悪態(読み)あくたい

精選版 日本国語大辞典 「悪態」の意味・読み・例文・類語

あく‐たい【悪態】

〘名〙 悪口を言いののしること。また、その悪口。にくまれぐち。あくたれぐち。あくたいぐち。
談義本当世下手談義(1752)一「かの悪対(アクタイ)とやらは少もいわで寔(まこと)男達(だて)なりし」

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デジタル大辞泉 「悪態」の意味・読み・例文・類語

あく‐たい【悪態】

憎まれ口をきくこと。悪口。あくたいぐち。「悪態の限りを尽くす」
[類語]悪口わるくち陰口誹謗謗り中傷悪口あっこう雑言罵詈罵詈雑言悪罵嘲罵痛罵怒罵面罵罵倒讒謗悪たれ口憎まれ口悪し様ぼろくそ口汚いくそみそこき下ろすけなくさそしけちを付ける難癖を付ける

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改訂新版 世界大百科事典 「悪態」の意味・わかりやすい解説

悪態 (あくたい)

他人の悪口を言うことは,広く各地の神社や寺院で行われる悪態祭・喧嘩祭などの祭りのほか,芸能や口承文芸の中に,多様な形でみられる。悪態は日本の文化や社会の構造に仕組まれた,秩序を維持するための装置(要素)の一つと考えられる。その秩序維持のために,秩序の枠からはみ出ようとする者の行為や思考を心理的に封じ込めるために,あらかじめ排除を予告する行為が悪態である。これは,相手の弱点を指摘し,それによって相手が秩序の外に出ていく意志を喪失してしまうことが意図されるため,日常的に潜在している人間の悪を露呈したり,対立的演出となってあらわれる。たとえば,悪口は言葉を武器として相手を屈服せしめ,負(マイナス)の価値に追い込むことによって孤立化させる。それを見て仲間が笑うことにより,自己が属する本来の集団の秩序の基盤を確認するという機能をもっている。悪態祭などは,日常生活では避けられている集団的対立や抗争が一時的に露呈する行為をとおして,日常の秩序の再結合と強化をはかろうとするものである。笑い講の行事やうそつき祭なども同じ範疇に属し,いわば多元的な価値観あるいは世界観の中でひしめき合う集団間の対立を,連帯の方向に調整する機能とみることができよう。
悪口(あっこう)
執筆者:

歌舞伎のしゃべる芸の一つ。相手に向かって悪口を言う芸で,いわば口喧嘩とでもいうべき言葉の遊び。歌舞伎十八番の《助六》では,揚巻が髭(ひげ)の意休に向かい,〈悪態の初音〉とわざわざ断ってから悪態をつく。揚巻ばかりでなく,助六も意休も,ほとんど登場人物全員が悪態をつく。たんかの一種で,俳優の爽快なエロキューションを聞かせると同時に,転倒的な気分を作り出す。
執筆者:

悪態をかわすことを奨励したり義務づけたりするような制度は世界のいたるところでみられる。アフリカなどでも広くみられ,人類学者が〈冗談関係〉と呼んでいるものはこの例である。冗談関係はふつう姻族や近隣に住む異民族同士のように,連帯と敵対が併存しているような人々の間に設定される。冗談関係にある人々が出会うと互いにののしり合う。他の場合であればかならず血をみるような悪罵でもこの関係においては許されるばかりか,しばしば望ましいと考えられている。これは,両価的な緊張をはらんだ関係にある人々の間の敵意を昇華させると同時に連帯感を強化する機能を果たしていると考えられている。またこれらの制度は,悪態がもつ浄化や活性化の機能に対する洞察のあらわれであろう。

 悪態は多少とも定式化して,事象の負の側面を言表する独自のジャンルをなしていることが多い。それは,否定的な様態を通じて,世界観や人間観,批評原理などを表現する。英語において,〈カンガルーのせがれ〉が悪口にならないのに対して,〈雌犬のせがれa son of a bitch〉が悪口になるのは,獣でありながら人間にきわめて近く,また食物としても認められていないという犬の位置づけのせいなのだと主張する人類学者もいる。ののしりのことばは,しばしば民俗分類語彙論への鍵を提供する。

 西ケニアのルオ族の社会では,悪態は言語表現の一つのジャンルとしてayanyiと呼ばれ,多少とも定式化している。ayanyiには三つのタイプがある。(1)相手の親の性(器)に言及するもの。この場合にはその部分の名称を口にするだけでもよい。これはもっともひどいものとされ,ふつうはこの種の表現が用いられると腕力沙汰になる。(2)相手の身体的・精神的な欠陥や好ましくないふるまいを,動植物など身のまわりの事象になぞらえるもの。〈お前の口はハイエナの口のようにみにくくゆがんでいる〉〈お前は授乳中の女みたいにがつがつしている〉〈お前の手は焼き肉みたいだ(あぶった肉が縮むようにすぐ手を閉じる,つまりけちだ)〉〈お前はイボイノシシのように忘れっぽい〉。(3)本質的には(2)と同じであるが,ことわざやなぞなぞのような表現を用いる。〈お前は盲人といっしょに食事をした者のようにふとっている〉〈お前の尻は未亡人と結婚した男の尻みたいに小さい〉〈子羊の睾丸をみた占師みたいにいらいらするな〉〈他人の真似ばかりして,インポテンツの牛(交尾の真似事をしたがる)みたいな奴〉。ルオ族の社会では,できのよい悪口がステレオタイプとなって流布するだけでなく,悪態は新しいことわざやなぞなぞが生み出される場でもある。口喧嘩もまた文化創造の場でありうる。
執筆者:

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世界大百科事典(旧版)内の悪態の言及

【道化】より

…この幕あい狂言では,村の最近のできごとなども演技にとり入れられて聖なる伝統が揶揄(やゆ)され,またふだんはしてはならない瀆聖的な行為が笑いとともになされる。そのうちに1人のカチナが,乱痴気騒ぎをしている道化たちに警告をするが,道化たちは無視し逆に悪態をつく。やがて武器を手にしたカチナたちが再登場し,逃げまわる道化たちを捕らえ泥の中に放りこみ,追い払う。…

※「悪態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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