悪し(読み)アシ

デジタル大辞泉 「悪し」の意味・読み・例文・類語

あ・し【悪し】

[形シク](「よし」に対して)物事のありさまがよくない。また、不快な感じをもつさま。
本性・本質・気分・状態などについていう。
㋐快くない。
「このもとの女―・しと思へるけしきもなくて」〈伊勢・二三〉
㋑不都合だ。
「ここには弓場ゆみばなくて―・しかりぬべしとて」〈かげろふ・中〉
容姿が悪い。みにくい。
「よき女といへど、ひとりあるは、―・しき二人に劣りたるものなれば」〈宇津保・吹上上〉
貧しい
「いかにしてあらむ。―・しうてやあらむ、よくてやあらむ」〈大和・一四八〉
㋔粗末だ。粗悪だ。
下衆げす女のなり―・しきが子負ひたる」〈・一二二〉
㋕不適当だ。ふさわしくない。
「かかる御ありきし給ふ、いと―・しきことなり」〈大和・二〉
㋖(技能などが)へただ。まずい。
「中納言、―・しく探ればなきなり、と腹立ちて」〈竹取
㋗(自然状況が)険悪だ。
「けふ、風雲のけしき、はなはだ―・し」〈土佐
(正・善に対して)よくない。不正だ。
「昔の犯しの深さによりて、―・しき身を受けたり」〈宇津保・俊蔭〉
(吉に対して)運・縁起などが凶だ。
「例の所には方―・しとてとどまりぬ」〈かげろふ・中〉
(動詞の連用形に付いて)…することがいやだ。…しにくい。
他国ひとくには住み―・しとそいふすむやけくはや帰りませ恋ひ死なぬとに」〈・三七四八〉
[補説](1) 現代語では、「よし」と対を成す形で「よしあし」「よかれあしかれ」「よきにつけあしきにつけ」などの語句の中にみられるほか連体形「あしき」の形で「あしき前例を残す」など文章語的に用いられ、また、「あしからずご了承ください」「折あしく出張中だった」のような語形に用いられる。(2) 口語形「あしい」は、中世に生じたが今は用いられない。→しい

わろ・し【悪し】

[形ク]《他より劣っている、普通以下である、の意で、一定の水準以下であるさまを表す》
程度が低い。質が悪い。よくない。
「いと―・かりしかども、…この花を折りてまうで来たるなり」〈竹取
下手である。つたない。
「この度は―・く舞うたり」〈宇治拾遺・一〉
見劣りがする。みっともない。醜い。
火桶の火も、白き灰がちになりて―・し」〈・一〉
勢力財力が衰えている。貧しい。
「その主も、もとより勢ひなく、―・き人の、無徳なる司にて」〈宇津保嵯峨院
ふさわしくない。不相応である。不適切である。
「行法も、法の字を清みて言ふ、―・し。濁りて言ふ」〈徒然・一六〇〉
不吉である。
「御宿世の―・くおはしましけるを、世に口惜しきことに申し思へり」〈栄花・玉の村菊〉
たちがよくない。悪質である。
呪詛じゅそしけるほどに、幾程なく―・き病つきて」〈沙石集・一〉
食べ物が傷んでいる。鮮度が落ちている。→わる(悪)い
「瓜を取り出でたりけるが、―・くなりて」〈著聞集一八

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android