」
※万葉(8C後)三・三七二「立ちて居て 念(おもひ)そ吾(あ)がする あはぬ子故に」
(ニ) 大切にすること。また、そういう気持の強いさま、人。多く名詞の下に付いて語素的に用いる。
※
源氏(1001‐14頃)
桐壺「大方のやむごとなき御おもひにて」
(ホ) にくらしい、うらめしいと強く感じること。また、その気持。うらみ。
執念。「思いを晴らす」
※
滑稽本・
浮世床(1813‐23)初「そりゃア思
(オモ)ひがかかるはずだ。おらア聞てもがうはらだ」
(ヘ) いやな、つらい気持になること。
※歌舞伎・龍三升高根雲霧(
因果小僧)(1861)大切「日が暮れるとふるふので、燈火
(あかり)の附くのが思
(オモ)ひだよ」
③ (「物思い、嘆き」の意から) 喪
(も)に服すること。また、その
期間。
※
古今(905‐914)哀傷・八四四・
詞書「女のおやのおもひにて山寺に侍りけるを」