精選版 日本国語大辞典 「急」の意味・読み・例文・類語
きゅう キフ【急】
[1] 〘形動〙
① 事態のさしせまったさま。にわかなさま。また、いそがしいさま。緊急。
※源氏(1001‐14頃)手習「きふなる事にまかんでたれば、今宵、かの宮に参るべく侍り」
※黄表紙・江戸生艷気樺焼(1785)中「ちと急にはできかねます」 〔史記‐樊噲伝〕
② 動作、作用が前ぶれなく行なわれだすさま。にわか。突然。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※わらんべ草(1660)五「しりし事も、きうに人にとはれてはつまる物なり」
③ 気短なさま。性急。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「いとよき人なれど、いときふにこはき人になん侍る」
※侏儒の言葉(1923‐27)〈芥川龍之介〉或弁護「唯聊か時流の外に新例を求むるのに急だったのである」
④ 手をゆるめることのないさま。きびしいさま。はげしいさま。
※読本・雨月物語(1776)浅茅が宿「管領(くはんれい)これを責る事急(キウ)なりといふ」
⑤ 速度、調子のはやいさま。「急な流れ」
※太平記(14C後)二六「敵の追ふ事甚急にして」
⑥ 傾斜が強いさま。「急な坂」
[2] 〘名〙
① ((一)①から) にわかな変事。切迫した事態、事柄。→ふううん(風雲)急を告げる。
※太平記(14C後)三七「漁陽より急を告ぐる鼙鼓、雷の如くに打つづけたり」
② 急ぐこと。また、急いで行なうべき事柄。
※今年竹(1919‐27)〈里見弴〉茜雲「何か非常に急を要するものがありますか?」
※枕(10C終)二一七「調べは風香調(ふかうでう)。黄鐘調(わうしきでう)。蘇合のきふ」
④ 能の番立てや、一曲の内容や、舞などを序、破、急の三つに分けた場合、その最後の部分。
いそ・ぐ【急】
[1] 〘自ガ五(四)〙 早く目的を果たそうと心掛ける。
① したいこと、しなければならないことに早くとりかかる。また、早くしとげようとする。せいて事を行なう。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※多武峰少将物語(10C中)「『いそぎ物へまかる』ときこえ給ひて」
② 目的地に早く到着しようとする。
※土左(935頃)承平五年一月三〇日「からくいそぎて、いづみのなだといふ所にいたりぬ」
※日葡辞書(1603‐04)「ウマニ ムチウッテ 〈略〉 isoida(イソイダ)」
[2] 〘他ガ四〙 目的を果たすために処置や対応を早める。
※枕(10C終)一八四「あかつきにはとく下りなんといそがるる」
※徒然草(1331頃)四九「ゆるくすべきことをいそぎて」
② 物事を行なう準備を進める。用意する。したくする。
※宇津保(970‐999頃)嵯峨院「正月の御さうぞくいそぎ給ふ」
せ・く【急】
[1] 〘自カ五(四)〙
① あせる。いらだつ。いそぐ。気がはやる。
※虎寛本狂言・禁野(室町末‐近世初)「そなたがその様におしゃると心がせくによって、いよいよ某が目には見えぬ」
※歌舞伎・鳥辺山心中(宝永三年)(1706)「あの衆と一所に死んで死出の旅で、道連れになり話さう。構ひて急(せ)くな」
② あわてる。狼狽する。
※浮世草子・好色一代男(1682)六「其日のお敵権七様御出と呼つぎぬ。すこしもせかず、火燵の下へ隠れけるこそ」
③ 怒りや悲しみの気持が胸へこみあげる。また、嫉妬(しっと)する。
※俳諧・誹諧独吟集(1666)下「躍(をどり)ぬる夜半の面影したひ侘(わび) ほいなき夢にせく胸の中〈幸和〉」
④ 息などがはげしくなる。
[2] 〘他カ四〙 いそがせる。うながす。せかす。せきたてる。「息がせく」
※玉塵抄(1563)一「せきつどうてつづくほどに車も同みちをとをるほどに、さきの車のわのあとを又とをるぞ」
※玄鶴山房(1927)〈芥川龍之介〉五「それは丁度何ものかに『今だぞ』とせかれてゐる気もちだった」
いそぎ【急】
〘名〙 (動詞「いそぐ(急)」の連用形の名詞化)
① 急いで物事をすること。せわしさ。また、急いでしなければならないこと。急用。
※万葉(8C後)二〇・四三三七「水鳥の発(た)ちの已蘇岐(イソギ)に父母に物言(ものは)ず来(け)にて今ぞくやしき」
※徒然草(1331頃)一八九「あらぬいそぎ先(まづ)出来てまぎれくらし」
② ある行事や催しなどのためのとりはからい。準備。支度。また、準備したその行事や催し。
※蜻蛉(974頃)上「御禊(ごけい)のいそぎ、ちかくなりぬ」
※徒然草(1331頃)一九「公事(くじ)ども繁く、春のいそぎにとり重ねて催し行はるるさまぞ、いみじきや」
[語誌]平安時代の和文では多く②の意で用いられ、漢文訓読系では「経営(けいめい)」が使われた。→「けいめい(経営)」の語誌
せか‐・せる【急】
〘他サ下一〙 せか・す 〘他サ下二〙
① いそぐようにさせる。いそがせる。せきたてる。
※御伽草子・福富長者物語(室町末)「御名残は惜しう侍れども、うばにはいとま出されよ。顔のつややかなるほどに、いかなる縁も定め侍らんと、せかする」
② じらせて怒らせる。あせらせる。じらせる。
※わらんべ草(1660)三「六論とは、口をきき、口論をして云まくり、むかふのものに気をせかせてはきをひをとる」
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)三「さも深くちぎり合ことを口にいだして恥かしとおもはぬは、これまた米八に心をせかせる手くだなり」
せか・す【急】
[1] 〘他サ五(四)〙 いそがせる。せきたてる。
※評判記・色道大鏡(1678)五「わきよりこうばりのやうにいひ出、せかしまはりてあかぬ中うちやぶる事まのあたりなり」
[2] 〘他サ下二〙 ⇒せかせる(急)
せき【急】
〘名〙 (動詞「せく(急)」の連用形の名詞化) 心がはやること。あせること。
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉二「この上もなき急旅(はやたび)と思ひたるも猶ほ母の胸の急(セ)きに後れぬ」
いそが・す【急】
〘他サ五(四)〙 事を急ぐようにさせる。せき立てる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「ただいそがしにいそがして衣とりいでて着せて、そそのかし給へば」
せ・ける【急】
〘自カ下一〙 気がせく。あせっていらいらする。じれったいと思う。
※浄瑠璃・歌枕棣棠花合戦(1746)二「心かせける、早ふ早ふ」
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