(読み)あやしむ

精選版 日本国語大辞典 「怪」の意味・読み・例文・類語

あやし‐・む【怪】

[1] 〘他マ五(四)〙 (形容詞「あやし」の動詞化) 物の正体や、物事の真相、原因などがわからなくて不思議だと思う。また、変だと思ってとがめだてをする。うたがう。いぶかる。あやしぶ。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「其の僧等此の事を見て、稍や異(アヤシム)
※源氏(1001‐14頃)夢浮橋「この月ごろ、うちうちにあやしみ思う給ふる人の御事にやとて」
平家(13C前)五「秦舞陽わなわなとふるひければ、臣下あやしみて」
[2] 〘他マ下二〙
態度などにはっきりしない点があって変だと思う。変だと思ってとがめだてをする。
太平記(14C後)二四「此勢一所に集らば、人に恠(アヤ)しめらるべしとて」
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「ナニゴト ナレバ、ケシカラヌ サカナダウグノ カイヤウゾト ayaximureba(アヤシムレバ)
② 叱ったりしてひどく当たりちらす。
※浮世草子・本朝二十不孝(1686)五「我と心腹たててすこしの事に人をあやしめければ」
③ 相手を卑しいものとして応対する。
仮名草子伊曾保物語(1639頃)中「一旦栄華に誇って、人をあやしむる事なかれ」
[語誌](1)(一)は「あやしぶ」とともに平安時代初期から使用されているが、院政期頃を境に「あやしむ」が多用されるようになり、「ぶ」と「む」の交替の可能性も考えられる。平安時代にはおもに漢文訓読系の文献で用いられ、和文での使用は稀で「源氏物語」では挙例一例だけである。和文で多用される「あやしがる」と比べて、態度・言動を伴わない内面的な心理作用に用いられることが多い。
(2)「文鏡秘府論保延四年点」(一一三八移点)には「アヤシムル」という例がある。(二)の下二段活用の古い例と見ることもできるが、「あやしむ」にも古く上二段活用があったとも考えられる。→「あやしぶ」の語誌

けしかる【怪】

(形容詞「けし」の補助活用連体形)
① あやしい。異様である。えたいが知れない。
※平家(13C前)二「今はけしかるかきすゑ屋形舟に大幕ひかせ、見もなれぬ兵共(つはものども)にぐせられて」
※増鏡(1368‐76頃)一五「内には、いつしかけしかる物など住みつきて」
② いっぷう変わっていて、おもしろい。悪くはない。
※増鏡(1368‐76頃)一「これもけしかるわざかなとて、御衣(おんぞ)ぬぎてかづけさせ給ふ」

あやし‐・ぶ【怪】

〘他バ上二〙 =あやしむ(怪)(一)
※続日本紀‐神護景雲元年(767)八月一六日・宣命「此を朕自らも見行し〈略〉、怪(あやしビ)喜びつつ在る間に」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「相人驚きて、あまたたびかたぶきあやしぶ」
[語誌]上二段活用の「あやしぶ」の例が平安初期から見られ、これが四段活用の「あやしぶ」を経て、四段活用の「あやしむ」となったと推定する説がある。→「あやしむ」の語誌

け【怪】

〘名〙
① 不思議なこと。あやしいこと。
※太平記(14C後)二〇「加様(かやう)の怪(ケ)共、未然に凶を示しけれ共」
② ばけもの。
大鏡(12C前)六「怪(ク)と人の申すことどものさせることなくてやみにしは」

あや‐・む【怪】

〘他マ下二〙 (形容詞「あやし」を動詞化したもの) 怪しむ。怪しく思う。不審に思う。いぶかる。
※夜の寝覚(1045‐68頃)一「近くしのびやかならんけはひなどは、いまだ聞きもしらねば、あらずとも、え聞きもあやめず」

あやしみ【怪】

〘名〙 (四段動詞「あやしむ(怪)」の連用形の名詞化) 怪しむこと。不審。疑い。
※平家(13C前)一「貫首以下あやしみをなし、『〈略〉布衣の者の候ふはなに者ぞ。狼藉なり。罷り出でよ』と六位をもって言はせければ」

あや‐し【怪】

〘形シク〙 ⇒あやしい(怪)

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デジタル大辞泉 「怪」の意味・読み・例文・類語

かい〔クワイ〕【怪】

[名]
あやしいこと。不思議、あるいは不気味なこと。「自然界の」「古井戸の
化け物。変化へんげ。「古猫の
[接頭]漢語名詞に付いて、あやしい、うさんくさい、不思議な、などの意を表す。「文書」「人物」「事件」
[類語]不思議不可思議不可解不審奇妙面妖めんようみょうへんなぞ奇異奇怪幻怪怪奇怪異神秘霊妙霊異玄妙あやかしミステリーミステリアス奇天烈摩訶不思議けったいおかしい

かい【怪】[漢字項目]

常用漢字] [音]カイ(クヮイ)(漢) ケ(呉) [訓]あやしい あやしむ
〈カイ〉
不思議な。あやしい。「怪異怪火怪奇怪死怪談怪盗怪物怪文書奇怪醜怪
並外れている。「怪童怪腕
不思議な事柄。「怪力乱神幻怪妖怪
〈ケ〉あやしい。あやしむ。「怪訝けげん変怪へんげ
[補説]「恠」は俗字。
[難読]怪我けが勿怪もっけ

け【怪/×恠】

あやしいこと。不思議なこと。怪異。
「かやうの―ども、未然に凶を示しけれども」〈太平記・二〇〉
もののけ。たたり。
「この男も生頭痛なまかしらいたくなりて、女は喜びつれどもそれが―のするなめり、と思ひて」〈今昔・二七・二〇〉

け【怪/芥/懈】[漢字項目]

〈怪〉⇒かい
〈芥〉⇒かい
〈懈〉⇒かい

しるまし【怪/徴】

奇怪な前兆。不吉な前触れ。
「今是の―を視るに、甚だかしこし」〈仁徳紀〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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