悲劇の誕生(読み)ひげきのたんじょう(英語表記)Die Geburt der Tragödie

日本大百科全書(ニッポニカ) 「悲劇の誕生」の意味・わかりやすい解説

悲劇の誕生
ひげきのたんじょう
Die Geburt der Tragödie

ニーチェ処女作。1872年『音楽の精神からの悲劇の誕生』と題して出版され、86年「自己批判の試み」を冠した新版で、『悲劇の誕生、あるいはギリシア精神と厭世(えんせい)主義』と改題された。古典文献学の研究を土台として、ショーペンハウアーの厭世主義思想を借りながら、ギリシア悲劇成立変遷を探り、さらにソクラテス以後の主知主義の批判を通じて、ワーグナーの音楽に近代ドイツ文化におけるヘレニズム的生命の再興を期待するという内容をもつ。従来の古代観の中心にある、いわゆる調和的なギリシア的晴朗さはアポロン的仮象にすぎず、その背後に、より根源的な音楽の精神、衝動的・破壊的なディオニソス的陶酔が存在したと考えることによって、新しい力動的なギリシア観を提出した。

伊東祐之

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「悲劇の誕生」の意味・わかりやすい解説

悲劇の誕生
ひげきのたんじょう
Die Geburt der Tragödie aus dem Geiste der Musik

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ著書。 1872年刊。正確には『音楽の精神からの悲劇の誕生』。出版直後にウィラモウィッツ=メレンドルフをはじめとする文献学者の反論をあびた。処女作であるが,86年に自己批判の序文を加えて改訂再版された。ギリシア悲劇の理論として明朗なアポロ的要素と,混沌と陶酔の音楽精神としてのディオニュソス的要素とを想定し,両者統合によって偉大な悲劇が生れるとした。

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